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第248話 あくびを噛み殺す

ぼんやりするのは好きなんだけど、

退屈なのは苦手だ。

この境を上手く説明できないんだけど、

端的に言うと意味の分からない長い話が苦手だ。


友人の勧めで休日のショッピングにやってきた。

友人はいろいろな方面に明るい。

知識があるという意味での明るいでもあるし、

性格が明るいという意味でもある。

私はと言うと家でのんびりしたい性質なので、

言ってみれば社交的ではない。

家でぼーっとするのが好きだと言ったら、

休日をそんなことで使うなんてと、

友人に勧められてショッピングになった次第だ。

価値観はいろいろあるものだなと思う。

ぼーっとして休むというのも、

休日の贅沢な使い方だと思うんだけど、

友人としては、休日は平日できないことを、

どんどんしようと言う価値観らしい。

その行動的なところに幾度となく楽しい思いもさせてもらっているし、

別に断る理由もなかった。


ショッピングはとても楽しく、

次の季節を先取りした服も買えたし、

本屋に行ったら面白そうな本を見つけて、

友人と盛り上がった。

文具屋に行ったら面白い文具がたくさんあって、

そこでもまた盛り上がった。

頭にどんどん新鮮な刺激が入ってくるようで心地いい。

この友人はそういうことがとても得意なんだろうなと思う。

楽しいことを見つけるのが得意な人は、

人生においてとても得をしているんじゃないかなと思う。

人生に損も得も無いかもしれないけれど、

どうせ生きるならば新鮮な楽しいことをたくさんという考え方は、

人生得する考え方のような気がする。

この友人の場合、

自分だけでなく、私も楽しませようとしてくれる。

一緒に楽しんで盛り上がろうとしている。

自分だけが得しようと考える友人ではない。

性格は全然違うけれど、

この友人の性格はいいなと思う。


街でショッピングを楽しんで、

カフェでケーキを食べながら語り合っていたら、

不意に声がかけられた。

友人は声をかけてきた人物を知っているようだけど、

私はわからない。

声をかけてきたのは、年上の男性だ。

何らかの会社のなんとかという役職を持っているらしい。

私は全くわからない。

男性はこんなところで会えるなんてと、

友人に向けてなんだか話し出した。

単語がよくわからなかったけれど、

横文字が多いから、

仕事とかの話なのかもしれない。

いわゆるビジネス用語なのかもしれない。

社会人に必須とされている以上のビジネス用語が飛び交う。

男性はまくしたてるようだけど、

友人は失礼にならないところでかわし続ける。

私はと言えば、あくびを噛み殺している。

友人の大切な顧客なのかもしれない。

あくびで邪魔しちゃいけないから、

とにかくあくびを噛み殺して会話が終わるのを待つ。


友人の話は分かりやすい。

伝えるように言葉を選んでくれているのだなと思う。

どんなに聞いたことのないことを話していても、

友人が話すと退屈せずに聞き入ってしまう。

かたや、この男性は単語が並んでいるだけだ。

ものすごく退屈で長く、意味の分からない言葉の羅列だ。

ああ、友人はとても頭がよかったんだなと、

改めて確認した気分になった。


友人がわかるように会話をしていたおかげで、

私にも会話の内容が見えてきた。

楽しいショッピングを邪魔されたうえに、

退屈な話をまくしたてていた男性に、

私は言葉のツッコミを入れる。

君は関係ないと言ってきたので、

男性の述べてきた言葉の、

矛盾や弱点や勘違いをどんどん指摘する。

友人が笑顔になり、

男性に対して失礼がないように、

表面は立てつつ、

完膚なきまでに叩き潰す。

男性は用事を思い出したと言って去っていった。


退屈な話をそのまま流すのは、

話を聞かせるという点であんまりよくないんだなと思った。

話を聞いてほしければ、

言葉のキャッチボールをすることと、

興味をひかないとならないんだなと。

それができている友人は、やっぱりすごいなと思った。

男性が去っていった後、

専門外のこと、よくわかったねと友人は私を褒めてくれた。

退屈だけど聞いていたらわかったと私は答えた。

あくび噛み殺してたもんねと友人は笑った。

私も笑った。


休日は楽しく。

性格の違う私たちは、

なんとなく居心地よく友人をしている。

ぼーっとするのもいいけれど、

この友人ならば、一緒に出かけるのもありだ。

ただ、退屈な横やりが入るのは勘弁してほしいなと思った。

やっぱり休日はやりたいことをしたいね。

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