僕はかわいいぬいぐるみ。
持ち主のお姉さんといつも一緒。
鞄に下げられている、
透明のケースが僕のお出掛けの定位置。
お出掛けの時はその柔らかいケースに入って、
お姉さんと一緒にいろいろなものを見る。
お食事の時は、お店の人に許可を得てから、
ケースから出してもらって、
美味しいお食事と一緒の写真を撮ってもらう。
僕と一緒に映ると、お食事も引き立つよね。
僕はお姉さんのお気に入りのぬいぐるみ。
どこでも一緒。
ある日。
僕はお姉さんと一緒に遠出した。
電車に乗って、飛行機に乗って、
バスにも乗って、遠い所へ。
たくさんの風景を見た。
お姉さんと一緒にいられることがとってもうれしかった。
お姉さんは目的地に向かう。
僕は透明のケースの中で風景を見ている。
不意に、透明のケースの金具が外れた。
鞄からぶら下がっていた僕の入ったケースは、
落っこちてしまった。
大きな音を立てていないから、
お姉さんは気が付かない。
僕はここだよ。
僕は叫ぶけれどその声は届かない。
僕は遠くの地で置いてきぼりになってしまった。
僕は透明のケースに入ったまま、そこに落ちていた。
動きがあったなと思ったら、
野良猫が僕のケースをくわえていた。
何を思ったのか、ケースをくわえたまま走り出してしまった。
とにかく止まって止まってと僕は叫ぶ。
野良猫はケースをくわえて走って、
ある場所で人間に声をかけられて、
びっくりしてケースを落とすと、
そのまま野良ネコは逃げていった。
僕はよくわからないところに置いてけぼりになった。
周りはゴミがあるみたいだ。
僕はゴミと一緒に出されちゃうのかな。
そしたらお姉さんに会えなくなっちゃうな。
どうにか会えないかなと願うけれど、
ぬいぐるみがそんなことできるわけがない。
悲しい気持ちになっていたら、
透明のケースごと、僕が浮いた。
何事と思って周りを見たら、
透明のケースがカラスの足でつかまれて飛んでいる。
このままじゃさらに遠くに行っちゃって、
お姉さんが見つけられないところに行っちゃう。
絶対に帰れなくなっちゃうし、
絶対ゴミになっちゃう。
そんな悲しいことは嫌だと思う。
帰りたい、帰りたい。
僕は願うけれど、
カラスはケースをつかんだまま、
町をどんどん飛んでいってしまう。
どんな町か全然わからない。
ここでゴミになっちゃうのかなと僕は悲しくなった。
カラスが大声で鳴きだした。
カラスより大きな鳥が来たらしい。
威嚇だろうか。
カラスは僕に構っていられなくなったのか、
僕の入ったケースを落として、
大きな鳥と縄張り争いをし始めたらしい。
僕はと言うと、
透明なケースごと落っこちていく。
ここがどこなのかわからない。
ただ、水のないところに落ちるといいなと僕は思った。
誰か、いい人に見つかって、
落とし物だと届けられるといいなと願った。
僕は芝生の上に落っこちた。
公園とか、美術館とか、なんだかそんなところかなと僕は思う。
ここならだれかに拾ってもらえるかなと思った。
足音が近づいてきた。
誰かな、拾ってくれるのかなと僕は期待する。
拾ってくれた人は、僕の持ち主のお姉さんだ。
ないと思ったらこんなところに落ちてた、って言ってた。
この芝生のあるところは、
お姉さんの見たいものがあるところの近くだったんだね。
僕は大冒険をして、
お姉さんの近くにたどり着けたんだね。
よかったぁと思った。
一難去ってまた一難。
お姉さんに会えないんじゃないかと思ったけれど、
こうして、お姉さんのもとに帰って来れてよかった。
結構大変な思いをしたんだけど、
ぬいぐるみの言葉は届かないから、
これは僕の秘密になっちゃうね。
ただ、もう、こんな冒険はこりごりだから、
新しいケースにしてくれると嬉しいな。
今度は外れないのがいいな。
僕はいつでもお姉さんと一緒。
また一緒にお出掛けしようね。