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第265話 夢のウサギを追いかけろ

ウサギを追いかけろと言われた。

なぜウサギかはわからない。

ただ、ウサギを追いかけて行けと言われた。


何かの映画だったように思う。

ウサギを追いかけろと命令されて、

ウサギの刺青の入った女性を追ったとか、

あるいは、古典の作品だけど、

ウサギを追いかける少女だとか、

あれはアリスと言っただろうか。

読んだことはないけれど、

ウサギを追いかけるということだけは覚えている。

多分ウサギを追いかけるのは、

何かの入口になっているのだと思う。

異なる世界の入口であったり、

何かが変わる予兆としての導き手なのかもしれない。


ここは多分夢の中だと思う。

足の感覚がない。

多分寝床にいるから、

足が地に着いた感覚がない。

身体の感覚はぼんやりしている。

確たる感覚がないあたり、

寝床で寝ているためだとも思う。

身体が布団に接しているから、

身体がぼんやりした感覚になっている。

そんなことをつらつらと考える。

ここは多分夢の中。

身体はよく寝ているんだろう。


夢の中を滑るように進むと、

旧式のパソコンがあった。

覗き込むと、文字が出てきた。

ウサギを追いかけろ。

そんな無機質な文字だった。

映画っぽいなとも思ったし、

夢特有のよくわからなさだとも思った。

刺青の女性が出るのかなと思った。

あの映画好きだったんだよなと思いつつ、

夢の中を滑るように移動する。


部屋の扉を開けると、

足元に白ウサギがいた。

なるほどこのウサギを追いかけろとのことか。

納得しかけたとき、

扉の横からさらに白ウサギが出てきた。

おやと思うのもつかの間、

あちこちからウサギがどんどん出てくる。

音で表すならばわらわらと。

一体どれを追えばいいんだと思う間もなく、

大量のウサギが出てきた。

大量のウサギは、夢を見ている自分を乗せて、

一斉に移動を始める。

ウサギの波に乗っているようだ。

白いウサギが大波になってある方向へと走っている。

ぴょんぴょんしているものだから、

ウサギの波の上で自分の身体がなんだか揺れる。


ウサギの波はいろいろなところを駆け抜ける。

いつも見ている街並みのようなところ、

田舎のようなところ、

山の中、森の奥、川も突っ切る。

海の上も走り抜ける。

異国も走る。

砂漠も平気で走る。

映像でしか見たことのない異国の建物も突っ切る。

雪をかぶった山の上も走る。

ジャングルも走る。

すごい勢いで世界中をウサギが走る。

ウサギはやがて、空に向けて走り出す。

ああ、夢なんだなとは思ったけれど、

夢とはいえ、空まで走るとは思っていなかった。

ウサギの波は空を目指し、空気がないはずの高い空も突っ切っていく。

どこまで行けるのか、楽しくなってきた。

ウサギは空を、宇宙を目指し、

目の前に月が見えてきた。

ウサギの波はそこを目指していた。

たくさんのウサギに乗ったまま、

いつの間にか月に降り立っていた。


月には扉があった。

ウサギ印の扉だ。

この扉を開くために導かれたのかもしれないと思う。

この扉の向こうは何があるのだろうか。

夢としか言いようの中ウサギの波の、

さらに向こうには何があるのだろうか。

映画のように何かが変わるのだろうか。

アリスのように不思議な世界が始まるのだろうか。

扉に手をかける。


扉の感覚を持ったまま、

目が覚めた。

夢の中にいたはずなのに、

扉の感覚だけはやけにリアルだった。

そして、扉を開こうとしたら、

目が覚めてしまった。

扉が開くことで何があるのか、

見届けてから夢から覚めたかったなと思う。

残念ではあるけれど、

何かのタイムリミットだったんだろうなと納得する。


寝床の感覚がなんだか違う。

部屋はいつもこんなものだっただろうか。

違和感を持った。

もしかしたらと思った。

寝床のある部屋から別の部屋に行く。

そこは見たことのない部屋。

見たことのない家。

鏡に映るのは見たことのない自分。


これは夢か現実か。

ウサギに導かれて、

別世界にやってきたようだ。

戸惑う私の足元に白いウサギ。

私は白いウサギを追った。

ここから何が起きるだろうか。

とても楽しみだ。

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