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第205話 情熱は止まらない

走り出したら、情熱って止まらないんだよなぁ。

今ひしひしと感じてる。


俺は疲れた会社員。

メンタルやられるほどじゃないけれど、

毎日家と会社を往復して、

仕事でヘトヘトになっている疲れた会社員。

一応ブラックではないとは思うけれど、

とりあえず疲れている。

家に帰ったら適当なもので腹を満たして、

シャワーだけ浴びてとにかく寝る。

毎日がぐったりとしている疲れた会社員だ。


休日は体力を回復させることだけに費やしていて、

とにかく季節も何もない生活を送っていて、

ある夜、ネットを見ていたら、

小説投稿サイトを見つけた。

ああ、なんか聞いたことがあるなとは思った。

小説投稿サイト発でコミックになったとかアニメになったとか、

なんとかかんとか。

どうやら小説投稿サイトもいろいろあるらしい。

ふーん、などと思いながら適当に眺める。


適当にサイトを開き、

なんとなくで小説を読む。

別のサイトも開き、なんとなくで読む。

いくつか繰り返しているうちに、

脳裏をよぎる記憶。


あれは学生の頃。

友人に自作の小説を読んでもらった記憶。

こんなの書けるんだ、すごいなと言われた記憶。

そのうえで、主人公がどうしてこうなったんだとか、

この設定はどう生かされるんだとか、

突っ込んだこともたくさん聞かれた。

俺はいい気になっていたものだから、

友人に小説の設定をたくさん話す。

友人はすげぇを連発しながら、

俺と友人は壮大な物語を描いた。

結局壮大過ぎて、学生時代には完結しなかった。

あの時の友人とも連絡を取っていない。


俺は、小説投稿サイトを開きながら思った。

あの時友人と語り合った小説ならば、

ここでてっぺん取れるはず。

俺と、あの友人が作り上げた壮大な物語で、

絶対天下が取れる。

俺もいい加減疲れた会社員だけど、

小説を書きたい、それだけを思った。

完結できなかったあの物語を、

絶対に完結させる。

そして、俺と友人が作った物語のすごさをみんなに知らしめてやりたい。

壮大な物語を描くだけならば誰でもできるかもしれない。

俺が考えた最強の物語というものだったら、

誰の脳内にもあるものかもしれない。

それでも、俺はあの頃小説を書いていた。

学生のあの時のように、小説を書けば、

あの時描いた壮大な物語を書き切ることができるはずだ。


俺の中で情熱が走り出す。

疲れた会社員の俺の中で、小説書きのエンジンがかかる。

脳内で設定が回り始める。

俺と友人の学生時代の思い出とともに、

たくさんの設定が思い出される。

友人と俺が馬鹿笑いしながら語り合った設定。

あまりにも壮大過ぎる設定。

これをまとめ上げられるか、いや、俺がやるんだ。

俺だけがこの小説を書き切ることができる。

情熱が走る。

もう止まらない。


それからは、会社から帰ってきたら、

執筆に取り掛かっている。

とにかく書くことは山ほどある。

俺と友人の描いた物語はたくさんある。

それらを心地いい形に仕上げつつ、

定期的に投稿をしている。

評価はあまり芳しくない。

無名だから仕方ない。

今に見ていろと思いながら執筆を続ける。


そんな折、小説投稿サイトに載せている俺のアカウントに、コメントがあった。

仮名ではあったけれど、すぐに分かった。

学生時代語り合った友人だ。

コメントは、絶対完結まで書いてほしいと、

この物語を最後まで見届けると、

そう、約束してくれていた。

俺は、完結まで一緒に走ってくださいと返した。


あの時馬鹿話をしていた、

俺と友人はまだ一緒に走っている。

情熱は走り出したら止まらない。

あの時の情熱を思い出したら止まらない。

疲れた会社員かもしれないけれど、

情熱はくすぶっていたんだ。

それが爆発したら止めようがないさ。


俺は今日も書き続ける。

情熱の導くままに。

学生の頃馬鹿話をしていた、あの頃の、

純粋な情熱そのままに、

俺は走り続ける。

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