ウサギを追いかけろと言われた。
なぜウサギかはわからない。
ただ、ウサギを追いかけて行けと言われた。
何かの映画だったように思う。
ウサギを追いかけろと命令されて、
ウサギの刺青の入った女性を追ったとか、
あるいは、古典の作品だけど、
ウサギを追いかける少女だとか、
あれはアリスと言っただろうか。
読んだことはないけれど、
ウサギを追いかけるということだけは覚えている。
多分ウサギを追いかけるのは、
何かの入口になっているのだと思う。
異なる世界の入口であったり、
何かが変わる予兆としての導き手なのかもしれない。
ここは多分夢の中だと思う。
足の感覚がない。
多分寝床にいるから、
足が地に着いた感覚がない。
身体の感覚はぼんやりしている。
確たる感覚がないあたり、
寝床で寝ているためだとも思う。
身体が布団に接しているから、
身体がぼんやりした感覚になっている。
そんなことをつらつらと考える。
ここは多分夢の中。
身体はよく寝ているんだろう。
夢の中を滑るように進むと、
旧式のパソコンがあった。
覗き込むと、文字が出てきた。
ウサギを追いかけろ。
そんな無機質な文字だった。
映画っぽいなとも思ったし、
夢特有のよくわからなさだとも思った。
刺青の女性が出るのかなと思った。
あの映画好きだったんだよなと思いつつ、
夢の中を滑るように移動する。
部屋の扉を開けると、
足元に白ウサギがいた。
なるほどこのウサギを追いかけろとのことか。
納得しかけたとき、
扉の横からさらに白ウサギが出てきた。
おやと思うのもつかの間、
あちこちからウサギがどんどん出てくる。
音で表すならばわらわらと。
一体どれを追えばいいんだと思う間もなく、
大量のウサギが出てきた。
大量のウサギは、夢を見ている自分を乗せて、
一斉に移動を始める。
ウサギの波に乗っているようだ。
白いウサギが大波になってある方向へと走っている。
ぴょんぴょんしているものだから、
ウサギの波の上で自分の身体がなんだか揺れる。
ウサギの波はいろいろなところを駆け抜ける。
いつも見ている街並みのようなところ、
田舎のようなところ、
山の中、森の奥、川も突っ切る。
海の上も走り抜ける。
異国も走る。
砂漠も平気で走る。
映像でしか見たことのない異国の建物も突っ切る。
雪をかぶった山の上も走る。
ジャングルも走る。
すごい勢いで世界中をウサギが走る。
ウサギはやがて、空に向けて走り出す。
ああ、夢なんだなとは思ったけれど、
夢とはいえ、空まで走るとは思っていなかった。
ウサギの波は空を目指し、空気がないはずの高い空も突っ切っていく。
どこまで行けるのか、楽しくなってきた。
ウサギは空を、宇宙を目指し、
目の前に月が見えてきた。
ウサギの波はそこを目指していた。
たくさんのウサギに乗ったまま、
いつの間にか月に降り立っていた。
月には扉があった。
ウサギ印の扉だ。
この扉を開くために導かれたのかもしれないと思う。
この扉の向こうは何があるのだろうか。
夢としか言いようの中ウサギの波の、
さらに向こうには何があるのだろうか。
映画のように何かが変わるのだろうか。
アリスのように不思議な世界が始まるのだろうか。
扉に手をかける。
扉の感覚を持ったまま、
目が覚めた。
夢の中にいたはずなのに、
扉の感覚だけはやけにリアルだった。
そして、扉を開こうとしたら、
目が覚めてしまった。
扉が開くことで何があるのか、
見届けてから夢から覚めたかったなと思う。
残念ではあるけれど、
何かのタイムリミットだったんだろうなと納得する。
寝床の感覚がなんだか違う。
部屋はいつもこんなものだっただろうか。
違和感を持った。
もしかしたらと思った。
寝床のある部屋から別の部屋に行く。
そこは見たことのない部屋。
見たことのない家。
鏡に映るのは見たことのない自分。
これは夢か現実か。
ウサギに導かれて、
別世界にやってきたようだ。
戸惑う私の足元に白いウサギ。
私は白いウサギを追った。
ここから何が起きるだろうか。
とても楽しみだ。