これは虹を溶かしたものだよ。
虹の水溶液だ。
私は長いこと、虹を捕まえて水に溶かして、
こうして瓶に詰める仕事をしている。
これは虹の水溶液。
虹の根元に行って虹を捕まえて溶かしたものさ。
職業としては、そうだな。
虹職人とでも覚えていてほしい。
それ以外に言いようがないしね。
虹職人は忙しいんだ。
虹職人は天気予報の正確なものが求められる。
虹の出る天気を把握していないといけない。
虹が出るということは、雨上がりに日が出ることが求められる。
一般的には、空気中の水滴が乱反射とも言うらしいね。
虹職人から言わせてもらうと、
雨上がりの頃に日が出ていると、
虹という現象として光が乱反射するのでなく、
虹という現象として、虹が立つんだ。
雨という空からの気のようなものが、
一度降りてきて、
日が出てくると、それが一気に上へと上がる。
その気が上がる時に虹が立つ。
その虹が立つ地点は必ずあって、
天気と、地形と、その他もろもろの事柄を計算したうえで、
虹職人は虹が立つ場所に行く。
そこは本当に虹の根元なんだ。
そこから虹が立ち上っている。
立ち上っている虹を、瓶の中の液に溶かして、
虹は徐々に瓶に溶けていって、
瓶の中には虹の水溶液ができて、
虹は消える。
虹が立つのは、過剰に上に上がる現象でもある。
それをおさめるために虹を溶かしているというのもある。
あまり虹が立ちすぎていると、
下にあるべきものまで上に上がろうとしてしまう。
虹職人はそのバランスもとっている。
また、上へと上がる力を持った虹の水溶液は、
少なくなった気力を回復させる薬としても取引されている。
虹職人もかなり古くからいるものだから、
古い時代の虹職人は、
不老不死の薬を作るものとされていたとか。
気力は回復させるけれど老化が止まるわけじゃない。
虹の力は上へと上がる力だ。
浮き立つような症状を持っている者には向かない。
そうだね、どちらかと言うと落ち込み気味の者には、
向いているかもしれないね。
成分は虹と水だけだから、
効果があるのは虹の上へと上がる力だけだ。
気力が上がってきて、やる気が出てくるかもしれない。
元気がない者にも向いているね。
虹職人として、虹を溶かして瓶に詰めているけれど、
虹は見るだけでも気力を少し回復させる効果があるよ。
体感としてわかるかもしれないけれど、
虹を見るときは大抵上を見るものだよ。
視線が少し上に上がると、
うつむいていた時よりも、上へと上がる力が出る。
そこに、虹の上へと上がる力が少し加わる。
虹はあの通り美しい色をしている。
日頃あまり見ない現象でもある。
その虹を見上げることによって、
気力が上がっていき、落ち込みがちであったならば気分が上向きになる。
虹の水溶液は、その効果を凝縮させた水溶液なんだ。
虹を見上げるだけで笑顔になるものを、
さらに凝縮したものになる。
効果のほどは保証するけれど、
そこまで凝縮した虹の水溶液が必要なようには見えないね。
虹が立つ場所は企業秘密だけどね。
昔は龍が立つ場所なんて言われていたらしい。
虹職人だけがわかっている場所だから、
なかなか一般の人が見つけられるものじゃない。
そもそも、虹が立つときに一般の人がそこにたどり着くことがまずない。
ただ、伝え聞いた話によると、
虹の根元にたどり着いたものが、
あまりの美しさに気が触れてしまったと聞く。
その伝承は龍が上る場所として伝えられていると聞くけれど、
多分虹職人の虹が立つ場所に迷い込んでしまったのだと思う。
虹の上に上がる力に巻き込まれて、
あまりにも気分が上に上がりすぎてしまった。
それを、気が触れたとしたのだろうと思う。
あまりにも明るすぎる者は、なんだかおかしいと思われるように、
上がりすぎてしまったんだろうと思う。
まぁ、普通は虹の立つ場所には虹職人しか行けない。
きれいな場所ではあるけれど、
一般人には危険な場所だよ。
さて、この虹の水溶液は、
虹の力が強めのものであるので、
一般的な薬としては流通していない。
そもそも、虹職人の存在があまり表に出ていないからね。
ただ、あなたがどうしようもなくなってしまったとき、
虹の水溶液を取り扱う非合法の薬売りがやってくるかもしれない。
そんな時は、虹職人のことも思い出してほしい。
結構、こんなことをしている職人もいるんだよ。
あなたが知らないだけで、
たくさんの職人がいる。
虹職人はほんの一部だよ。
また、知らない職人に出会ったら、話を聞くと面白いよ。
あなたの世界が広がって楽しいはずだよ。