カメレオンのように周りに溶け込んで、
カメレオンのように長い舌で虫をとらえるがごとく。
風景に溶け込みながら、
異形のものを狩っている。
カメレオンは俺のコードネームだ。
俺は限りなく風景に溶け込むスキルを持っている。
誰も俺を俺と認識しない。
そこにいると思われない。
認識されないから、
異形が何かしでかす前に動いて仕留めることができる。
異形は基本もやのようなものだ。
もやが澱んでくると、異形が実体を持ち始める。
異形の実態は、妖怪とか化け物の、
さらに訳の分からないものに近い。
とにかく名前を持たないので、
姿かたちに意味を持っていない。
ただ、よくないものが集まって実体化したもの。
それが異形になる。
異形がもやの段階ならば、
なんとなくそのあたりは気分が悪くなる程度だ。
なんだか嫌な気分になると、いろいろな人が感じてくると、
異形のもとのもやが悪いものに澱んでいって、
悪いことをしでかす異形に実体を持つ。
俺は風景に溶け込んで、
異形になる前のもやから、
実体化寸前のものまで狩っている。
とにかく俺は誰にも気にされないから、
俺が何をしても誰にも気が付かれない。
特殊な手段と道具を使って、
異形を狩っていたとしても、
誰もそのことに気が付かない。
カメレオンは誰にも気づかれず、獲物を狩る。
異形は時々、生きているものにもとりつくし、
物にもとりつくことがある。
その場合は、生きているものは殺さずに、
物の場合は壊さずに、
異形だけをしっかりと、わからないように狩る。
このあたりの仕事は、カメレオンの俺が向いている。
人が死ねば異変に気付かれる。
物が壊れれば何かがあったと思われる。
派手に何かしでかしたら、
組織の方も隠し通せなくなる。
隠密ってやつだ。
そして、異形は機密情報だ。
国家のえらいさんが知っているらしいとは聞いているけれど、
どのくらいのレベルまでが把握しているかは知らない。
あんまり頭のよくないものに異形のことを漏洩したら、
何かに利用しようとか言い出すかもしれないから、
多分一部の誰かしか知らないと思う。
偉い人は組織の上の方だけが関わっている。
俺はあんまり関係ない。
俺は風景に溶け込んで、
異形のなりかけや、実体化しかかっているものを狩る。
悪意などが集まっていると、
異形の実体化スピードが速まる。
組織の他のメンバーがしらみつぶしに異形を狩っているけれど、
なかなか異形の撲滅には至らない。
人の心のなんとなく気持ち悪いもの、
それが異形のもとになっている。
いわゆる心地悪いと感じることが集まってくると、
異形が生まれてしまう。
それは何もないところになんだかできてしまった噂話だったりする。
場所であれば、
あそこはいわくつきなんだってと言われれば、
そこに異形のもとが集まり始める。
人に対して根も葉もない噂が立つと、
その言葉を浴びた人に異形のもとが集まってよどんでくる。
人がこれだけいると、異形のもとを抱える人も場所も膨大だ。
噂はすごい勢いで拡大する。
異形を狩る組織もフル稼働だ。
どれだけ人があっちこっちにいても、
俺は誰の目にも留まらない。
カメレオンは風景に溶ける。
いないものとされる。
だから俺は誰にも知られず異形を狩る仕事ができる。
それは世界をあるべき姿にし続ける仕事。
風景が風景であるようにし続ける仕事。
日常を守り続ける仕事だ。
誰にも褒められないし、
成果は組織しか知らない。
それでいいんだと思う。
カメレオンは特徴的な姿をしているけれど、
隠れることに特化している生き物だ。
カメレオンのように隠れるのが俺の在り方だ。
俺の姿もかなり変な姿をしている。
異形に当てられすぎて、
姿にも影響が出ている。
スキルのおかげで誰にも見えていないけれど、
俺の姿を見れば、
俺こそが異形と思われるかもしれない。
だから俺は隠れ続ける。
隠れて仕事をこなし続ける。
誰にも褒められないけれど、
溶け込んでいる風景が、心地よかったのならば、
俺が隠れている意味もあるのだろうなと思う。
俺はカメレオンのように生きる。
隠れたまま獲物を仕留め、
隠れたまま、みんなの幸せを願う。