目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第44話 第二王女レジーナの視点2

 数カ月後。

 お茶会と称した情報交換場であり、私のファンクラブの面々が集まって、私に忠誠と貢ぎ物をよこす。週に一度の大事な日。

 しかしいつもなら部屋に入りきれないほどの殿方がいたというのに、今日は集まりが悪いのか、半分しか来ていなかった。


(私よりも大事な用でもあるの?)

「ああ、レジーナ様。今日も美しい!」

「ありがとう。ルーグ子爵」

「レジーナ様、この間言っていた薔薇の花束です」

「まあ、宝石をちりばめて。嬉しいですわ。ダリナ男爵」

(そうそう。こうやって、ちゃんと私のことを愛してもらわないと)


 腹立たしく思いながらも、にこやかな笑みを浮かべて挨拶をしていく。《|魅了《ファ・サ・ネイ・シャン》》を適度にかけ直しておかないといけない。王都の教会も口利きで顔出しをしていたけれど、最近は効きが悪い。

 対策でもしているのか、なんだか以前よりも距離が遠く感じるのよね。やっぱり寄付の額を下げたかしら? それでも十分な額だと思うのに、それにも腹が立ってきたわ。


 お茶会、パーティーに感じた違和感は、今日だけではない。ここ最近、後方支援者パトロンの集まりが悪いだけでなく、貢ぎ物も減った。一番ダメージが大きかったのは、奴隷売買の一斉摘発だわ。ペーターが派手に動きすぎたのが原因だったけれど、問題はどさくさに紛れて、私の護衛騎士に入れようとした奴隷たちの存在が、国王陛下お父様にバレたことだ。


 忌々しいことに武器屋ウルエルドが、商品の横取りを恐れて手を打っていたのだろう。その武器屋は早々に王都を出て、カエルム領地に拠点を構えた。

 ペテリウス伯爵が没落したのといい、あの領地に末姫レイチェルが移り住んでから、歯車が大きく歪んでいく。私の計画が一つ一つ崩れて、情報収集においても鮮度と正確さの維持が難しくなった。


「(奴隷売買の件は全ての責任をペーターに押しつけたから、なんとか後任せたけれど……)あー、腹立たしい。ねえ、アヴァル。アナタの力で何とかできないの?」


 七大悪魔の一角を担う強欲アヴァルは白銀の髪の美しい美少年姿で、私に甘い。だから期待を込めて見たのだ。

 彼は、少しだけ困った顔で微笑んだ。


「無理だね。少なくともあの《魔導書の怪物》が今回ばかりは、本気であの娘に心酔している。対価がどのようになっているのか不明だが、『第五王女を殺す』や『害する』命令を私にするのなら、少なくとも君の兄君を蘇らせるぐらいの対価が必要となる」

「なっ……。あんな血筋だけの娘が!?」


 思わず声を荒げてしまった。容姿も外見も私が勝っているのに、消すが難しいなんて。後方支援者パトロンに強請って、暗殺や嫌がらせをするようにお願いしたのに、誰も彼も返り討ちになっている。その上、報復が苛烈だとか。どんな対価を払ったら、異形種を動かせるのか。

 どうしてあの女に人が集まるの?

 ああ、腹立たしい。クラーラ・ハニッシュ公爵令嬢には、婚約者の侯爵家の養子エドウィンを奪うように命じていたのに、今じゃ目に映る異性が全て侯爵家の養子エドウィンに見えるとか、頭が可笑しくなった。他の貴族たちも、レイチェルが立ち上げた《プリスタ商会》との取引関係で、下手に動けないとか。

 教会とも共同経営をしているせいで、こっちも迂闊に潰すと民衆からの支持がガタ落ちする。大体の貴族はローレンツ兄様、ランドルフ兄様、ペーターと私がそれぞれ支持を得ていたけれど、圧倒的にローレンツ兄様に軍配が上がっていた。だからこそ聖女として民衆の支持を集める作戦を考えていた。

 それが今、末姫レイチェルに奪われつつあるのだから、忌々しい。


「血筋だけで序列二位のくせに……!」

「血筋だけと侮ってはいけないなぁ。カエルム領地でなかなか奮闘しているようだよ」

「毎週、中央広場でイベントを開催するなんて愚かなことだわ」

「お言葉ですが、レジーナ様。七日に一度、ロイヤルマーケットなる出店や簡素ながら舞台を用意しており売り上げも右肩上がりだとか。野外劇、クイズ大会、ミス・コンテスト、力自慢大会など出し物を変えて、観光客だけではなく、地元住民も七日に一度の日を楽しみにしていると聞き及んでおります」

「次は教会と提携したイベントがあるとか、王都にまで話が聞こえてきております」


 耳障りな情報ばかりが集まってくる。どこもかしこも末姫レイチェルの話ばかり。


「いいねぇ。その苛立った感情、極上の嫉妬も美味しそうだ」

「……ナイト」


 紫の髪のエキゾチックの偉丈夫姿の彼は、七大悪魔の一角を担う嫉妬ナイトだ。妖艶で色香のある彼は珍しく、興が乗ったのか舌なめずりをしていた。


「ナイトならなんとかできるのかしら?」

「んー、僕自身は無理だね。《魔導書の怪物》とことを構えるなんて、面倒だし。それに今は教会が悪魔封じ書グリモアを使って、契約離反する悪魔狩りをしているんだ。慎重になるのは当然だろう」


 また《魔導書の怪物》の名前。たかが魔導書のくせに悪魔たちはどうして、ここまで警戒しているのかしら。理解できないわ。奴隷売買の一斉摘発の次に、悪魔狩りなんてふざけているわ。それでなくともペーターを切り捨てて、収入が減ったのも痛手だった。


「じゃあ、どうすればいいのよ!」

「僕が動くのなら、たーーくさんの対価が必要となる。でも、今回はある人物を動かした時に、どうなるのか。僕はそこに興味がある」

「ある人物? どなた?」


 ナイトの瞳がキラリと輝いた。ああ、なんて美しいのかしら。


「噂では女神がレイチェル陣営に降り立ったとか。それで音楽の神が定めた66の歌を超える67番目を披露するんだって。だから、音楽の神が新しい曲を認めるのか、あるいは殺すか。興味ない?」


 悪魔らしい笑みを浮かべたナイトに、私の口元も緩んだ。


「まあ。それは素晴らしい提案だわ。一気に楽しみになったじゃない」

「だろう。僕も音楽の神が嫉妬するのなら見てみたい。きっとすごく美味しい味がするだろうし。どうせなら、新しい女神が儚く消えて、絶望する姿を見たいなぁ」


 悪魔は楽しいことが大好きで、飽き性だ。でもそれは私も一緒で、ドレスも宝石だって一度身につけたら興味が薄れるのだから。

 それに捨て駒ラグが、私のために面白い情報を手土産に来たのだ。やっぱり私は付いているわ。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?