神の力を持った聖女は今日も忙しい。
この世界になんかの拍子でやってきて、
どうやら召喚されたらしくて、
召喚とともにこの世界の神の力が繋がっていて、
私はなんだか聖女になってしまった。
力の繋がった神様と意思のアクセスをしたところ、
召喚という世界をまたぐときに、
神の力と混線したのではないかとのことだ。
神の存在というものは、
この世界を覆っている生命力そのもので、
この世界の恵みそのものであるらしい。
全てが神の恵みで生きている。
世界をまたぐ際にそこと繋がって、
その力が無尽蔵に繋がっているのだから、
私は無限の恵みを与える聖女となってしまったわけだ。
召喚された時は、
魔王というものがいるとのことだった。
魔王が神の力を反転させて、
世の中を混乱に陥れているとのことだった。
この世界で勇者が選ばれて、
勇者を助ける存在を、召喚しようとなったらしい。
その時たまたま召喚のチャンネルがあったのが私だった。
ラジオのチューニングがあったように、
召喚の声が届いて、
私は異世界に召喚されて、
神の力なんかも繋がった。
私は勇者を助けるものになれと言われて、
まぁやれるだけやりますかと思ったら、
聖女の力は無尽蔵ゆえに、
神の力を反転していた魔王の能力を圧倒して、
反転できないほどの聖女の力で覆いつくした。
魔王は無力化して戦いは終わった。
聖女はここから忙しくなる。
魔王が無力化して、
世界からはひとまず脅威がなくなったけれど
そうなると、個人や町や村や国などの要望がたくさん出てくる。
魔王という大きな脅威に対しては、
みんなで一致団結していたけれど、
それがなくなったら、
それぞれの希望や要望がどんどん出てくる。
ついでに、聖女の力は無尽蔵なので、
神の力でどうにかなることならば、
全部をかなえることができてしまう。
だからとても忙しい。
魔王をひねりつぶしたのがとても楽だったと思うくらいに忙しい。
この世界の一番大きな国の城に、
聖女の部屋があって、
朝そこで起きて身支度を整えられると、
その間に今日のスケジュールが読み上げられる。
時間の単位はこの世界のものだけど、
大雑把に言って、分刻みと思っていい。
日本の鉄道くらいシビアな分刻みだ。
城の料理長が作った美味しい食事を時間内に食べると、
分刻みの聖女謁見の時間が始まる。
聖女には誰でも会える。
聖女ができる範囲であれば、どんな恵みも与えられる。
基本、何かを傷つけるという望みはかなえられないけれど、
生命力を増すことによってなんとかなるのならば、
大体かなえることができる。
遠方から来た誰かの願いであっても、
その場所さえ特定できればなんとかなる。
神の力は世界を覆っているからだ。
また、土地に関することも大体どうにかなる。
作物を実らせてほしいのもできるし、
氾濫が多い川をどうにかしてほしいのも、
作物を荒らす動物をどうにかしてほしいのも、
それが遠隔であっても、
この世界のことならばなんとかなってしまう。
恋に関することもかなえられる。
その場合は、本人の生命力を高めて魅力的に見せることができればいい。
頭がよくなりたいという願いだったら、
知識をどんどん得られるくらいの体力をつけることができる。
とにかく、この世界においては何でもできる。
ゆえに聖女に会いに来るものは分刻みだ。
たくさん言いたいことはあるのだろうけれど、
とにかく願いを伝えに来るものが多いので、
ある程度願いの方向性がわかったら、
先にその願いを聖女の力でかなえておく。
時々その予測が外れることがあるけれど、
外れていたら修正して願いを再びかなえる。
限られた時間なので願いをかなえるのもスピード勝負だ。
聖女としては微笑んでいるけれど、
頭の中ではどこの誰の願いをどうかなえるかで、
結構いろいろ考えている。
神様の力も借りているけれど、
それでも毎日とても忙しい。
聖女謁見が終わったら、
手紙で届いた願いをかなえていく。
やればできるとはいえ、
聖女というものはとても忙しい。
やりがいはあるのだけど、
やっぱり忙しい。