私はギルドの受付係。
おもに冒険者に依頼を斡旋していたりしています。
冒険者ランクに応じた依頼や、
その冒険者の得意な依頼など、
いろいろと考えた上で案内をしています。
それがお仕事なんですけれど、
どうにも最近面倒なことになってきました。
私は、生まれつき、魅了の力が備わっていたようです。
魅了の力とは、とにかく魅力的に見えてしまうという能力で、
魅了されてしまいますと、
相手に対して何でもしてしまうという、
言い方が悪ければ恋の奴隷のようになります。
奴隷を力で従わせますと、不満があったりして、
やがて革命などと言うことも歴史の上ではありますけれど、
魅了の力は、あくまで魅力的な主に、
自主的に使える奴隷になるような感じになります。
私はその力があることを知らずに、
また、周りにも影響がなく、
普通の女性として育ってきました。
そして、働き口として、ギルドの受付係を選んだのも、
堅実そうだし、冒険者と違って危険なことがない。
商売するより、農業に従事するより、
私に向いていそうだなと、
それだけの理由でした。
ギルドの受付係をしていますと、
冒険者から、いろいろな採取物や狩りの品などが持ち込まれます。
その中には、魔力を帯びたものもあります。
受付係は様々の品を手にして、鑑定係に持って行きます。
それらの品々を手にすることによって、
どうやら私の魅了の力が表に出てきてしまったようでした。
それが最近のことで、困ったことになっています。
冒険者の男女を問わず、
みんな私に会いに来ます。
私の斡旋した依頼は、
私を喜ばせるために何としてでもやり遂げると言って、
無茶をする冒険者が後を絶ちません。
それゆえ、冒険者への依頼の斡旋は、
今まで以上に慎重になりました。
下手にレベルに合わない依頼を斡旋して、
大怪我でもされたら問題です。
それなのに、私にいいところを見せたいからと、
高レベル依頼を求める冒険者が増えました。
依頼を完遂して冒険者が戻ってきますと、
採取物や狩りの品を提出するのですが、
依頼の品を確認しましたと、少しでも微笑もうものならば、
微笑みで完全に魅了されてしまって、
疲れも取れていないはずなのに、
すぐさま次の依頼を受けようとしています。
みんな、受付係の私のためにと言います。
私に微笑んでもらいたくて、
私に喜んでほしくて、
私に依頼完遂の品を受け取ってもらいたくて、
とにかく冒険者が無茶をします。
やんわりと、無理しないでくださいとでも言おうものならば、
そのまま骨抜きにされてしまって、
優しい言葉をかけてもらったと大喜びするのです。
私はとにかく表では営業用で微笑むのですが、
かなりの憂鬱です。
今はとにかく、魅了の力が少なくなることを祈るばかりです。
それでも受付係をしていると、
特殊なものが持ち込まれることがあり、
それを受け取って手にすることにより、
さらに魅了の力が引き出されるようです。
受付係という仕事が苦になっている訳でなく、
この仕事自体は私に向いていて、やりがいがあると思います。
ただ、受付係という仕事だけならばいいのです。
魅了の力が出てこなければいいのです。
今まで眠っていた魅了の力が表に出てきて、
なんとも面倒な日々が続いています。
受付係は堅実な仕事です。
お給料も悪くないですし、
危険なこともありません。
受付と事務の仕事が主ですので、
それらが得意である私には向いている仕事です。
とにかく魅了の力、それで困っているので、
受付係の仕事の合間に、
いろいろな文献をあたって困った力の対処方法を調べています。
文献をあたって、知識は増えてきましたが、
なかなか狙いの方法にはたどり着いていません。
今日も冒険者がたくさんやって来ます。
みんな私に喜んでもらいたい一心で依頼をこなします。
なんとかしたいのですが、
今は営業用の笑顔で乗り切るばかりです。
心の中で盛大にため息。
誰かどうにかしてと心の中で叫ぶのでした。