その夜。
彼の訪いにも慣れたもので、侍女たちは抜かりなく仕事をして退室している。
彼女たちは「本日も私たちの
(もしや昼の出来事について、なにかおっしゃるのでは)
皇帝・
険しさも怒気も見受けられないが、例えば「華山派と微妙な空気になったのは皇妃のせいだ」なんて言われたり?
(……いいえ。おそらく、責めたりは……なさらない)
最近、
夫は
杯を傾ける仕草は、猛獣が安らぐかのような優雅さを湛えていた。
伏せた目元に長い睫毛による影ができている。それが、なんとも色気を感じさせた。
同時に、その影に
彼という青年は、思えば皇帝という特殊すぎる身分ゆえに、その心をありのまま他者に見せることがない。
…… 彼が話題にすることがないとしたら、こちらから。
華凛は盃に酒を注ぎ、言葉を選んだ。
「お、おそれながら……」
「ん?」
滄月の視線が向けられる。
切れ長の瞳にたたえられた光は、やはり好意を感じさせる。
「妻が話しかけてくる」という出来事を歓迎しているように思える。
だから、
「謁見の際は……わたくしが……も……」
「遠路はるばる訪ねてきた恩人たちとの時間だったのに、わたくしがなんだか怪しまれてしまったようで、そのせいで変な空気になってしまって申し訳ございません」といった内容を伝えたいのだが、言語化が難しい。
しかし、言い出したからには、とりあえず最後まで言おう――、
「もうし……んっ、う?」
「申し訳ございませんでした」と続けようとした唇が滄月のそれで塞がれて、
吐息が肌に熱くかかる。
唇の隙間から舌が差し出されて、
誘いに応じるように唇を少し開けば、舌が口腔へと侵入してくる。
深い口付けは、言葉よりも雄弁に彼の愛欲を伝えてくるようだった。
「…………はぁっ……、ン……」
――気持ちいい。
口の中の柔らかな部位をなぞられ、夫の大きな手に後頭部を包まれて、恍惚となっていく。
話そうとしていた内容が甘い口付けに溶けて忘れてしまいそうになってきたころ、夫は
「
「い……いえ……けれど、……」
言い募ろうとする彼女の頬を、するりと指が撫でる。
「そなた、俺に口答えをするのか」
「あ……」
細められた瞳は、面白がるような色を帯びていた。
「そなたは可愛らしいな。俺の学びの成果を、披露してしんぜようか?」
「は……い……?」
「いや……それは、まだ早いな……」
問いの意味を探る間もなく、
滄月の腕に抱え上げられ、
仄かに灯された燭台の光が揺らぎ、甘やかな薫香が漂う中、ふわりと身体が
「本日は色々あって疲れただろう。休むがよい。俺も寝る」
夫はそう言って、