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第211話 造花の愛は永遠に

咲く花は一瞬。

僕は永遠が欲しい。

だから僕は造花に埋もれよう。


僕は人間に擬態している、長命種だ。

僕を表す種族が何というのかはわからないけれど、

創作で見たようなバンパイアは、

長命ではあるけれど日光がダメだとか、

また、エルフはエルフの特徴的な耳があるとか、

創作では長命種はいろいろな特徴がある。

僕はとりあえず長生きする種族、そして、死ににくい種族だ。

傷を負ってもすぐに癒えてしまうし、

臓器が吹き飛ばされても再生してしまう。

腕がなくなっても再生は数秒だ。

どこが損傷したら死ぬということもなく、

損傷したら再生して、

寿命は人間とは比べ物にならないほど長くて、

それでも姿かたちは人間のそれと変わりがない。

死ににくい僕は、人間に擬態してこの世界を生きている。


外見的な年も取らないものだから、

なんだかおかしいなと思われたら引っ越しをしている。

十年くらいの単位でやっぱりおかしいと噂が立つので、

僕の感覚ではかなり頻繁に引っ越しをしている感じがする。

人間は年を取って、寿命でちゃんと死ぬ。

そこから外れていると、やっぱりおかしいと思われても仕方ない。

僕は人間に擬態しているけれど、

やっぱり人間にはなれないものなんだと思う。


長く生きていく中で、知識はどんどん増えていった。

財産を長いこと持っていると、

こんなに長く生きている訳がないとして、

やっぱりおかしいと思われる。

そこで僕は仮名を使って、

財産を相続という形をとったり、

表には出ないものとして、

会社を立ち上げたりをして、

表の社長を据えて置いたりしている。

表の社長はちゃんと人間で代替わりをするから、

僕が立ち上げた会社だとしても、

一応おかしいとは思われない。

僕はそんな立ち上げたいくつかの会社から報酬を得ていて、

その報酬の対価として、

知識や知恵をもとにして、会社の運営の手助けをする。

時間はいくらでもあるものだから、

なんでも経験をすることができるし、

本はいくら読んでもいい。

死ににくいからどんな経験もできる。

僕の話はとても役に立つらしく、

会社運営をしている代々の社長から感謝された。

それはそれで生きている意味があるように思った。


僕は上手く人を愛せない。

たくさんの美しい人が、花のように僕の前に現れた。

心が美しい人もいた。

見た目がきれいな人もいた。

とにかく、人というものは生きているだけで花のように美しかった。

そして、花のように一瞬で死んでしまう。

あまりにも儚くて、上手く愛することができない。

僕が何をするわけでもない。

ただ、僕と生きている時間が違い過ぎる。

僕は長いこと生きているから、

人の一生は、花が咲いているくらいに短いものに感じる。

季節が変わると人が寿命で死んでいるような感覚と言えば伝わるだろうか。

みんなみんな死んでいく。

愛でている間に死んでしまう。

心から愛することができない。

愛する前に死んでしまう。


僕には感情があるのだけど、

それは人のそれよりも少し鈍いのかもしれない。

あまりにも人が死んでいくものだから、

人の死に対して、悲しんでいることができなくなって、

鈍くなっているかもしれない。

花が咲いて散るくらいのような感覚で、

僕は人の一生を儚んでいる。

なんて美しい花を咲かせて散るのだろう。

そして、すべての命が僕を置いていってしまう。

それが摂理とはわかっているけれど、

僕とともに生きる永遠はないものだろうかと考えてしまう。


咲く花は一瞬。

僕は永遠が欲しい。

僕とともに生きる永遠が欲しい。

かなわない夢を抱えて、

僕は造花の中にこの身を沈めてみる。

この造花すら、僕の命の長さに、

やがて朽ちていくのかもしれないけれど、

花よりは長くいられるかもしれない。

少しは僕とともにいられるかもしれない。


永遠の孤独は造花に囲まれて。

花が咲くように人が生きる。

それは何と美しいことだろう。

僕が擬態してでも人とともに生きているのは、

やはり、人が美しいからだと思う。

上手く人を愛せないけれど、

人とともに季節を感じたいと願ってしまう。


それは、僕なりの愛なのかもしれない。

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