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第46話 パジャマパーティー

 気を取り直して恋愛トーク開始。まずはカノン様にシリルのことをどう思っているか聞いてみた。


『シリル? 私とレイチェルの騎士でしょう』

「カノン様。ここには本人もいませんし、盗聴防止魔道具を展開していますから、本心を語ってください!」


 いつもはぐらかすので、今日ばかりは本心を聞こうと身を乗り出す。ちょっと淑女らしくないけれど、この際カノン様の本心を聞くのが大事だもの。

 近いようで遠いカノン様のことを知りたい。


『レイチェル。私はもう死んでいる人間で、いつ消えるか分からないのよ。それに恋愛している時間は──』

「私だって領主代行として、忙しいですがダレンのことを考えて、一緒の時間を取りたいって思っています。大切な時間は作るものですわ!」


 きょとん、と目を見開くカノン様は次の瞬間、吹き出した。


『ああ、ええ。そうね。……ふふふふっ』

「カノン様?」

『こんな風に、言い返されるなんて、ちょっと前なら思わなかったから』

「あ」


 指摘されて気づく。九回目の死に戻りをしてから、ううんカノン様と出会う前ならこんな風には考えられなかったし、パジャマパーティーなんて考えなかったわ。


「それでどうなのです?」

『あら、今ので流されなかったのね』

「もちろんです」


 今回はカノン様が白旗を揚げる。なんだか初めてカノン様に褒められた気分だった。


『前世、私の世界では、あんな風に私を守ろうとする人も、真っ直ぐな言葉を告げる人もいなかったわ』

「え。カノン様のような素敵な女性を……守らない殿方なんているのですか?」

『ええ。もしかしたら、守ろうとしてくれていたのかもしれない。告白はあったけれど、私には打算と下心ばかりで、恋がよく分からなかったのよね。まあ、アイドルは恋愛禁止だったし、私も恋愛より音楽やダンスのことばかりだったもの』


 カノン様が自分のことを語る時、懐かしさと少し困った顔をする。そこには後悔や未練があるように感じられた。道半ば。そんな思いが伝わってくる。


『そんな訳だからシリルからのアプローチは、嬉しいけれど……今までの人と全く違うから、対処が難しいの。でも私が少しでも応えたら喜ぶでしょう? それで彼の士気が上がるのなら良いと思うのよ』


 そう言うけれどカノン様の耳は真っ赤になっていて、照れているようだった。その姿がとっても可愛らしくて、是非ともシリルに見せてあげたい。

 カノン様はいつも凜々しく格好良くて、一人でもなんでもできてしまう──そう見えてしまう。隙がない。隙がないようにしている気がする。不意に気を抜くと足を引っ張られるとか、気が抜けない場所に居続けていたら、私のように引きこもるか、戦い続ける形になるのかもしれない。その前に心が壊れてしまう可能性もあるか。


 失敗してきた過去の私を振り返って、思うことがあった。どっちも間違いではないけれど、逃げ続けて心を閉ざしたらダメだし、戦い続けて心を疲弊させ過ぎてしまうのもダメだ。ほどよく気を抜く場所がないと、長期決戦ではそれこそ心も体ももたない。

 カノン様とダレン、マーサ、セイレン枢機卿、ウルエルド様、シリル、ディルク、ランファ、フウガ……色んな人たちと出会って少しずつ、世界が広がっている気がする。


「それで! カノン様はシリルが好きなのですか!?」

『あそこまで熱烈に求められるのは悪くは……ないけれど』

「まあ(カノン様が可愛い!)」

「じゃあ、デートすると良いと思うのです~」

「そうです! デートはとっても凄かったですわ。こう普段一緒にいる時とは、また違った一面が見られてドキドキしました」


 ランファと私が詰め寄り、カノン様は少しだけ後ずさる。二対一。分が悪いと思ったのか、早々にカノン様は降伏した。


『そうね。デートは少し難しいだろうから、お茶をする機会ぐらいは増やしてみるわ』

「はい! きっと喜びます」

「私もディルクもデートしたくて、買い出しや任務で一緒になろうとするのですが、フウガが邪魔をするのです。むぅ」


 今度は三角関係だ。ランファはディルクが好き、でフウガはランファが好きという三角関係なのだけれど、ディルクは誰が好きなのだろう。


「ディルクに告白は?」

「……しましたけど、しばらくは特別な人を作りたくないって」

『彼は悪魔関係で色々あったものね……』

「そうなのです〜〜」

「ちなみにフウガのことは──」


 ランファの話が始まろうとした矢先、ノックの音が。凄く嫌な予感しかない。

 案の定、扉を開けると、ダレンとシリルが女装していた。女子会、つまり女性らしい服装なら、と考えたダレンに私は頭を抱えた。黒と深緑色のナイトドレスと、なかなかにエレガントな装いだわ。


