このところ溜まってるんだよなぁ。
スケベな意味じゃないんだけど、溜まってんだ。
いろいろと、な。
俺はいわゆる特殊な体質で、
まぁ、特殊って言葉で片付けていいかはわかんないけど、
ストレスが溜まると一緒に、
身体に電気が溜まってしまう体質なんだ。
えっと、一応なんだか、
人体実験みたいなことはされたことがある。
よく覚えてないけど人攫いにあったのかな。
小さすぎて覚えてないけど。
で、そこでいろいろいじくりまわされて、
いや、麻酔かけてたから痛いとかってことはなかった。
いじられた後にぼんやりしてたなぁって程度。
意識がはっきりしてきたら、実験して、
俺の身体はストレスと一緒に電気を溜める体質になった。
こんなことを言うと、人道的じゃないとか何とか言われる気がするけれど、
施設の生活はおおむね快適だったし、
俺のこの特殊体質もなんかの役に立つのかなぁと思ってた。
施設にはいろいろな体質の子供がたくさんいて、
また、施設の大人たちもいろんな体質持ちだった。
よくわかんないけれど、
生きているだけいいかなと思った。
ご飯は美味しかったしみんな仲良かったし。
人体実験に関しては、
失敗して死んだという話は聞かなかった。
聞かなかっただけかもしれないけれど、
施設の顔見知りが突然いなくなったということはなかったし、
技術の裏付けがあっての人体実験だったのかなと思う。
俺はあの施設を好意的にとらえている。
とにかく幸せな場所だったんだ。
俺が思春期を過ぎようという頃、
施設は突然終わりになった。
今まで資金を出していたところが、
資金を出してくれなくなったらしい。
どこが出していたかはわからないけれど、
資金がなければ施設は続けられない。
研究も続けられない。
施設のみんなは解散ということになった。
特殊能力は隠しなさいと施設長から言われた。
この施設の外は、特殊能力がない人であふれている。
特殊能力があると言うだけで殺されるかもしれない。
そうでなくても幸せに暮らせなくなるかもしれない。
みんなを最後まで幸せにできなくてすまなかった。
不自由な世界に投げ出してしまってすまない。
この世界に役立つ研究をしてきたつもりだったけれど、
幸せに、できなかった。
施設長はそういって泣き出した。
みんなで泣いた。
施設は解散になって、
俺たちはみんなバラバラになった。
俺は電気を溜める体質を隠したまま、
施設が最後に作ってくれた戸籍で、
とある街で普通の人として暮らしている。
施設を出て本当にみんな特殊能力がないことに驚いた。
施設はきっと、このたくさんの人たちにも、
役立つ能力をつけてあげる研究をしていたかったんだろうなと思う。
施設の外のみんなは、あまりにも力がない。
みんなが施設のみんなと同じくらいいろんな能力を持っていたら、
施設の外のみんなも、施設と同じくらい幸せになっていたんだろうなと俺は思う。
施設の外はストレスにあふれている。
施設の外のみんなは優しくなくて余裕がない。
それが普通らしいけれど、
俺はそのストレスに馴染むことができずに、
身体の中にストレスと電気を溜め続ける。
人の来ないような場所で時々放電していたけれど、
ある時大規模停電を引き起こしてしまってから、
うかつに放電もできなくていろいろ溜まってしまっている。
施設はあんなに快適だったのにとか、
どうして施設の外のみんなは仲良くできないんだとか、
特殊能力を持っていると幸せになれないらしいこととか、
いろんなことを考えて、
考える度に身体に電気が溜まっていく。
考えること自体がすでにストレスなんだなぁと思う。
ストレスを上手く解消もできないまま、
いろんなものが溜まっていった。
ある時、住んでいる街を歩いていると、
犯罪に出くわした。
高価な物を置いてある店を壊して金品を奪う、強盗というやつだ。
俺の中で何かがぷつりと切れた。
施設の外ではこんなことがまかり通っているのが許せなくなった。
許せないと思ったら、
今まで溜めていたストレスなどもぐるぐる渦巻いて、
俺の中の電気が渦巻いてこらえられなくなった。
頭の中で放電せよとわめいているようだ。
ああ、してやるさ。
あいつらに向かって放電だ。
俺は強盗たちに向けて放電。
溜まった電気はすさまじいものだった。
俺はそれなりスッキリしたけれど、
地域一帯が停電した。
暗闇に紛れて逃げよう。
逃げながら考える。
これから度々放電していった方がいいなと。
とりあえず犯罪するものに向けて。
特殊能力を持たないみんなを、
守れるようになれたらいいなと考える。
この街が施設のように、
居心地いい場所になれればいいなと思う。
そのために、俺は放電をしようと、今決めた。
特殊能力があるんだから、
それをこっそり使っていくのはいいと思うんだ。
笑顔あふれる街にしていこうと俺は決めた。