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第259話 急がば回れ

急がば回れと言うけれど、

急いでいるときに回れる人なんているだろうか、

急いでいるときは、どうしても最短距離を行こうとする。

そこを回れる人なんているのだろうか。

だから急がば回れという言葉が生き続けているんだろうけど、

実際、急いでいるときに、

迂回ルートを取れる人なんているのだろうか。


幼い頃から、とにかく結果を出せと言われて育った。

何かをしたら結果が出る。

その結果が良いものでなければいけない。

親は結果が全てな人だった。

結果に至るまでの道のりを見ない人だった。

私は、結果に至るまでの最短距離を急ぐようになった。

急いで結果を出さなければ。

確実に結果を出さなければ。

結果のために走るような生活を送った。

そうして、私は心身を病んだ。


親は私を責めた。

怠けるなと詰った。

それでも私は何も言い返せなかったし、

疲れ果てていて、

結果が残せないなら死のうかなと薄ぼんやり考えていた。

ある時、心の方の医者が親の同伴を求めてきた。

ケンカになるのかなと思いつつ、

医者のもとに親を同伴させていった。

親はこの子は怠けているだけだと持論を展開した。

医者はそれを受け流しながら、

急がば回れと言いますよと涼やかに言った。

最短距離を走りすぎて疲れているんですよと医者は言う。

もっと無駄なことをさせなさい。

結果が出るのはずっと後であると思いなさい。

人生の最後に、幸せだったと答え合わせができれば、

それが人生の最良の結果なのです。

すぐに出る結果ばかり求めるのではありません。

親は呆気にとられた。

今まで考えたこともないことを言われたのかもしれない。

医者は微笑んで言った。

急がば回れですよと。


その日から親の対応が変わってきた。

最初は腫れ物に触るようだった。

今までの親の対応を変えるのだから、

どうしていいかわからなかったのかもしれない。

私としても疲れ果てていたから、

親にこうしてほしいとか、

私はこうしたいとも言えなかった。

親ももどかしかったのかもしれない。

対応をお互い探りながら時間が過ぎていった。


親は、私が好きになりそうなものを探そうとしていた。

今まで最短距離を走らせてきたから、

私が何か好きになる余裕がなかった。

そのことに親が気が付いたらしい。

私には好きがない。

何かが好きということが欠落している。

その上、結果だけを求められていることに気が付いたらしい。

どんなことが好きになるだろう。

親も悩んでいた。

私も疲れたなりに、

休みながら考えていた。

私は何のために生きているのだろう。

生きていて幸せを感じるときと言うのはどんなことだろう。

私なりに悩んでいた。


私は実家で休みながら、

趣味を探そうとした。

漫画を読んでも疲れる。

小説も疲れる。

ゲームも疲れる。

習い事を行こうとするのも疲れる。

人間関係も疲れる。

どこかに出かけるのも疲れる。

今まで何事も最短距離を走らされてきた私は、

とても弱ってしまっていた。

それでも何かを見つけたい。

結果でなくて好きでいられること。

何かを見つけたいと思った。

私が幸せだと思うこと。

それを見つけようとした。


とても遠回りをしている。

心身壊したのだから、最短距離はもう走れない。

結果はずっと出ないかもしれない。

それでも親は辛抱強く待っている。

結果はそうやすやすと出るものでないとわかってきた。

私の人生は私のものであるとわかってきた。

今は、私を支えるのが親の役目であるとわかってきた。

私は遠回りをしている。

親もまた、遠回りをしている。

最短距離を走らせようとしない。

私が回復するのを、

急ぐ気持ちもあると思う。

親もそうだし、私も早く回復しようと焦っている。

それでも、急がば回れと思った。

最短距離を行くのでなく、

迂回ルートをできるだけ走る。

無駄なことをたくさんする。

安全な道を行く。

本当に回復したい時こそ、

ゆっくり行くのが正しいんだと思った。


私はゆっくり回復をしていって、

いくつか好きなことを見つけた。

心身壊していた頃に失ったものを少しは取り戻して、

そろそろ実家を出て行こうと思っている。

親とは心地いい関係を築けた。

急がば回れ。

親も私も遠回りをした。

そうして得られたものは、

キラキラと輝いているのだなと思う。

すぐに得られる結果ではなくて、

いろいろな経験を経て得られたものは、

何物にも代えがたいのだなと思う。


この遠回りの経験が私を生かす。

親も私も、そう思っている。

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