「悔しいけれど、すごく似合っている」

『レイチェル……』

「ハッ! 見惚れてしまいました──って、ダレン、その格好はどうしたのです!?」

「これなら条件をクリアしていると思うのですが、いかがですか?」

「と……とてもよくにあってます」

「ありがとうございます」


『女装で良かったんじゃないの? ダレンなら最悪性転換とかしそうよ』とカノン様の言葉に、確かに思いついたらやってみそうな気がする。それにしても、ダレンの女装。大人っぽい。なんだか女として、負けた気分……。


「でもダレンは、いつもの姿のほうが素敵です」

「それは嬉しいお言葉です」

「──っ!」


 花が綻ぶような笑顔に、なんだか新しい扉が開きそうになった。好きな人の笑顔ってこんなにインパクトがあるのね、と実感するのだった。


 ちなみにシリルは白のワンピースに、髪を三つ編みにしてなかなか頑張っていたけれど、骨格が男性なのでザ・女装感が半端なかった。カノン様は少し楽しそうに笑ってからかっていたので、少しだけ不憫に思ったりした。


「さあ、それでは存分に私の話をしてください」

「ダレン……(え、恋バナをする横で本人がいるって、なんの拷問!? 公開処刑的な感じなのでは?)」


 そう思ってダレンに視線を向けるが、目を輝かせてこちらを見ている。貴方、魔導書の怪物っていう恐れられる存在なのですよね!?

 どう見ても期待を胸にした純粋な青年にしか見えないのだけれど! 


『もしかしてこの間貸した、【偶然、彼女が女友達とカフェでお茶をしているときに、隣の席で居合わせて疑っていたことが勘違いだった……というシーンがやりたい】とか』

「ふっ、さすがカノン殿。よく分かりましたね」


 本当にカノン様、よく分かりましたね。凄いです。そしてなんてピンポイントな恋愛本を貸しているのですか。私もぜひ読みたいです。


「──って、ダレン。そのシチュエーションは、相手が気づいていないという所がポイントでしょう。目の前にいながら恋バナは……恥ずかしくて言えないでしょう」

「にゃははは~、私は全然気にしないですぅ」

「ランファ……」

『私は嫌ね、だってフェアじゃないもの』

「カノン様? ええっと?」

『せっかくなのでディルクたちを呼んで、王様ゲームをしましょう』

「カノン様!?」


 悪ノリしているときの顔だわ。でも何故かしら「オー様ゲェム」という単語がなんだか楽しそうだわ。ダレンもそれに気づいたのか目がキラキラしている。その姿になんだか私も口元が緩んでしまった。


 その後、ディルクやフウガを巻き込んだ「オー様ゲェム」は大いに盛り上がった。途中で趣旨を完全に理解したダレンが本気で総勝ちを目指して、私に王様からの命令を行使する展開に。

「3番は好きな相手の好きなところを挙げる」とか「5番は婚約者もしくは思い人を褒める」など二人きりならまだしも、周りに人がいるのになんてことを聞いてくるの!


「レイチェル様は私のことが大好きなのですね」

「……そうよ。悪い?」

「──っ、いえ。嬉しいです」


 最後はダレンが満足そうに笑っていたので、これはこれで貴重だと口元がほころんだ。たまにはこんな風に話すのもありかもしれない。そんな風に思ったりもした。


「カノン様から、ハグして欲しいです」

『王様、趣旨を理解してないでしょう』

「そんなことはない。……1番が王様にハグする、これで問題ない──」

「私が1番なのですが、どこを剥ぐようにすれば?」


 あの時のダレンの顔は怖かったわ。シリルも珍しくケモ耳が震えていたし……。まあ最終的にカノン様に慰められていたから、役得なのかな。

 ランファたちは……うん、途中から飲み比べになって……カオスだわ。クカカという苦い薬草を煎じたお茶を誰が一番多く飲めるか……。どうしてそんなことをしたのかしら。その後は私が眠くなってしまって記憶がないけれど、ダレンの独特な香りと温もりに包まれて意識を手放した。



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