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第254話 奇遇ですね

おや、奇遇ですね。


いや、このあたりでよくあなたを見かけるなと思っていたのですが、

今日にいたってはお昼のお店まで一緒とは思わず、

ついついお声をかけてしまいました。

このあたりはいろいろな会社がありますからね。

休憩になりますと、あちこち社員さんで混みあいます。

今日は席が取れて、ついていました。

あなたもこのあたりの会社にお勤めでしょうか。

ああ、あの会社ですか。

なるほどなるほど。

心地よく働かれていますか?

仕事は楽しいけれどやはり休憩や休暇は別格であると。

それはとてもいいことです。

休憩や休暇が良いものと感じるのは、

当然のことです。

いや、変なことをお聞きしてしまいました。

お昼休憩にお仕事のことを思い出させてしまいました。

さぁ、食事にしましょう。

美味しいものを召し上がって、

午後の英気を養いましょう。


私のことをお聞きしたいのですか?

とても言いにくいのですが、

あなたと同じ会社に勤めているのですよ。

やはりそう驚かれますよね。

部署が違うと交流も少ないので、

私のことなどわからないと思います。

私も、先程あなたがお勤めの会社を話してくれたことで、

内心とても驚いていたのですよ。

いやはや、本当に奇遇ですね。

私も心地よく働ける部署につとめています。

ただ、他の部署のあなたが心地よく働いているのを聞きますと、

この会社はいいものだなと感じるものです。


失礼ですが、食事のあとの休憩時間は、

どのようなことをされて過ごされていますか?

なるほど、電子書籍で読書をなされていると。

私などは、手帳の整理をして、予定の確認をしていますね。

どうにも仕事のことばかり考えていますので、

趣味らしい趣味がないのですよ。

お昼休憩に食事をしたら、

これからの予定を確認することばかり考えて、

上手く切り替えることができないのですよ。

電子書籍ではどんなものがお勧めでしょうか。

なるほど、私がどのようなものを読みたいかによると。

そうですね、何を読みたいかがわからないと、

お勧めのしようもありませんね。

そうですね。例えばですが、正しい行いをしているものが、

しっかり報われるお話がいいですね。

欲を言えば、正しい行いを邪魔することなく、

皆が一つの目標に向かっていくものがいいですね。

苦難を皆で乗り越えて、しっかり成功するものがいいです。

ああ、難しい注文を出してしまって申し訳ないです。

物語の中だけでも、

そんな経験ができたらいいなと思ったのですが。

やはり世知辛い世の中においては、

そのような物語はないものでしょうか。

おや、何か思い当たるものがあると。

あなたもそのような物語がお好きなのですね。

奇遇ですね。

次にお会いする時に、リストまで作っていただけると。

ありがとうございます。

あなたはお優しい方なのですね。

ご謙遜なさらなくてもいいですよ。

では、次にお会いできるのはいつになりましょうか。

次の奇遇がいつになるかはわかりません。

お約束ができればと思います。

ありがとうございます。

では、明日のお昼休憩に、

このお店で。

あなたは別の場所で電子書籍を読まれると。

落ち着かれるお気に入りの場所がおありなのですね。

そこまではお邪魔しません。

では、いってらっしゃいませ。

明日を楽しみにしています。


我が社にこのような人材がいるとは思いませんでしたね。

心地よく働けているようで、なによりです。

会社の上の方の裏方になりますと、

どうしても現場の声が届きにくくなります。

また、顔も覚えてもらえないので、

本当に会社のためになっているのかが不安にもなります。

会社のために尽くして、数字と予定を詰め込みましたが、

本当は、皆で一つのことを成功させたい、

この会社をもっと良くしていきたい。

そこが原点だったのかもしれませんね。

私の役職は内密にして、

また、あの社員さんにお会いしたいですね。

奇遇と言えば奇遇のはじまりでしたが、

大事なことを教えてもらえる良い時間でした。

会社の宝は人であるのですね。

さて、午後の予定を確かめてから私も行きますか。

いずれは趣味も持ちましょう。

明日が楽しみですね。

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