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第260話 私の部屋の居候

私の部屋には居候がいる。

害はないんだけど人間ではない。

ペットなどの動物でもない。

住みついた虫でもない。

大雑把に言うと妖怪に近い。


妖怪のような彼は、

しばらく空き部屋だったここに居座っていて、

誰もいないことを満喫していたらしい。

彼のことを見える人と見えない人がいることと、

誰かが死んだなどと言う、

ありもしない噂が広がったことと、

彼が歩いた足音が霊現象とされることで、

誰かがこの物件に入っても出て行って、

また、変な噂が広がったらしい。

彼は彼で、いないならいないでのんびりとしていたらしい。


私は、そんな彼の居ついた部屋に入居した。

一通り引越ししたところで、

くつろいでいたら、

彼が出てきて挨拶した。

私は彼が見えたので、

ご丁寧に挨拶をありがとうございますと返した。

彼はそのことに喜んで、

やっぱり丁寧に扱われると嬉しいなぁと笑った。

その際、人ではない存在であることと、

見える人と見えない人がいることを聞いた。

霊ではなくて、妖怪のようなものに近いとも聞いた。

事故物件の噂が出ていたと言ったら、

この部屋で死んだ人はいないよと彼は言った。

この部屋にいたら、みんな気味悪がって出て行っちゃうから、

挨拶すらできなくてさと、

彼は残念そうに言っていた。

なるほど、見えない人にとっては、

霊現象が起きていると感じるのかもしれない。

幸い私は彼が見えるので、

この部屋で一緒に暮らそうと持ち掛けた。

彼は喜んで居候になった。


彼は幽霊ではないので、

物がすり抜けることはない。

よって、料理ができる。

長く生きてきたと言っていたので、

食材と健康についてかなり詳しい。

漢方薬を煮出して飲む方法も知っているけれど、

漢方薬を買いに行くことができないらしい。

彼のことを見える人や見えない人がいるので、

漢方の薬を売っている人が見えなければアウトだ。

ただ、知識はあるので、

私の不調に対して、

この漢方を使えばいいよとメモに書いてくれる。

漢字の並んでいるそれを医者に出して、

処方箋を出してもらって漢方薬を飲む。

確かによく効く。

また、気候の変化によって、

使う食材も変えつつ、

身体にいい料理をよく作ってくれる。

おかげで季節の変わり目を元気に乗り切れている。


妖怪みたいなものと言っていたし、

座敷童みたいなものかなと私は思うが、

もしかしたら、

名前がないだけで、

こんな妖怪みたいな存在はたくさんいるのかもしれない。

感じたり、見えたりする人によって、

姿があったり、何をするかがわかったり、

そうして名付けられる妖怪がいるのかもしれない。

世の中は、等しくみんな見えるものだけでできている訳じゃない。

誰かは見えるけれど誰かは見えないものもある。

私の居候も、そんなものなのかもしれない。


私の居候は、暇だからという理由で、

日中は家事全般をしている。

見えない人がいるとアウトなので、

買い出しには行けない。

その代わり、私のスマホに連絡が来る。

今日の献立を決めたので、

この食材を買ってきて欲しいことや、

洗剤を買ってきて欲しいことなど、

私は了解と返事して、部屋に戻るまでに買い物をする。


人でない居候との生活はとても楽しい。

いつまでこの生活が続くかはわからないけれど、

可能な限りずっとがいいなと思う。

この部屋は立地条件もいい。

買い物もすぐにできる。

駅もすぐ近くにある。

娯楽も近くにある。

それでいて一本路地を入っているので静かだ。

こんな生活ができるなら、

ずっとこの部屋がいいなと思う。


最近、居候の彼は本にはまっている。

長く生きてきているから、

知識が古いところがあるらしいので、

新しいものをどんどん知りたいそうだ。

スマホでも調べられるけれど、

本で知ろうとするあたり、

長く生きてきているんだなと思う。


私は帰りに本を見繕って、

居候の彼の喜ぶ顔を思い浮かべる。

妖怪に近いというけれど、

ともに暮らすのならば、

居候で十分だ。

人であろうと何であろうと、心地よく暮らせればそれでいいんだ。

毎日が楽しければ問題ない。


私と居候は、楽しく暮らしている。

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