目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第208話 虹の水溶液

これは虹を溶かしたものだよ。

虹の水溶液だ。


私は長いこと、虹を捕まえて水に溶かして、

こうして瓶に詰める仕事をしている。

これは虹の水溶液。

虹の根元に行って虹を捕まえて溶かしたものさ。

職業としては、そうだな。

虹職人とでも覚えていてほしい。

それ以外に言いようがないしね。

虹職人は忙しいんだ。


虹職人は天気予報の正確なものが求められる。

虹の出る天気を把握していないといけない。

虹が出るということは、雨上がりに日が出ることが求められる。

一般的には、空気中の水滴が乱反射とも言うらしいね。

虹職人から言わせてもらうと、

雨上がりの頃に日が出ていると、

虹という現象として光が乱反射するのでなく、

虹という現象として、虹が立つんだ。

雨という空からの気のようなものが、

一度降りてきて、

日が出てくると、それが一気に上へと上がる。

その気が上がる時に虹が立つ。

その虹が立つ地点は必ずあって、

天気と、地形と、その他もろもろの事柄を計算したうえで、

虹職人は虹が立つ場所に行く。

そこは本当に虹の根元なんだ。

そこから虹が立ち上っている。

立ち上っている虹を、瓶の中の液に溶かして、

虹は徐々に瓶に溶けていって、

瓶の中には虹の水溶液ができて、

虹は消える。


虹が立つのは、過剰に上に上がる現象でもある。

それをおさめるために虹を溶かしているというのもある。

あまり虹が立ちすぎていると、

下にあるべきものまで上に上がろうとしてしまう。

虹職人はそのバランスもとっている。

また、上へと上がる力を持った虹の水溶液は、

少なくなった気力を回復させる薬としても取引されている。

虹職人もかなり古くからいるものだから、

古い時代の虹職人は、

不老不死の薬を作るものとされていたとか。

気力は回復させるけれど老化が止まるわけじゃない。

虹の力は上へと上がる力だ。

浮き立つような症状を持っている者には向かない。

そうだね、どちらかと言うと落ち込み気味の者には、

向いているかもしれないね。

成分は虹と水だけだから、

効果があるのは虹の上へと上がる力だけだ。

気力が上がってきて、やる気が出てくるかもしれない。

元気がない者にも向いているね。


虹職人として、虹を溶かして瓶に詰めているけれど、

虹は見るだけでも気力を少し回復させる効果があるよ。

体感としてわかるかもしれないけれど、

虹を見るときは大抵上を見るものだよ。

視線が少し上に上がると、

うつむいていた時よりも、上へと上がる力が出る。

そこに、虹の上へと上がる力が少し加わる。

虹はあの通り美しい色をしている。

日頃あまり見ない現象でもある。

その虹を見上げることによって、

気力が上がっていき、落ち込みがちであったならば気分が上向きになる。

虹の水溶液は、その効果を凝縮させた水溶液なんだ。

虹を見上げるだけで笑顔になるものを、

さらに凝縮したものになる。

効果のほどは保証するけれど、

そこまで凝縮した虹の水溶液が必要なようには見えないね。


虹が立つ場所は企業秘密だけどね。

昔は龍が立つ場所なんて言われていたらしい。

虹職人だけがわかっている場所だから、

なかなか一般の人が見つけられるものじゃない。

そもそも、虹が立つときに一般の人がそこにたどり着くことがまずない。

ただ、伝え聞いた話によると、

虹の根元にたどり着いたものが、

あまりの美しさに気が触れてしまったと聞く。

その伝承は龍が上る場所として伝えられていると聞くけれど、

多分虹職人の虹が立つ場所に迷い込んでしまったのだと思う。

虹の上に上がる力に巻き込まれて、

あまりにも気分が上に上がりすぎてしまった。

それを、気が触れたとしたのだろうと思う。

あまりにも明るすぎる者は、なんだかおかしいと思われるように、

上がりすぎてしまったんだろうと思う。

まぁ、普通は虹の立つ場所には虹職人しか行けない。

きれいな場所ではあるけれど、

一般人には危険な場所だよ。


さて、この虹の水溶液は、

虹の力が強めのものであるので、

一般的な薬としては流通していない。

そもそも、虹職人の存在があまり表に出ていないからね。

ただ、あなたがどうしようもなくなってしまったとき、

虹の水溶液を取り扱う非合法の薬売りがやってくるかもしれない。

そんな時は、虹職人のことも思い出してほしい。


結構、こんなことをしている職人もいるんだよ。

あなたが知らないだけで、

たくさんの職人がいる。

虹職人はほんの一部だよ。

また、知らない職人に出会ったら、話を聞くと面白いよ。

あなたの世界が広がって楽しいはずだよ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?