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第255話 それは聞き捨てならない

大抵のことは聞き流すのだけど、

今のそれは聞き捨てならないな。


人の好みは様々あることは知っている。

他人がとやかく言うものでないこともわかっている。

それでも地雷はあるんだ。

踏み抜いてはいけないものがあるんだ。

そう、大抵の好みの違いは聞き流すよ。

どんなものが好きで、

どんなものが嫌いかは、

それこそ人それぞれだし、

信念で食べられないものがあることもわかる。

宗教の教義で食べられないものがあることもわかる。

特定の肉が食べられない宗教もあることを知っているし、

限りなく教義にのっとった調理をしないと食べられないという、

そんな宗教があることも知っている。

食べるというのは生きること。

生きるにあたって、食べられないものがあることもある。

そのあたりも大体寛容な方だと思う。


食べ物にかかわらず、

どんな衣類をまとって、

どんな香りをつけているか、

化粧のあるなしについてもそれぞれ信念があるものと思っている。

男性のメイクに対して眉を顰めることもなく、

女性のノーメイクもありだと思う。

咳き込むほど強い匂いでなければ、

大抵の匂いは許せると思っている。

あまりにも不衛生な匂いは苦手な方ではあるけれど、

その匂いもそれなりに理由があるのであれば、

苦手ではあるのだけど、

そうなる理由があるのだと思う。

距離は置くかもしれないけれど、

そんな人もいるのだと理解する。

そこに信念があるのであれば、

とやかく言うことではない。

信念が違えば近づかないのがいい。

そのくらいはわきまえている。


本の好みなどはプライベートなことだから、

どれが高尚でどれが低俗などと言えない。

どんな本が好きかは、それぞれ違う。

好きである理由も違う。

それは心や知識の根幹にかかわることで、

とてもプライベートなことだ。

それを否定してはいけないし、

好みでないからと言って低俗だと言ってはいけない。

難しい本を読んで自分が高みにあるなどと勘違いしてはいけない。

読みやすい本を読んでいるものを頭が悪いなどと言ってはいけない。

本はプライベートなことだ。

どんな本を読んでいても自由だし、

どんな知識を得ようとしても自由だ。

ただ、合う合わないはそれぞれにある。

だからといって、合わないものを否定してはいけない。

本はすべてに開かれている。

どんな本でも、すべての人に。

読みたい本を読んでいいし、それを誰も否定することはできない。

どんな権力者であっても、

本を読むことを規制してはいけない。

本はそれほどプライベートで犯してはいけない聖域だ。


食べ物をどんなふうに食べてもいい。

毎日違う食事を準備しなければならないという、

信念の持ち主もいるだろうし、

バランスさえとれていれば毎日同じでもいいという、

信念の持ち主もいるだろう。

いろいろなものをとにかく混ぜて食べる誰かもいるかもしれない。

混ぜずにひとくちひとくち大事に食べる誰かもいるだろう。

日常の食に対してもいろいろな食べ方があるし、

献立の考え方も違うし、

外食に出るのならば、選ぶ店も違う。

注文する傾向だって違うだろう。

自分と違うものは山ほどある。

食の選択肢がこれほどあるのならば、

合うもの合わないものはたくさんある。

全部が許せるわけではないけれど、

自分が許せない何かを好きな誰かがいる。

頭ごなしに否定するわけでなく、

自分のわからないものを好きな誰かがいる。

世界はそれほど広い。

自分が理解できないものは山ほどある。

アレルギーなどで食べられるものが制限されている誰かがいるかもしれない。

植物由来のものしか食べない誰かも、

身体に理由があるのかもしれないし、

また、そうあるための信念があるのかもしれない。

理解できないと否定するのではなく、

否定の前に、いろいろな信念があることを考えよう。


さて、君は聞き捨てならないことを言った。

いろいろな信念があることはわかっている。

それに対してかなり寛容な方だけど、

君のそれは戦争を引き起こすほど聞き捨てならないことだ。

場合によっては、君は敵になってしまう。

それほどのことを君は言ってしまった。


再度問おう。

君は、きのこ派か、たけのこ派か。

答え次第では戦争だ。

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