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第十七話 疑心暗鬼

「しか、無理ね。信じがたいけど。でも、こんな状況が出来るのは、彼らしかあり得ないわ。」

「だとしたら、とんでもないことになるぞ。」


このことが事実であるなら、即刻、AIの本体を管理している会社に報告せねばならない。

だが、どのAIが何の目的で誰に向けて攻撃したのか、それが一切分からない以上、民間人が勝手に動く事など容易に不可能である。

それこそ、事実であったとするなら、国を動かす大事件に発展する可能性がある。

それほどAIと言うのは、人間の日常に浸透し、当たり前のように目の前にいるのだ。

慎重に事を進めないと、自分も危ない。

依頼を受けた時から、嫌な予感はずっとしていた。

しかし、これを見過ごしたら…。


「でも、まだ被害は出ていない。セキュリティがちゃんとしているけど…」

「そのセキュリティも突破されるのは時間の問題か。」

「その通り。私たちが操作するよりも彼らの方が圧倒的に早いわ。私の脳みそが1億個あるようなものよ。」

「打つ手無しか……。」




その時、智也と涼音の前に、四角い光が集まり画面が現れた。


「テット……?」

『智也様おかえりなさいませ。たった今、データーの解析が完了しました。』



テットはそう告げると、複数の画面を展開し、画像を見せていく。


『狐狗狸の製作者は守屋源重郎。神意智能の代表取締役社長となります。』


テットが話すと同時に1枚の写真が表示される。

そこには50代位の、スーツをきっちり着た男性の写真出会った。

髪色は白髪で、鼻下と顎に髭を生やしており、髪型はオールバックでしっかりセットされている。


『守屋氏は、2010年に長井県蝦訪市で生まれました。小学校の時から英才教育を受けており』

「待て。勝手に喋るな。」

『申し訳ありません。』

「ったく、気が利かねー奴だ。しかも、たった今解析が終わっただと?とんだ愚図だな。」

『申し訳ございません。情報源が少なく』

「言い訳は要らねぇ。お前の取柄はネットで俺が必要だと思う情報を素早く持ってくることだ。それ以外価値のない奴が、人間みたいなことを言うんじゃねーよ。」

「ちょっと!そんな言い方ないじゃない!」



ただならぬ空気に涼音が止めに入る。

智也がテットに向かって悪態をつくのはいつもの事であるが、あまりにも言葉が乱暴すぎる。



『涼音様、智也様がおっしゃられたことは事実であり、解析が遅くなったのも事実でございます。』

「だからって……。」

「テット、俺は機嫌が悪い。用があるまで出てくるな。後、俺たちの音声を勝手に聞くのも許可しない。」

『承知しました。』


テットが姿を消し、智也はパソコンに目を向けると、

涼音に腕を叩かれた。


「あんたね!あんな言い方ないじゃない!」


次に涼音が言いかける前に、智也は人差し指を口元に当てた。


「な、なによ。」

「ちょっと待ってろ。」


智也は席を外し、寝室のクローゼットの奥から、何かが入っている大きめの袋を取り出す。

かなり重いのか両手で抱えていた。


「よいしょっと。」


ソファーの後ろのスペースに置き、袋を開けると、中には鉄のパイプと銀色のビニールのようなシートがついてるテントの様な物が入っていた。

袋から取り出し、広げながら地面に置いた。


「よし。」


鉄パイプについてるボタンを押すと、鉄パイプが伸び、シートが膨らんでいく。

伸びきると、鳥かごのようなテントの様な物が出来上がった。


「な、なにこれ。」

「パソコンをそこに置いて、こいつに入ってくれ。」


側面のビニールの場所をめくると、人ひとりが通れるサイズの穴がある。

涼音は怪しみながらも、促されるままに入っていった。

中は頑張れば3人ほど入れそうなテントの空間となっている。

案内されるがままに、腰を下ろす。

智也も入ると、入口部分に丁寧にシートを重ねる。。

触ると、アルミホイルのような感触だった。


「よし、これなら大丈夫だろ。」

「ちょ、ちょっと。一体何なのこれ…。」



智也も腰を下ろし、涼音に向かい合った。



「こいつは電波を遮断できる特別なシートだ。何かを盗聴されたくない時にはこいつを使う。」

「盗聴…?なんでそんな物持ってんの…?」

「知り合いから譲り受けた。とにかく、こいつで覆っておけばあいつも入って来れない。」

「あいつ?」

「…テットだ。」

「テット?何で…。」


そう言いかけて涼音はハッと気が付く。


「まさか、テットが盗聴してるって言いたいの…?」

「涼音。こいつは、とんでもない事件だ。AIがネット上でデバイスを攻撃出来るウイルスを作り、不特定多数にばらまいている。今は大事になっていないが、あいつらの学習速度はとんでもない。」

「それは、そうだけど…。」

「もしそいつらが、テットを使って俺たちの情報を見てるとしたら?」


涼音は背筋が冷たくなるのを感じた。

と、同時に自分がハッカーとして仕事をしているのに、なぜその可能性に気が付かなかったのかを後悔した。


「じゃあ、さっきのって」

「あれ以上の情報は慎重に取り扱う必要がある。俺の予想が正しければテット自身に盗聴の自覚は無い。だから引っ込ませた。」

「それだけじゃないでしょ?」

「……何がだ?」



涼音は智也の顔を見つめ、微笑を浮かべる。


「テットを守ろうとしたんでしょ?」

「はぁ?なぜ俺が。」


智也は本当に訳が分からないと言った様子で涼音の目を見る。

涼音は変わらず微笑し、


「あー、はいはい。じゃあ、それでいいわよ。」

「……なんだそりゃ。」


頭を掻きながらため息をつく。

涼音が笑っていう事は多々あるが、智也には一切理由が分からなかった。


「んで、これからどーすんの。」

「ん、ああ。そうだな…。」


智也は胸ポケットから手帳を取り出す。

数ページ捲ってから少し考え、手帳を閉じた。


「あいつにコンタクトを取る。何か知ってるかもな。」

「え。マジ?」

「涼音、さっきのデーターを書面で纏めてくれ。データーのやり取りだと不安だからな。」



伝えた後に、涼音の顔を見ると、苦虫を嚙み潰したような明らかな嫌悪の表情をしていた。



「…どうした?」

「いや…うーん、なんでもない。なんでもないけどねー。」



涼音は大きなため息をつき、腰を上げた。



「しょうがない。あんたのためにやるわよ。あんたのためにね!」

「お、おう?」


涼音はそういって頬を膨らませると、シートを出て、パソコンで作業を始めた。



「なんであたしが、あんな奴の為に…」



何かブツブツと話しながらも、手は止まらない。

その様子に疑問を持ちながらも、智也はスマホでとある連絡先に電話を掛けた。


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