七日に一度のロイヤルマーケット。それに付随してイベントを行っているけれど、単なる余興ではなく、悪魔的な計算され尽くされたものだった。
まず野外劇は、風刺系でカエルム領地を舞台に、伯爵の横暴を救った
次にクイズ大会を開催し、それぞれ特化した分野の知識を持つ者を集めて、
ミス・コンテストは、新しいデザインやファッションを広めるための
『あの貝殻の砂は石けんや、肥料に使うのよ。人を雇って潰すよりも、こういうイベントにしてしまったほうが最終的に安上がりなのよね。人件費はバカにならないもの』
カノン様はそう言ってのけたのだ。確かに古い古文書に貝殻には、いろいろな用途があると書かれていた。でも知識としてあっただけで、実用に落とし込むに至らなかった。
「『知識だけあっても、思い至らないなんて……まだまだだわ』と、落ち込んでおられるのですか?」
「ひゃ!?」
寝室のベッドに腰を下ろしつつ、メモ帳を見返していたらダレンが突如現れたので、心臓が飛び出しそうになった。いつも思うけれど、唐突に空間転移するのは辞めて欲しい。
しかもいつもの紳士服ではなく、すでにお休みモードのパジャマで、頭に帽子も被っているではないか。今までは睡眠にあまり興味がなかったらしいけれど、九回目からは違うらしい。
九回目、ダレンの婚約者になってから、スキンシップも増えたし、お互いに少しは慣れてきたと思う。眠る前にギュッとするのも、なんだか凄く安心する。
キスも増えて、デートも重ねて、会話もすごく増えた。特に話題などは本に偏っていたのが、嘘のように色んな話をする。季節や次のイベント、行きたい場所や、やりたいこと。
「次のロイヤルマーケットで、聖女として認知させるため歌を歌うのでしょう」
「はい……それも緊張するけれど、改めてロイヤルマーケットや、イベントを計画立案した発想が凄いって、思っていたのです。カノン様はいつも突拍子もないことを言い出しますけれど、でもよく考えたら、それに近しい知識なら、私も知っている物だったりして……。私にはもっと知識を上手く使うよう、発想の柔軟さが必要だなって思ったのです」
ダレンの膝の上に座りつつ、自分の足りない部分を話す。以前のように悲観して落ち込むだけに比べれば、少しは成長しているとは思いたい。
「カノン殿は根本的に規格外ですからね。それについて行こうとするレイチェル様も、普通に人間と比べれば規格外かと」
「そう?」
「ええ」
思えば、ダレンとカノン様の話をすることも増えた。でもカノン様と二人で話をすることや、恋バナらしいことをしていない気がする。そういえば以前、カノン様に教えて貰って、やってみたいと思っていたイベントがあるのだ。思い立ったら、即行動。ここはレイチェル様の行動力にあやかろう。
***
「ということで考えてみました。パジャマパーティーを開催します!」
『唐突ね』
「にゃははは~パジャマパーティーってなんです!? とりあえず寝間着で集まるようにいわれたけど、これであっていますか?」
カノン様はなんだかんだ言いながら、ワンピース風の寝間着姿で現れてくれた。ランファは動きやすいように上下セットのカラフルな寝間着だった。スカートではなくズボンというのが彼女らしい。
開催場所は三人が寝泊まりできる客間だ。この日のために夜食系のスイーツなども用意している。まずはソファに座りながら、誰が好きなのかなど恋バナをしようと意気込む。特にカノン様とシリルとの進捗具合とか、ランファはディルクとフウガとの三角関係など聞きたいことがある。
そんなウキウキした気持ちだったのだが──。
「どうしてダレンがいるの?」
「パジャマパーティーなのでしたら、参加できるかと思いまして」
「それはそうかもしれないけれど! ここは女子同士でお話をしたいというか……」
ごにょごにょと語尾が小さくなっていく。カノン様が以前話していた《女子会》なるものだと、言っておけば良かっただろうか。
『ダレン。今回のパジャマパーティーは女子専用なのよ。だから、今日は遠慮して貰えるかしら?』
「(さすがカノン様だわ!)そ、そうなのです。女性同士で恋バナをして、キャッキャうふふをしたいのです」
カノン様の反撃に全力で乗っかる。ランファ様は「どっちでも良いにゃははは~」と暢気なので放置。ダレンは「女性限定なのですね」と意味深な言葉を告げた途端、大人しく引き下がった。珍しい。
『なんだか嫌な予感しかしない』とカノン様が呟いていたが、私の耳には届いていなかった。