ドキドキしながら箱を開ける。
なんだ、何もないじゃないか。
私はとりあえずがっかりした。
こんなことはよくあることだ。
私は、他人に肩書を言う時には、
不思議ハンターと言っている。
まぁ、いろいろな資格をたくさん取ってはいるのだけど、
それらは私の仕事の一部に過ぎない。
私は不思議ハンターとして、
世界各地の不思議と言うものを調べている。
不思議とされる根拠は何なのか。
科学で説明できない場合、霊的なものとして説明はつくだろうか。
不思議と言う曖昧なものでなく、
不思議とされているものに一本の筋を通して解体する。
解体したうえで、再構築して、
いろいろな角度から不思議を分析しなおす。
私のあらゆる資格は不思議をしっかり分析するためのものであり、
また、不思議と言うものに近づけるためのものである。
いわゆる学術的な権威の資格も持っている。
権威があると、トップシークレットの不思議にも触れられる。
権威はフットワークとしては時々不自由になるけれど、
いわゆるアマチュアの一般人としては、
触れられない不思議と言うものもある。
都市伝説レベルで、国家が隠している不思議と言うものもあるらしいし、
それらを調べるには、やっぱり色々な肩書が必要になるし、
偉くなるというのも必要になる。
不思議ハンターはいろいろな資格が必要だ。
さて、今回の不思議は、
丘だと思っていたら大きな墓で、
その中に誰かが埋葬されていた、
そんな発見からの不思議だった。
考古学の学者がまず調べに入ったらしい。
まぁ、妥当な線だ。
そのあとで、私のところに話が来た。
考古学では説明できない不思議があったらしい。
学者は不思議を不思議と認められない。
なんとか学問で説明しようとして、行き詰まってしまう。
不思議と言うものは、学問だけで解析できるわけでない。
特に、専門分野だけで不思議にあたると、
理解不能で終わることもある。
とにかく、不思議が私のところに持ってこられたのはありがたい。
私はとにかく現場に向かった。
丘の横に発掘現場があった。
どうやら横穴を掘って入ったらしい。
不思議ハンターだと名乗ったところ、
あの御高名なと言われた。
特に、考古学や宗教の方では、
不思議ハンターの私の名は高いものとして有名らしい。
それはそれとして、今回の不思議のことを聞く。
この遺跡はどう考えても何百年以上ここにある。
この付近の歴史を調べたけれど、
この丘は丘としてずっとあり続けていて、
ここに誰かが住む前からずっとここにある。
まずは誰の墓かがわからない。
そして、この遺跡の中が不思議だと言う。
まずは入って欲しいと言われて、
私は案内に従って中に入った。
墓の中は清浄な空気で満ちていた。
清められた神社などの聖域のようだ。
墓の中には棺があり、
それはガラスのような透明なものだ。
中には人が横たわっている。
外で聞いた限りでは何百年も経過しているはずだということだが、
棺の中の人は、ただ眠っているように見える。
なるほど、これは不思議だ。
私は棺の周りや墓の中に書かれたものを解析しようとする。
かなり古い言語ということがわかり、解読ができた。
この巫女の病が治る時が来るまで
棺は開けてはならない
おおむねそんな意味合いのことと、
巫女と言う棺の中の人の病状が記されていた。
医学知識も持ち合わせているから、大体病気の原因も特定可能だ。
治せる確信を得たところで、
さらに壁に書かれている古代文字を読む。
巫女が目覚めれば世界は調和する
巫女のそばにある箱に入っている猫も目覚めさせて欲しい
確かに、棺のそばには箱があって、
その中では猫が丸くなっていた。
私はとにかく巫女を治療すべく、
壁に書かれた手順で棺を開けて、
まだ眠っている巫女に治療を施した。
現代医学ならばすぐに治る類のものだ。
やがて巫女は目覚めて、
隣の箱から猫も目覚めさせた。
彼女たちの時間が動き出す。
巫女は世界を調和させる力を使おうとして、
何も起きないことに気が付いてオロオロした。
世界を調和させる力の源はわからないけれど、
巫女を眠らせることと、眠り続ける間の生命維持に使われたか、
あるいは、巫女の能力が時間とともに失われていったのかもしれない。
箱の中に巫女はいたけれど、
それはいたって普通の女性と猫になっていた。
不思議は、箱を開けた途端不思議でなくなってしまった。
まぁ、よくあることだ。
あの遺跡はよく調べられているらしい。
そのあたりは考古学の仕事だ。
巫女だった女性は、現代社会を学んで、
今では私の助手をしている。
猫もよく懐いている。
さて、今度はどんな不思議を調べようか。
不思議ハンターの仕事はまだまだありそうだ。