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第25話 九回目の初めまして・後編

『…………』


 何のことかしら? と澄ました顔をしているけれど、視線を微妙に合わさないところを見ると確実に何かあったのね。私の体で? うーん、寝ている間?


『レイチェルの体は使っていないわ。……少し話をしただけよ』

「え?(でもカノンの姿って──)」

「俺はレイチェル様、貴女に忠誠を誓う。この先、剣と盾となり貴女様の敵を屠ろう」

「ひゅっ」

「ほう……」


 騎士が剣を捧げる儀式と同じように傅き、誓いを告げたのだ。私は唐突な主人扱いに照れてしまう。傍にいたダレンの纏っている空気が氷点下まで下がったのに気づいたのは、その数十秒後だ。


「ダレン? シリルは味方よ?」

「……わかってはいるのですが、こうなんだかフツフツしますね。うまく言語化できないのがさらに腹立たしい」

「そうなの? シリルと相性が悪いのかも?」

『単なる嫉妬でしょう』


 カノン様はサラッと答え導き出すのだから、流石だわ。ダレンは自分の新たな感情に戸惑いつつも「これが恋愛小説にたびたび出てくる……スパイス的な感情」と興味深げに自分の感情を理解しようとしていた。それは別に良いのだけれど、問題は──。


「ダレン、どうして後ろから抱きしめているのでしょうか?」

「……分かりませんが、こうしていると、とても落ち着きます」


 途端に警戒レベルを最大限引き上げた猫のよう。それにしてもダレンは意外と感情的というか、嫉妬深いことにも驚きだわ。いつも飄々として、あまり執着するタイプには見えなかったもの。


『執着するぐらい好かれているってことじゃない』

「ひゃう……カノン様。耳元で囁くのは狡くないですか?」

『狡くないわ』

、貴女様にも、レイチェル様と同等の誓いを」

「え」


 私とダレン以外に、カノン様が見えている!? 

 シリルの発言に思わず固まってしまった。


『レイチェルを守ってくれるのなら許可するわ。でも、私にあまり話しかけないほうが良いわよ。他人には見えていないのだから、変な目で見られるでしょう』


 私は心の病気的な扱いされているのは、政治的にも都合がいいからなのよね。ダレンはその辺りは空気を読んでいるから、カノン様に声を掛ける時は場所を選んでいる。

 シリルは理解が早く、理由はわからないけれどカノン様のことを特別視……ううん、好いているようにも見えた。


 も、もしかしてカノン様に惚れているのかも。これは以前カノン様が話していたキシャカイケンと言うものを開いて、カノン様に問い詰めるべき案件では? 自分の恋路は疎いけれど、他人であれば興味が湧くし、憧れの恋バナというのもしてみたい。


「シリル。大変だと思うけれど、私は応援しますわ」

「……レイチェル様! 感謝します」

『レイチェル』

「レイチェル様が、わざわざ応援などしないでいいのです。……私のことは一度も応援してくれないではないですか」


 後ろから抱きしめていたダレンは落ち込んだような不貞腐れた声で囁く。その声音にドキリとしてしまうのと同時に、苦笑してしまう。自分の恋の応援……うーん、なんて言えばダレンに伝わるかしら?


 チラリとカノン様に助けを求めるが、こういう時のカノン様は助けてはくれない。自分で答えを出すように、と言われているかのようだ。手厳しい。でもその厳しさは、同時に私ならできると思われているのなら悪い気はしないし、なんとかしよう勇気が出る。


「……ダレンは応援する前にサクッと終わらせてしまいますし、恋愛の応援をするにしても当人同士なのだから、《応援》というよりは、一緒に……そうデートをするほうが良くないですか?」

「──っ、なんだか今日のレイチェル様はいつも以上に可愛らしくて、愛おしく感じます。なぜでしょう?」

「私に聞かれても? んー」

「んーーーーー」


 私とダレンは思考を早々に放棄して、シリルと話しているカノン様に視線を向ける。最初は流されていたけれど、根負けしたのか『あーーーーもう!』と叫んだ。


『領地に戻ったらイベントごとを増やすから二人でデートをして一緒に遊んで、話をして一緒に考えて答えを二人で出しなさい』

「カノン様……(なんだかんだ言って取っ掛かりは作ってくれるのよね)」

「カノン殿はなんだかんだ言って、世話好きですな」

「ねー」

『そこ、黙りなさい』


 こんな風に少しだけ等身大のカノン様らしい発言をすると、なんだかホッコリする。

 話が大幅にズレてしまったけれど、シリルに《森羅万象の魔女》のことを根掘り葉掘り聞きまくり、国を追われた話もディルクたちと一致。話は順調だったが、そこでカノン様はある疑問を問うのだった。


『従者の中に祖国と通じている裏切り者がいて、シリルの死を見届けるよう命じられている可能性はあるかしら?』

「可能性は十分にあると思う。『伝承や言い伝えは完遂すべきだ』と、一族の御老体たちがいいそうですし、そう言う国民性だったからな」

「ふむ。……しかし帝国の保護国となった今も同じような扱いなのでしょうか? 疑問が残るところですね」


 カノン様とダレンの言う通りだわ。亜人族を含めた奴隷売買を禁止にしたのも帝国だった。そんな帝国が介入しないでいるだろうか。


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