あの子にいたずらを仕掛けよう。
僕には気になるあの子がいる。
あの子はとってもかわいくて、
みんなの中心にいるような子だ。
みんなに囲まれていても、
あの子だけが光っているようだ。
あの子の注目を僕に向けたい。
僕だけを見て欲しい。
だから僕はいたずらを仕掛けることにした。
嫌われるのは嫌だから、
とにかく笑えるいたずらを考えた。
学校の休み時間の間、
僕がなぜかロボットの動きになるとか、
あの子の前で手品をするとか、
手品をしつつ驚かせて笑わせるとか、
廊下で突然踊り出すとか、
パントマイムをするとか、
とにかく怒らせるのでなく、
笑わせて、僕に注目してもらうものを考えた。
そして片っ端から実行した。
ダンスやパントマイムや手品なんか、
僕はからっきし素人だ。
それでも見様見真似でぶつけていった。
あの子に見て欲しい。
僕のことを注目してほしい。
そして笑ってほしい。
その気持ちで、素人のいたずらをぶつけていった。
最初は惨憺たるものだった。
何もかもが上手く行かなかった。
でも僕は落ち込んでいられない。
もっと上達して、あの子に見てもらう。
そのためには、いっぱい実践して、
ぶつけていって、いっぱい失敗する。
それが一番上達する。
みんなにどれだけ笑われて、恥をかいてもいい。
僕はあの子にいたずらを仕掛ける。
笑えるいたずらを仕掛けて、注目してもらって、笑ってもらう。
それがかなうならば、
いくらでも失敗するし、
何度でも挑戦する。
あの子はみんなに囲まれながら、
遠くの方にいた。
僕を見て、僕を見て。
僕は願いながら失敗を続けた。
いろいろないたずらの失敗を重ねていって、
それがダンスやパントマイムや手品なんかが中心だったので、
僕の動きが良くなっていった。
僕は器用に身体を動かせるようになってきて、
体力もついてきて、
手先も器用になっていった。
視線の操り方も学んだ方がいいかと思って、
いろいろな本も読んだ。
舞台の勉強もしてみた。
演じることによって、
観客の感情をどう動かすかも勉強になった。
なるほど、笑わせるという感情の動きを導くためには、
いたずらひとつにも勉強が必要なんだ。
突発的思い付きいたずらでは、
僕を注目させることなんてできないし、
笑顔を引き出すこともできない。
いたずらも、勉強と実践。その繰り返し。
そうして磨いていかないといけない。
僕はいたずらに関連しそうなことを片っ端から学んでいく。
会話にいたずらを仕込むためには、
会話のとっかかりも必要だ。
そこにはいろいろな話題のもとを仕入れておかなければならない。
全てがいたずらに通じる。
あの子の笑顔に通じると信じた。
僕がどれだけのことを学んで実践を繰り返しても、
あの子はみんなに囲まれて遠いところにいた。
どうか、僕を見て。
びっくりさせるいたずらをするから見て。
そう願うのに、あの子は遠い。
その代わりに、学校のみんなが僕の周りに集まってきた。
僕の実践するいたずらに、
みんな驚き、歓声をあげて、拍手を送った。
みんなに笑顔でこたえたけれど、
あの子に見て欲しい、その一心だったんだ。
とある日。
僕は階段の踊り場でロボットダンスをしていた。
ロボットのように静止しているのに、
突然人間離れする動きをして、
みんなは喜んでくれた。
その踊り場を、あの子とあの子の友達が通り過ぎていった。
僕の方をあの子がちらっと見た。
あ、見てくれたと思ったと同時に、
あの子は階段を踏み外した。
危ないと思ったその瞬間、
僕は自分のすべての運動能力を使った。
いたずらのために磨いてきた身体の能力を総動員して、
僕は階段を踏み外したあの子を抱きとめて、
受け身を取りつつ階段を落ちる。
みんなの悲鳴が聞こえる。
階段を落ちきって、
僕の腕の中であの子が無事なことを確認する。
僕はこのくらいならば受け身を取れるから大丈夫。
あの子が僕を見た。
そして、真っ赤になった。
あの子はか細い声で言う。
いつも遠くから見ていました。
素敵な方だと思って、声がかけられないでいました。
そんなことを言った。
そして彼女は笑った。
僕の頭に雷が落ちたような気分。
遠くにいた彼女は僕を見ていたんだ。
僕が繰り出すいろいろないたずらを見ていたんだ。
僕に注目していたんだ。
そして、僕はその彼女を助けられたんだ。
これが奇跡でなくて何だろうか。
もしかしたら、これはカミサマのいたずらかもしれない。
まったく、とんでもないいたずらを仕掛けてくれたものだよ。