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第261話 いたずらを仕掛けよう

あの子にいたずらを仕掛けよう。


僕には気になるあの子がいる。

あの子はとってもかわいくて、

みんなの中心にいるような子だ。

みんなに囲まれていても、

あの子だけが光っているようだ。

あの子の注目を僕に向けたい。

僕だけを見て欲しい。

だから僕はいたずらを仕掛けることにした。


嫌われるのは嫌だから、

とにかく笑えるいたずらを考えた。

学校の休み時間の間、

僕がなぜかロボットの動きになるとか、

あの子の前で手品をするとか、

手品をしつつ驚かせて笑わせるとか、

廊下で突然踊り出すとか、

パントマイムをするとか、

とにかく怒らせるのでなく、

笑わせて、僕に注目してもらうものを考えた。

そして片っ端から実行した。

ダンスやパントマイムや手品なんか、

僕はからっきし素人だ。

それでも見様見真似でぶつけていった。

あの子に見て欲しい。

僕のことを注目してほしい。

そして笑ってほしい。

その気持ちで、素人のいたずらをぶつけていった。


最初は惨憺たるものだった。

何もかもが上手く行かなかった。

でも僕は落ち込んでいられない。

もっと上達して、あの子に見てもらう。

そのためには、いっぱい実践して、

ぶつけていって、いっぱい失敗する。

それが一番上達する。

みんなにどれだけ笑われて、恥をかいてもいい。

僕はあの子にいたずらを仕掛ける。

笑えるいたずらを仕掛けて、注目してもらって、笑ってもらう。

それがかなうならば、

いくらでも失敗するし、

何度でも挑戦する。

あの子はみんなに囲まれながら、

遠くの方にいた。

僕を見て、僕を見て。

僕は願いながら失敗を続けた。


いろいろないたずらの失敗を重ねていって、

それがダンスやパントマイムや手品なんかが中心だったので、

僕の動きが良くなっていった。

僕は器用に身体を動かせるようになってきて、

体力もついてきて、

手先も器用になっていった。

視線の操り方も学んだ方がいいかと思って、

いろいろな本も読んだ。

舞台の勉強もしてみた。

演じることによって、

観客の感情をどう動かすかも勉強になった。

なるほど、笑わせるという感情の動きを導くためには、

いたずらひとつにも勉強が必要なんだ。

突発的思い付きいたずらでは、

僕を注目させることなんてできないし、

笑顔を引き出すこともできない。

いたずらも、勉強と実践。その繰り返し。

そうして磨いていかないといけない。

僕はいたずらに関連しそうなことを片っ端から学んでいく。

会話にいたずらを仕込むためには、

会話のとっかかりも必要だ。

そこにはいろいろな話題のもとを仕入れておかなければならない。

全てがいたずらに通じる。

あの子の笑顔に通じると信じた。


僕がどれだけのことを学んで実践を繰り返しても、

あの子はみんなに囲まれて遠いところにいた。

どうか、僕を見て。

びっくりさせるいたずらをするから見て。

そう願うのに、あの子は遠い。

その代わりに、学校のみんなが僕の周りに集まってきた。

僕の実践するいたずらに、

みんな驚き、歓声をあげて、拍手を送った。

みんなに笑顔でこたえたけれど、

あの子に見て欲しい、その一心だったんだ。


とある日。

僕は階段の踊り場でロボットダンスをしていた。

ロボットのように静止しているのに、

突然人間離れする動きをして、

みんなは喜んでくれた。

その踊り場を、あの子とあの子の友達が通り過ぎていった。

僕の方をあの子がちらっと見た。

あ、見てくれたと思ったと同時に、

あの子は階段を踏み外した。

危ないと思ったその瞬間、

僕は自分のすべての運動能力を使った。

いたずらのために磨いてきた身体の能力を総動員して、

僕は階段を踏み外したあの子を抱きとめて、

受け身を取りつつ階段を落ちる。

みんなの悲鳴が聞こえる。

階段を落ちきって、

僕の腕の中であの子が無事なことを確認する。

僕はこのくらいならば受け身を取れるから大丈夫。

あの子が僕を見た。

そして、真っ赤になった。

あの子はか細い声で言う。

いつも遠くから見ていました。

素敵な方だと思って、声がかけられないでいました。

そんなことを言った。

そして彼女は笑った。


僕の頭に雷が落ちたような気分。

遠くにいた彼女は僕を見ていたんだ。

僕が繰り出すいろいろないたずらを見ていたんだ。

僕に注目していたんだ。

そして、僕はその彼女を助けられたんだ。

これが奇跡でなくて何だろうか。


もしかしたら、これはカミサマのいたずらかもしれない。

まったく、とんでもないいたずらを仕掛けてくれたものだよ。

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