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第43話 第二王女レジーナの視点1

 第一王子であるエドアルトお兄様は、ローレンツ兄様を支持する貴族の一人の手によって、殺された。毒殺だった。文武両道で優しいお兄様。王太子として忙しいのにも関わらず、よく私とお茶をして時間を捻出してくださったのだ。


 ただそこにいるだけで周囲が笑顔になり、幸福な気持ちでいっぱいになって、一瞬にしてエドアルトお兄様の虜になる。《|全《オール・》魅了ファ・サ・ネイ・シャン》というらしく、私は兄様から死の間際に贈物ギフトの劣化版である《|魅了《ファ・サ・ネイ・シャン》》を受け継いだ。

 エドアルトお兄様がいれば王国だけではなく、帝国いいえ全ての世界を統一することも可能だったけれど、その思考と、贈物ギフトの使い方が恐ろしすぎるという理由で殺したのだと供述した。

 理不尽すぎる理由だ。

 エドアルトお兄様は、その贈物ギフトを最大限に生かして、王国から争いを根絶やしにしていった。本気の本気で平和な国を作ろうとしていたのに、あまりにもアッサリとエドアルトお兄様の天下は崩れた。


 毒で死ぬ寸前、一番傍に居た私の目を見てエドアルトお兄様は、最後に私に祝福呪いを与えたわ。「レジーナ。君が、次の王になるんだ」と。

 自分のしたことは正しかった。自分こそが王になるべきだ。その証明を私にさせようと、そういう類いの祝福を授けた。だから私が使えるのは《|全《オール・》魅了ファ・サ・ネイ・シャン》の劣化版、《|魅了《ファ・サ・ネイ・シャン》》だけ。

 エドアルトお兄様の贈物ギフトが完璧に近いものだったからこそ、お兄様は毒殺された。この世界には魅了に抗う、狂信的な思想を持つ人間がいることを失念していた。私は同じ轍を二度踏むつもりはない。


 美しく、優しかったエドアルトお兄様。今も氷の棺の中で眠っている。お兄様を蘇らせるために悪魔とも契約を結び、一定数の贄を与え続けた。数年がかりで計画している疫病や魔物の大量発生もその一つであり、私の名声を上げるための重要なものだ。

 エドアルトお兄様が目を覚ました時に、褒めて貰うため。そして世界を私たちの思うままにするため──亡くなったお兄様と同じ年齢までには必ず蘇らせますから、それまでお待ちくださいね。

 ああ、でも一日も早く、お会いしたいですわ、お兄様。


 美貌と《|魅了《ファ・サ・ネイ・シャン》》と、《|存在感《カリスマ》》を得て、妖精女王ティターニアとして頭角を現した頃。第一王女であるアリアーヌ姉様は、王位継承権を早々に放棄して極東国の領主トウリョウである御仁と、駆け落ち同然で王国を去った。

 本当に頭の回転が速く、勘が鋭い。第二王子ローレンツ兄様と私が、玉座を狙っていることにいち早く気づいて一抜けしたのだから。


 ああ、できるのなら手駒にして、ちょうど良い時に切り捨てようと思ったのに。でも厄介なのは、亡国の王家の血筋なのよね。


 エドアルトお兄様の魅了は、無意識下でもお兄様にとって有益になるように動く。そんな贈物ギフトが無効化した犯人は、あのローレンツ兄様の側近だった。自分の主人のために、魅了を打ち破る強靱な精神の持ち主。そんな存在を作り上げるローレンツ兄様のカリスマと血筋は、どう足掻いても王位継承権序列第一位にふさわしい。けれど第二位があの末姫レイチェルというのは、納得がいかなかった。

 第五王女レイチェル。

 王城の片隅で静養していた末の姫で、かつて王妃だった亡国の王女の忘れ形見。

 カリスマらしい品格も、才能もない。血筋だけで序列第二位だというのだから、腹が立ったものだわ。


 だから王城にいる時は、ほんの少し嫌がらせをした。ちょっとした鬱憤晴らしだった。そうしている間に、末姫は自室に引き篭もって本を読んでいるという。

 これで王位継承序列も落ちると思っていた。それなのに──。



 ***



 王族の食事部屋でそれは起こった。皿縁近くに描かれている紋様は神代文字で毒を無効化する効果がある、その程度の皿だったのに、末姫レイチェルの一言で大きく変わった。


「神々に今日の恵みに感謝を込めて──いただきますレツ・イート


 小さく呟いた瞬間、末姫レイチェル皿の上にあった料理が唐突に温かくなったのだ。まるでできたてのよう。


「これは……レイチェル。今呟いたのはなんだ?」


 珍しく国王陛下お父様が関心を持ったらしく、末姫レイチェルに声を掛けた。私ですら直接声を掛けられたことは多くない。そこで少し腹立ったが、それよりも驚いたのは、まだ十歳にも満たない末姫レイチェルの言葉だった。


「……お皿の上に書かれた言葉を読んだだけです」


 その言葉に全員がざわついた。傍に居たローレンツ兄様も目を見開いている。


「レイチェル。皿の? まさかこの文字が読めるのか?」

「はい……お父様」

「まさか解毒以外に、食事が温かくなるとは……!」


 王族の食事は毒無効化する皿があるといはいえ、完全ではないので何人もが確認をして食べる。そのため冷たくても美味しいという前提で作られる料理が多い。それなのに、この皿の本来の効果は料理を温かくするというのだから、反則的だ。

 神代文字を読み解けるなんて狡すぎる。今さっきの言葉だけで、国王陛下お父様やローレンツ兄様の見る目が変わったもの。ああ、本当に腹立たしい。

 血筋だけで序列第二位だと思っていたのに、神代文字を読めるだけでも利用価値が大きく変わる。ローレンツ兄様の陣営に入ったら面倒だわ。


 だから策を練って、私を神聖化して聖女に仕立てる計画を立てた。それはあのローレンツ兄様にもできなかったこと。後方支援者パトロンを至る所に配置して、各陣営の状況を逐一報告するように蜘蛛の糸を垂らしてきた。

 悪魔たちも退屈だったのか、私の誘いに乗って来たおかげで私の地位は盤石になる。その時には、虐めていた末姫の心が折れたと報告が入った。決定的だったのは静養で、カエルム領地に向かうことがわかった時だ。あの時は、お腹を抱えて笑った。

 勝ったと、そう思っていたのに──。



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