走り出したら、情熱って止まらないんだよなぁ。
今ひしひしと感じてる。
俺は疲れた会社員。
メンタルやられるほどじゃないけれど、
毎日家と会社を往復して、
仕事でヘトヘトになっている疲れた会社員。
一応ブラックではないとは思うけれど、
とりあえず疲れている。
家に帰ったら適当なもので腹を満たして、
シャワーだけ浴びてとにかく寝る。
毎日がぐったりとしている疲れた会社員だ。
休日は体力を回復させることだけに費やしていて、
とにかく季節も何もない生活を送っていて、
ある夜、ネットを見ていたら、
小説投稿サイトを見つけた。
ああ、なんか聞いたことがあるなとは思った。
小説投稿サイト発でコミックになったとかアニメになったとか、
なんとかかんとか。
どうやら小説投稿サイトもいろいろあるらしい。
ふーん、などと思いながら適当に眺める。
適当にサイトを開き、
なんとなくで小説を読む。
別のサイトも開き、なんとなくで読む。
いくつか繰り返しているうちに、
脳裏をよぎる記憶。
あれは学生の頃。
友人に自作の小説を読んでもらった記憶。
こんなの書けるんだ、すごいなと言われた記憶。
そのうえで、主人公がどうしてこうなったんだとか、
この設定はどう生かされるんだとか、
突っ込んだこともたくさん聞かれた。
俺はいい気になっていたものだから、
友人に小説の設定をたくさん話す。
友人はすげぇを連発しながら、
俺と友人は壮大な物語を描いた。
結局壮大過ぎて、学生時代には完結しなかった。
あの時の友人とも連絡を取っていない。
俺は、小説投稿サイトを開きながら思った。
あの時友人と語り合った小説ならば、
ここでてっぺん取れるはず。
俺と、あの友人が作り上げた壮大な物語で、
絶対天下が取れる。
俺もいい加減疲れた会社員だけど、
小説を書きたい、それだけを思った。
完結できなかったあの物語を、
絶対に完結させる。
そして、俺と友人が作った物語のすごさをみんなに知らしめてやりたい。
壮大な物語を描くだけならば誰でもできるかもしれない。
俺が考えた最強の物語というものだったら、
誰の脳内にもあるものかもしれない。
それでも、俺はあの頃小説を書いていた。
学生のあの時のように、小説を書けば、
あの時描いた壮大な物語を書き切ることができるはずだ。
俺の中で情熱が走り出す。
疲れた会社員の俺の中で、小説書きのエンジンがかかる。
脳内で設定が回り始める。
俺と友人の学生時代の思い出とともに、
たくさんの設定が思い出される。
友人と俺が馬鹿笑いしながら語り合った設定。
あまりにも壮大過ぎる設定。
これをまとめ上げられるか、いや、俺がやるんだ。
俺だけがこの小説を書き切ることができる。
情熱が走る。
もう止まらない。
それからは、会社から帰ってきたら、
執筆に取り掛かっている。
とにかく書くことは山ほどある。
俺と友人の描いた物語はたくさんある。
それらを心地いい形に仕上げつつ、
定期的に投稿をしている。
評価はあまり芳しくない。
無名だから仕方ない。
今に見ていろと思いながら執筆を続ける。
そんな折、小説投稿サイトに載せている俺のアカウントに、コメントがあった。
仮名ではあったけれど、すぐに分かった。
学生時代語り合った友人だ。
コメントは、絶対完結まで書いてほしいと、
この物語を最後まで見届けると、
そう、約束してくれていた。
俺は、完結まで一緒に走ってくださいと返した。
あの時馬鹿話をしていた、
俺と友人はまだ一緒に走っている。
情熱は走り出したら止まらない。
あの時の情熱を思い出したら止まらない。
疲れた会社員かもしれないけれど、
情熱はくすぶっていたんだ。
それが爆発したら止めようがないさ。
俺は今日も書き続ける。
情熱の導くままに。
学生の頃馬鹿話をしていた、あの頃の、
純粋な情熱そのままに、
俺は走り続ける。