あなたには愛想がない。
無愛想と言うより表情がない。
いつも真顔で考えが読めない。
笑った顔を見たことがない。
悲しんでいる顔も見たことがない。
何かに怒っているのも見たことがない。
声もあまり聞いたことがない。
あなたは何もかもに無愛想を貫いたまま、
世の中全てと距離を置いている。
私はそんなあなたが気になった。
どうしてそんなに距離を置くのだろうか。
まるで、あなたはすべての存在に、
近づいてはいけないと考えているように見える。
とにかく私はそう見える。
私はあなたがどうしてそうしているのかが気になった。
気にかかったのだから仕方ない。
あなたが迷惑かもしれないけれど、
私はとにかくあなたに笑ってほしいと思った。
私の感じ方だと、笑うと幸せになる。
バカバカしいことと笑ってほしいと思ってしまったのだから仕方ない。
私はあなたを笑わせようと決意した。
あなたは誰とも会話しない。
挨拶すらしない。
気配も感じさせないように歩いて、
いつの間にかいて、
また、気配を消したままその場から去る。
誰とも話さないし、会話に加わることもない。
私は、あなたが一人になったときに、
大きな声で挨拶をした。
とにかく驚かせてみようと思った。
声くらいは上げるかなと思った。
あなたは眉一つ動かさずに、
私を無視して去っていった。
こんなことでくじける私ではない。
私は決めたらしつこいんだ。
私はとにかくあなたに話しかけた。
どんな話題が引っ掛かるかわからないので、
ありとあらゆることに対応できるよう、
かなりの時間を情報収集に費やした。
あなたは本を読むかもしれないので、
超高速でたくさんの本を読んだ。
音楽が好きかもしれないので、
最新から古いものまでたくさん聞いた。
スポーツ観戦が趣味かもしれないので、
スポーツの見所などを調べたうえで、
試合結果やハイライトなどを網羅して覚えた。
私にはたくさんの知識や趣味が集まった。
それらすべてを駆使しても、
あなたの興味を引くことはできなかった。
あなたにはたくさんの話題を話しかけた。
あなたはいつも眉一つ動かさずに去っていった。
あなたを笑顔にするような話題は何かないだろうか。
私はぼんやり考える。
そんな私に誰かが話しかけてきた。
最近誰もいないところに向かって色々話しかけているけれど、
もしかして何か見えているのか、と。
私は驚いた。
愛想のないあの人がいるではないかと話す。
誰かは、もしかしたらと画像を出す。
画像はあの人だった。
もしかして幽霊だろうかと私は思った。
誰かの言うことには、
近くの施設で霊体の実験をしていて、
人工で魂が作れないかという実験をしていたらしい。
人と同じような意識や魂が作れれば、
人工知能を飛び越えて、機械の身体だけど魂の入っている存在ができるらしい。
ただ最近、その施設から実験霊体がいなくなってしまって、
その霊体の仮の姿が画像のそれであるらしい。
実験霊体には感情がない。
霊体なので見えないものがほとんどだ。
私はたまたま見ることができた。
あなたは、実験霊体だったんだ。
私はあなたを探した。
私はあなたが見える。
あなたに話しかけられる。
実験霊体と言うあなたは何を感じていただろうか。
不安ではなかっただろうか。
苦しくはなかっただろうか。
私はあなたを最初に見つけた場所で、
また、同じようにあなたを見つけた。
あなたは、微笑んだ。
そして、
私から色々なことを学んだと言った。
それは、あなたを笑わせるための話題だろうか。
それとも、必死になっている私の姿だろうか。
誰かのためという心だろうか。
とにかく、あなたは私からたくさんのことを学んだらしい。
そのすべてが凝縮して、あなたの笑顔になった。
あなたは言う。
これで私は魂になれる。
意識を持って、魂として存在できる。
あなたが私を生きるものにしてくれた。
ありがとう。
あなたはそう言って、滑るようにその場から消えていった。
消滅したのでなく、多分施設に帰ったのだ。
ほどなくして、人間のような感情を持ったアンドロイドが開発された。
人工知能では届かなかった領域にまで達しているという。
私はその発表の会場になんとなく足を向けた。
アンドロイドは人間のようにみんなに手を振っている。
アンドロイドが私に向けて大きく手を振って笑った。
ああ、あなたが笑っている。
私は満足した。