明日は面接だ。
今まで仕事ができなかったけれど、
明日の面接次第では、
ようやく仕事ができるようになるかもしれない。
仕事をして収入を得る。
それが生きることになる。
この面接で生きられるかが決まると言っても過言ではない。
でも、問題がある。
面接に着ていく服がない。
一大事だ。
この部屋にはよれよれの服しかない。
見た目印象は最悪だ。
今から洗って乾かしても、
そもそも面接に合わせた服でないことは明らかだ。
仕事を求めに行ったのに、
ふざけているのかと思われるような服しかない。
そもそも、服を買いに行くための服がない。
面接ならばしかるべき服を着なくてはならない。
そのしかるべき服を買いに行くための服がない。
私は、とある世界を追い出された存在だ。
国を持っていて軍を持っていた。
統治していたはずだったが、
いろいろと私が邪魔になってしまって、
罪人として世界から追放された。
この世界には魔法がない。
私は何の力も持たない。
その日の糧にも困るほどの状態だった。
ひもじい思いをしている私を、
幼い兄と妹が見つけた。
お家おいでよと言ったので、
弱った私は彼らについていった。
彼らの家は、大きくあったが、
親の気配が全くなかった。
使用人の気配もない。
困ったときはお金を使えとだけ言われて、
幼い彼らは放置されているらしい。
家の中は荒れ果てていて、
幼子が暮らすものではない。
私は国を動かすほどの存在ではあったけれど、
あの国にもこんなに困っている子どもがいただろうか。
国をまとめているつもりになって、
こぼれていた子どもがいなかっただろうか。
私は決心した。
まずはこの子どもたちを育て上げよう。
そのために、私は働かなくてはならない。
子どもたちから、
どんな仕事があるのかを聞き出して、
この世界の仕組みを聞き出して、
家を片付けながらこの世界を覚えつつ、
電話の使い方を覚えて、
家にあったパソコンというもので、
調べ物をするということを教えてもらった。
とても頭のいい子どもたちだ。
こんな子どもたちが困っていたら助けなくてはならない。
私はこの世界のことを飲み込みつつ、
仕事を調べた。
電話でいくつか断られた後、
面接までこぎつけた。
それが翌日に迫っているとき、
私は異世界の装束を着たままに待っていることに気が付いた。
洗濯すれば汚れが落ちるだろう。
乾燥機というものは、洗濯物をすぐさま乾かす。
しかし、この服はこの世界とは全然違う服である。
面接に行けば、ふざけていると言われるような服だ。
翌日に間に合うように、
面接に着ていく服などあるだろうか。
大問題で一大事だ。
私が生きることだけでなく、
この子たちを育てることにもかかわる。
幼い兄が、困っている私を見て、
家のとある部屋に案内してくれた。
そこは親たちが物を置くだけ置いて放置していた部屋らしい。
帰ってくるかわかんないから使っちゃおうという。
良心が咎めたが、
背に腹は代えられない。
彼らの残していったたくさんの物の山を探索する。
男物の衣類が出てきた。
どうやらこの世界の正装であるようだ。
あまり使った形跡はなく、
着てみたところ問題なく着れる。
親たちの残していった物の山を探索していると、
役に立ちそうなものがたくさん出てきた。
これならば明日の面接も何とかなるかもしれない。
あとは私の答え方次第だろう。
私は幼い子どもたちに言う。
私が働いて、君たちを育てていく。
君たちを立派な大人にする。
幼い子どもたちはきょとんとした後、
ありがとうと笑った。
なんとか、この世界の服が手に入った。
この世界の仕組みもわかってきた。
家の仕組みもわかってきたところで、
子どもたちを寝かしつけて、
私は家の中をもっと調べた。
親の部屋の机の引き出しに、
手紙が入っていた。
そこには祈りのような願いがかかれていた。
自分たちではこの子たちを育てられない。
お金は残せたけれど、
成長するまでともにいることができない。
誰か、いい人がこの子たちを育ててくれますように。
この病魔の進行は速い。
どうか、この子たちを誰かが守ってくれますように。
走り書きのこの手紙を私は読んだ。
親はこの一大事を隠し続けていたのだろう。
お金があればなんとかなって欲しい。
それしか残せないほど病んでいたのだろう。
そしておそらく親は帰ってこない。
子どもたちには伝えられないけれど、
私が子どもたちを育てていこうと思った。
国という枠組みからこぼれてしまった子どもを、
今度こそ救い上げよう。
いくつも準備がある。
履歴書というものは丁寧に。
学歴というものは、こちらの世界でないから、
この子たちの親のものを使わせてもらうことにした。
身分証明も使えるかもしれない。
生きるか死ぬかの瀬戸際の一大事。
異世界を追放されてきた私と、
親が消えた子どもたちは、
ともに強く生きていく。