第一王子であるエドアルトお兄様は、ローレンツ兄様を支持する貴族の一人の手によって、殺された。毒殺だった。文武両道で優しいお兄様。王太子として忙しいのにも関わらず、よく私とお茶をして時間を捻出してくださったのだ。
ただそこにいるだけで周囲が笑顔になり、幸福な気持ちでいっぱいになって、一瞬にしてエドアルトお兄様の虜になる。《|全《オール・》
エドアルトお兄様がいれば王国だけではなく、帝国いいえ全ての世界を統一することも可能だったけれど、その思考と、
理不尽すぎる理由だ。
エドアルトお兄様は、その
毒で死ぬ寸前、一番傍に居た私の目を見てエドアルトお兄様は、最後に私に
自分のしたことは正しかった。自分こそが王になるべきだ。その証明を私にさせようと、そういう類いの祝福を授けた。だから私が使えるのは《|全《オール・》
エドアルトお兄様の
美しく、優しかったエドアルトお兄様。今も氷の棺の中で眠っている。お兄様を蘇らせるために悪魔とも契約を結び、一定数の贄を与え続けた。数年がかりで計画している疫病や魔物の大量発生もその一つであり、私の名声を上げるための重要なものだ。
エドアルトお兄様が目を覚ました時に、褒めて貰うため。そして世界を私たちの思うままにするため──亡くなったお兄様と同じ年齢までには必ず蘇らせますから、それまでお待ちくださいね。
ああ、でも一日も早く、お会いしたいですわ、お兄様。
美貌と《|魅了《ファ・サ・ネイ・シャン》》と、《|存在感《カリスマ》》を得て、
本当に頭の回転が速く、勘が鋭い。第二王子ローレンツ兄様と私が、玉座を狙っていることにいち早く気づいて一抜けしたのだから。
ああ、できるのなら手駒にして、ちょうど良い時に切り捨てようと思ったのに。でも厄介なのは、亡国の王家の血筋なのよね。
エドアルトお兄様の魅了は、無意識下でもお兄様にとって有益になるように動く。そんな
第五王女レイチェル。
王城の片隅で静養していた末の姫で、かつて王妃だった亡国の王女の忘れ形見。
カリスマらしい品格も、才能もない。血筋だけで序列第二位だというのだから、腹が立ったものだわ。
だから王城にいる時は、ほんの少し嫌がらせをした。ちょっとした鬱憤晴らしだった。そうしている間に、末姫は自室に引き篭もって本を読んでいるという。
これで王位継承序列も落ちると思っていた。それなのに──。
***
王族の食事部屋でそれは起こった。皿縁近くに描かれている紋様は神代文字で毒を無効化する効果がある、その程度の皿だったのに、
「神々に今日の恵みに感謝を込めて──
小さく呟いた瞬間、
「これは……レイチェル。今呟いたのはなんだ?」
珍しく
「……お皿の上に書かれた言葉を読んだだけです」
その言葉に全員がざわついた。傍に居たローレンツ兄様も目を見開いている。
「レイチェル。皿の? まさかこの文字が読めるのか?」
「はい……お父様」
「まさか解毒以外に、食事が温かくなるとは……!」
王族の食事は毒無効化する皿があるといはいえ、完全ではないので何人もが確認をして食べる。そのため冷たくても美味しいという前提で作られる料理が多い。それなのに、この皿の本来の効果は料理を温かくするというのだから、反則的だ。
神代文字を読み解けるなんて狡すぎる。今さっきの言葉だけで、
血筋だけで序列第二位だと思っていたのに、神代文字を読めるだけでも利用価値が大きく変わる。ローレンツ兄様の陣営に入ったら面倒だわ。
だから策を練って、私を神聖化して聖女に仕立てる計画を立てた。それはあのローレンツ兄様にもできなかったこと。
悪魔たちも退屈だったのか、私の誘いに乗って来たおかげで私の地位は盤石になる。その時には、虐めていた末姫の心が折れたと報告が入った。決定的だったのは静養で、カエルム領地に向かうことがわかった時だ。あの時は、お腹を抱えて笑った。
勝ったと、そう思っていたのに──。