目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第27話 全てはイベントの中に・前編

 シリル以外に外部と繋がっている間者いるかどうか。これは罠を仕向けつつ、様子見することで話がついた。既にグォンという前例があるので、シリルには辛いことだけれど、残る従者と身内にも警戒する旨は伝えた。

 それと同時に襲撃者や暗殺者の懐柔作戦も進める。この辺りは生活環境と仕事内容の充実感が重要だわ。


 話を詰めた結果、さっさと領地に戻ることに。シリルの容態は万全ではないけれど起きて動けるので、馬車でその日のうちに移動を開始。

 カノン様のアイディアで、移動中の薬の補完場所をディルクには馬車の奥にある麻の袋、フウガには御者の傍にある木の箱、ランファには荷車の宝箱とそれぞれに「誰も知らない貴方だけに伝えておく」と話す。これで何か目論んでいたら、その保管している場所の薬がなくなっている、あるいはリアクションを起こすかもしれない。と他にも幾つか罠を張っているらしい。

 私はすぐに顔に出てしまうから、と教えて貰えなかった。ぐすん。

 でも、適材適所よね。うん。


 ディルクは老兵といっているけれど髪やお髭が長いだけで、外見は四十代に見える。今は騎士服に着替えて髪や髭もある程度整えて、武器や装備も新調した。ロングソードと槍を武装したら貫禄が増した。カノン様曰くイケオジ枠らしい。

 フウガは従者見習いとして白いシャツに紺のサスペンダー付きの黒ズボン、ブーツと垢抜けた格好をしている。相変わらず無口だけど仕事はキッチリとこなしている。主にランファのフォローが大きいけれど。


 そんなランファは、黒と白の侍女服で可愛らしい。外見は十歳ぐらいだから、お手伝いって感じがしっくりくる。彼女には貴族のマナーなど学んでもらっているが、進捗はあまりよろしくない。ただ危機感知や天候を読むことができるので、今度はそちらのほうを伸ばしていくほうが、良いのかもしれない。


 現在王都を出て街道を進んでいるのだけれど、シリルは薬を飲む時間と急変時の対応のためという理由で、私とダレンのいる馬車に乗り、ディルク、ランファ、フウガが後ろの馬車となっている。御者はダレンが手配してくれたのだけれど、お尻が痛くないように、クッションや色々工夫してくれていたことに感動したものだ。

 お尻が痛くならないって素晴らしい。


「それにしても空間が拡張されているのか実際よりも広く感じるのは、ダレン殿の魔法なのか?」

「そうです。お前のような男がレイチェル様の隣に座るなど到底許せないので、少し空間を拡張させることにした」

「(そんな理由でとんでもない魔法を使ったのか……)それは手間をかけさせた」

「(そういう理由だったの!?)……広くしてくれてありがとう。とっても快適だし、クッションもすごく嬉しい」

「もっと言ってください。なんならご褒美を増やしても良いと思うのですよ」

「あはは……」


 シリルと私はダレンが規格外な存在だったというのを、今更ながらに実感する。ちなみにシリルは私には興味はなく、私の隣にいるカノン様に対してソワソワしている様子だった。なんて分かりやすいのかしら。尻尾も揺れているし。


 服装もゆったりとした寝間着から騎士服に身を包んでいる。紺色のコートも中々に似合っているわね。病み上がりではあるが、本人の希望で病人ではなく騎士として側仕えしたいとか。本心は自分の体を休めることよりも、カノン様と同じ空間に居たいだけなのでは?

 ダレンは知的でクールな印象が強かったけれど、シリルはやっぱり騎士って雰囲気がぴったりだわ。最近ハマっている恋愛小説を愛読している私には、片思いしているシリルが眩しく映る。そんなシリルと目が合った。


「今さらかもしれないが、どうして俺を助けようと思ったのか聞いてもいいだろうか? こちらの事情にも寛容な上に戦力として期待されているのは現段階なら分かるが、俺が子供の姿であれば、その選択を取るのは些か違和感がある」

「それは……」


 私は少し悩んだが、グレンとカノン様は私に判断を任せてくれたので話すことにした。死に戻りと言っても理解されないかもしれないが、それでも未来予知や予知夢だけでは納得しないだろう。


「──という訳で、九回目の死に戻りをした私は何度か貴方に助けられたの。その強さも素晴らしいものだったけれど、私にとっては恩人だったから……今回はどうにか出来るのでは、と思って動いたわ。完全に私のお節介なのだけれど」

「九回も……死と再生を繰り返して……」


 シリルは、にわかには信じられないと言った顔をしていたが、色んなものを飲み込んで「信じる」と言い切った。


「あっさり信じるなんて……ちょっと意外でしたわ」

「……そりゃあ普通なら正気を疑うだろうが、異形種に花音様の存在を見せつけられたら、信じざるを得ない。そもそも呪詛をこんなん短期間に除去できるなんて、竜人族の媒介による呪い移しぐらいだからな」

「ん?」

『あら』

「なるほど」


 ポロッと溢した言葉に、全員の視線がシリルに向けられる。詳しく聞くと『呪い移し』と言うのは、カノン様の言っていた方法に近かった。ただ条件が竜人族というのが引っかかる。


「これは仮説なのだけれど、今までの死に戻りではランファが片目を犠牲にしたことで、シリルが生き残ったのではないかしら? そしてシリルはその衝撃と生命の危機に進化覚醒した……」

「それはあり得るでしょうね。亜人の上位種による覚醒条件は、痛みを伴うものだと聞いたことがありますので」


 ダレンも八回までの死に戻りで気づいたのだろう。でもそれならどうしてシリルとランファは喧嘩別れをしたのか。それもグォンが?


「ランファが俺のために片目を……。まあ、アイツならあり得るか。妹のようなもので、今回の国外追放も無理やりついて来たからな」

「グォンとディルクは、最初から護衛として? フウガって子は?」


 大人組は思惑がありそうな気がするけれど、ランファは純粋にシリルを助けたかった……もしかして片思い的な? やだ、これって三角関係という恋愛もののあるある展開!

 そうだったとして、それじゃあフウガって子は?


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?