「
「まあ……道士様も、体調を崩されるのですね……」
「修行中の方ですし、仙人様みたいにはいかないのでしょうね」
雲がふんわりと空を覆う朝。
「こちらの白い羽扇と牡丹の花は、主上からの贈り物です。愛されておいでですね、
薄紅の牡丹の花弁は、中心に向かうほど深い紅を帯び、先端へ行くほど淡く透けるように色がほどけていく。
柔らかく幾重にも重なる可憐な花は、陽の光を受けてふんわりと輝いていた。
侍女の
「聞いてくださいまし。昨夜、
「しょ、書物?」
「はい!」
侍女の
好意でいっぱいの笑顔に、
明るく親しげに自分の心を伝えてくれるから、安心して「こちらも返そう」と思える。
「あ、あの……う、
「うふふっ、
「ええ……っ?」
その姿には愛嬌があって、憎めない。
侍女たちが「まあ、
そんな和やかな雰囲気の中、声がかけられる。
「ご滞在中の華山派の道士殿から、
「まあ。ど、どちらかといえば、わたくしがお見舞いの品を届けるべきではないかしら……なにかしら?」
侍女たちがひらひらと衣の裾を翻し、対応する。運ばれてきたのは、籠だった。
贈り主は華山派の道士の中で目立っていた、あの
(だ、大丈夫なのかしら……? わたくしが見たあのもやもやした影は、体調不良と関係ないのかしら?)
贈り物の文には、少し弱々しい筆致の文字が綴ってあった。
『先日の無礼のお詫びに、吉兆をもたらす
「あら。お山の道士殿がどのような希少の品を贈ってくるかと思えば、小鳥さんですかっ?」
侍女たちが袖を口元に当てて頷き、年かさの侍女が明るく
「
「お……贈り物は、……お気持ちが大事、だと、思いますわ。わ、わたくしは……お詫びのお気持ちを、嬉しく……思いますの……」
白い羽扇を手に取り、先端を籠に向けると、侍女が察した様子で蓋を開ける。
「ぴぃ、ぴぃ、ぴぴ!」
すると、中から、小鳥が飛び出した。
鮮やかな羽を持つその鳥は、最初は驚いたように羽を上下に羽ばたかせ、
「きゃあっ」
「窓を閉めて! 逃げてしまうわ」
ぴいぴいと囀りながら飛び回った
「まあ……可愛らしいわ」
意外に人に懐いているようで、逃げる様子がない。
それどころか、心地よさそうな顔をしているように見える。
「さすが
「これだけ人がいるのに、迷わずにお妃様に懐くのだからすごいわ」
「鳥にも高貴な方がわかるのね」
侍女たちがきゃっきゃっとはしゃぐ中、ぱたぱたと息子の
「わああーー! とりだーー!」
三歳の皇子が興奮で目をきらきらさせて
「殿下っ、転んでしまいます。調度品にぶつかってしまいます。危ないですわ」
「よ、
侍女たちがあたふたと皇子を落ち着かせようとする。
小鳥はしばらく幼児を警戒するように飛び回っていたが、しばらくしてパタパタと降りてきた。
侍女たちは鳥と幼い皇子を刺激しないようにそろりそろりと動き、お茶とお菓子を差し入れてくれる。
ほんわりとした湯気がいい香りを
「よ……
「はぁーいっ! あのね! ぼくね!」
息子の声は元気いっぱいだが、今度は鳥が逃げなかった。
慣れてきたのかもしれない。順応力に優れた鳥だ。
「おなまえ、ちゅけう」
鳥は賢そうな目で
「あ、あのね、
「はいっ、おかあさま~っ!」
小さな手は人差し指だけをちょこんと出して握られた。
そして、
「さわっちゃ」
「触れましたわね、
「やーらかい」
「柔らかいですわね」
よかった。優しく触ることができている。
「ぼく、このとり、おなまえ」
「ええ、ええ、お名前をつけますのね」
「しゅじゃく!」
「しゅじゃく……というお名前にしますのね」
息子は嬉しそうに「うん!」と言い、何度も鳥の名を呼んだ。
こうして贈り物の
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「ほう。道士が贈り物を。そして、しゅじゃくと名付けたのか」
皇帝
「謝罪とは殊勝な心構えである。よいだろう。そして、名前は――俺が思うに、俺の子は『
皇帝の推理は妃の