私の部屋には居候がいる。
害はないんだけど人間ではない。
ペットなどの動物でもない。
住みついた虫でもない。
大雑把に言うと妖怪に近い。
妖怪のような彼は、
しばらく空き部屋だったここに居座っていて、
誰もいないことを満喫していたらしい。
彼のことを見える人と見えない人がいることと、
誰かが死んだなどと言う、
ありもしない噂が広がったことと、
彼が歩いた足音が霊現象とされることで、
誰かがこの物件に入っても出て行って、
また、変な噂が広がったらしい。
彼は彼で、いないならいないでのんびりとしていたらしい。
私は、そんな彼の居ついた部屋に入居した。
一通り引越ししたところで、
くつろいでいたら、
彼が出てきて挨拶した。
私は彼が見えたので、
ご丁寧に挨拶をありがとうございますと返した。
彼はそのことに喜んで、
やっぱり丁寧に扱われると嬉しいなぁと笑った。
その際、人ではない存在であることと、
見える人と見えない人がいることを聞いた。
霊ではなくて、妖怪のようなものに近いとも聞いた。
事故物件の噂が出ていたと言ったら、
この部屋で死んだ人はいないよと彼は言った。
この部屋にいたら、みんな気味悪がって出て行っちゃうから、
挨拶すらできなくてさと、
彼は残念そうに言っていた。
なるほど、見えない人にとっては、
霊現象が起きていると感じるのかもしれない。
幸い私は彼が見えるので、
この部屋で一緒に暮らそうと持ち掛けた。
彼は喜んで居候になった。
彼は幽霊ではないので、
物がすり抜けることはない。
よって、料理ができる。
長く生きてきたと言っていたので、
食材と健康についてかなり詳しい。
漢方薬を煮出して飲む方法も知っているけれど、
漢方薬を買いに行くことができないらしい。
彼のことを見える人や見えない人がいるので、
漢方の薬を売っている人が見えなければアウトだ。
ただ、知識はあるので、
私の不調に対して、
この漢方を使えばいいよとメモに書いてくれる。
漢字の並んでいるそれを医者に出して、
処方箋を出してもらって漢方薬を飲む。
確かによく効く。
また、気候の変化によって、
使う食材も変えつつ、
身体にいい料理をよく作ってくれる。
おかげで季節の変わり目を元気に乗り切れている。
妖怪みたいなものと言っていたし、
座敷童みたいなものかなと私は思うが、
もしかしたら、
名前がないだけで、
こんな妖怪みたいな存在はたくさんいるのかもしれない。
感じたり、見えたりする人によって、
姿があったり、何をするかがわかったり、
そうして名付けられる妖怪がいるのかもしれない。
世の中は、等しくみんな見えるものだけでできている訳じゃない。
誰かは見えるけれど誰かは見えないものもある。
私の居候も、そんなものなのかもしれない。
私の居候は、暇だからという理由で、
日中は家事全般をしている。
見えない人がいるとアウトなので、
買い出しには行けない。
その代わり、私のスマホに連絡が来る。
今日の献立を決めたので、
この食材を買ってきて欲しいことや、
洗剤を買ってきて欲しいことなど、
私は了解と返事して、部屋に戻るまでに買い物をする。
人でない居候との生活はとても楽しい。
いつまでこの生活が続くかはわからないけれど、
可能な限りずっとがいいなと思う。
この部屋は立地条件もいい。
買い物もすぐにできる。
駅もすぐ近くにある。
娯楽も近くにある。
それでいて一本路地を入っているので静かだ。
こんな生活ができるなら、
ずっとこの部屋がいいなと思う。
最近、居候の彼は本にはまっている。
長く生きてきているから、
知識が古いところがあるらしいので、
新しいものをどんどん知りたいそうだ。
スマホでも調べられるけれど、
本で知ろうとするあたり、
長く生きてきているんだなと思う。
私は帰りに本を見繕って、
居候の彼の喜ぶ顔を思い浮かべる。
妖怪に近いというけれど、
ともに暮らすのならば、
居候で十分だ。
人であろうと何であろうと、心地よく暮らせればそれでいいんだ。
毎日が楽しければ問題ない。
私と居候は、楽しく暮らしている。