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第203話 奥さん事件です

奥さん、これは事件ですよ。


私は探偵だ。

有名な探偵などは、殺人事件なども調べたりするらしいけれど、

私はしがない私立探偵で、

もっぱら浮気調査などが主な仕事だ。

たまに、人探しもする。

いろいろな理由で探されているようだけど、

とにかく依頼料がもらえれば、しっかり探す。

それが探偵の仕事と言えば仕事だ。


さて、今回の依頼人はとある奥さん。

ご主人の浮気調査をして欲しいらしい。

ご主人の最近の行動から浮気を疑っているらしく、

帰りが遅いとか、

衣類からしらない匂いがするとか、

あとはスマホを見せてくれないというのもあったが、

スマホは個人の情報の詰め合わせみたいなものなので、

配偶者であってもそうそう見せるものではないだろうなと私は思う。

とにかく、ご主人の足取りを追うことを約束して、

手付金をいただいて仕事が決まった。


ご主人の写真を見せてもらって、

ご主人の職場を張り込む。

ご主人は役職持ちであるらしい。

どうやらかなり偉いらしい。

黒塗りの高級車で出かけていったり、

出かけた先もどこかの会社で、

やはり偉そうな誰かと握手をしていたりする。

会社名と顔から検索をかけて調べてみると、

偉そうではなく、間違いなく偉い人だった。

ご主人はどうやらあちこちの大きな会社にコネがあり、

偉い人とよく会っているらしい。

だとしたら、帰りが遅いのはその会合だろうか。

そのあたりも調べるべく、私は張り込みを続ける。


張り込みをして数日、

ご主人が向かう会社のリストができてきた。

私なりに考えるが、これらの会社が、

もし同盟のようなものを組むようなことがあれば、

この国の経済がひっくり返るかもしれないと思う。

同業種だけでなく、いろいろな業種の会社に赴いている。

それらの会社の得意なものをつなげていくと、

とんでもないものができそうな気がする。

それは、この国をひっくり返すほどの新技術だ。

その技術があればすべてがひっくり返る。

そんな意味で、経済がひっくり返ると私は思う。

大企業が大企業でいられなくなるほどの代物だ。

株価などはとんでもないことになるかもしれない。

ご主人は浮気などしていない。

出かける先はいろいろな会社の重役との会合だ。

そこでこの国を変えるほどのことが話し合われているとすれば、

これは、ある意味事件だ。


私は、調査結果を奥さんに提示する。

すべていろいろな会社役員との会合であり、

浮気の可能性は低いとの見解を示した。

奥さんは写真を食い入るように見ている。

浮気につながるようなことがないのになぜだろうか。

奥さんは調査結果の写真をもらって、

調査費用を満額支払って探偵事務所をあとにしていった。

私はなぜか引っ掛かりを覚えた。


私は、再びご主人を張り込んだ。

警備員とも話すようになり、

ご主人のことを聞き出した。

ご主人と思われていた会社の重役は現在独身。

奥さんはずいぶん前に亡くしたらしい。

だとしたら、あの奥さんは誰なのだろうか。

いろいろな会社の重役と会っている写真を食い入るように見ていた奥さんを思い出す。

もしかしたら、

ご主人と思われていた会社の重役が、

いろいろな会社とともに大きなことをしようとしている、

その証拠が欲しい誰かが、あの奥さんなのではないだろうか。

あの奥さんは、奥さんではなく、

大きな権力を持った誰かなのかもしれない。

私立探偵の私に期待などはしていなかったと思うが、

会社重役と会っている写真が取れたことで、

あの女性は何かしらの確信を持ったのかもしれない。

これはもしかしたら事件かもしれない。

とんでもないことに首を突っ込んだのではないだろうか。


しかし、あれから私のもとには日常を変えるようなことは何一つない。

すべては私の思い過ごしだったのだろうかと思う。

人探しや浮気調査やいろいろな調査をしつつ、

暇な時にはテレビをつける。

最近テレビには、あの時調査したご主人と思われていた男性が出ている。

今日のニュースでは、ある会社と業務の提携を結ぶとか。

それは大きな出来事らしい。

ぼんやり見ていたら、あの時の奥さんが出ていた。

どうやら提携をする会社の女社長だったようだ。

してやられたなぁと私は思う。


私立探偵のもとに、そんなに事件は来ないけれど、

時々こんなこともある。

世の中を動かすような大きな事件は手に余る。

探偵はただの市民だ。

多分これからも善良な一般市民だ。

ほどよく仕事があればそれでいい。


テレビの中の奥さんだった人は微笑んでいる。

事件ですねと私は笑った。

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