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第266話 受付係の憂鬱

私はギルドの受付係。

おもに冒険者に依頼を斡旋していたりしています。

冒険者ランクに応じた依頼や、

その冒険者の得意な依頼など、

いろいろと考えた上で案内をしています。

それがお仕事なんですけれど、

どうにも最近面倒なことになってきました。


私は、生まれつき、魅了の力が備わっていたようです。

魅了の力とは、とにかく魅力的に見えてしまうという能力で、

魅了されてしまいますと、

相手に対して何でもしてしまうという、

言い方が悪ければ恋の奴隷のようになります。

奴隷を力で従わせますと、不満があったりして、

やがて革命などと言うことも歴史の上ではありますけれど、

魅了の力は、あくまで魅力的な主に、

自主的に使える奴隷になるような感じになります。

私はその力があることを知らずに、

また、周りにも影響がなく、

普通の女性として育ってきました。

そして、働き口として、ギルドの受付係を選んだのも、

堅実そうだし、冒険者と違って危険なことがない。

商売するより、農業に従事するより、

私に向いていそうだなと、

それだけの理由でした。

ギルドの受付係をしていますと、

冒険者から、いろいろな採取物や狩りの品などが持ち込まれます。

その中には、魔力を帯びたものもあります。

受付係は様々の品を手にして、鑑定係に持って行きます。

それらの品々を手にすることによって、

どうやら私の魅了の力が表に出てきてしまったようでした。

それが最近のことで、困ったことになっています。


冒険者の男女を問わず、

みんな私に会いに来ます。

私の斡旋した依頼は、

私を喜ばせるために何としてでもやり遂げると言って、

無茶をする冒険者が後を絶ちません。

それゆえ、冒険者への依頼の斡旋は、

今まで以上に慎重になりました。

下手にレベルに合わない依頼を斡旋して、

大怪我でもされたら問題です。

それなのに、私にいいところを見せたいからと、

高レベル依頼を求める冒険者が増えました。

依頼を完遂して冒険者が戻ってきますと、

採取物や狩りの品を提出するのですが、

依頼の品を確認しましたと、少しでも微笑もうものならば、

微笑みで完全に魅了されてしまって、

疲れも取れていないはずなのに、

すぐさま次の依頼を受けようとしています。

みんな、受付係の私のためにと言います。

私に微笑んでもらいたくて、

私に喜んでほしくて、

私に依頼完遂の品を受け取ってもらいたくて、

とにかく冒険者が無茶をします。

やんわりと、無理しないでくださいとでも言おうものならば、

そのまま骨抜きにされてしまって、

優しい言葉をかけてもらったと大喜びするのです。

私はとにかく表では営業用で微笑むのですが、

かなりの憂鬱です。


今はとにかく、魅了の力が少なくなることを祈るばかりです。

それでも受付係をしていると、

特殊なものが持ち込まれることがあり、

それを受け取って手にすることにより、

さらに魅了の力が引き出されるようです。

受付係という仕事が苦になっている訳でなく、

この仕事自体は私に向いていて、やりがいがあると思います。

ただ、受付係という仕事だけならばいいのです。

魅了の力が出てこなければいいのです。

今まで眠っていた魅了の力が表に出てきて、

なんとも面倒な日々が続いています。

受付係は堅実な仕事です。

お給料も悪くないですし、

危険なこともありません。

受付と事務の仕事が主ですので、

それらが得意である私には向いている仕事です。

とにかく魅了の力、それで困っているので、

受付係の仕事の合間に、

いろいろな文献をあたって困った力の対処方法を調べています。

文献をあたって、知識は増えてきましたが、

なかなか狙いの方法にはたどり着いていません。


今日も冒険者がたくさんやって来ます。

みんな私に喜んでもらいたい一心で依頼をこなします。

なんとかしたいのですが、

今は営業用の笑顔で乗り切るばかりです。

心の中で盛大にため息。

誰かどうにかしてと心の中で叫ぶのでした。

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