ターゲットはあの指輪。
誰も傷つけずに撃ち抜かなければならない。
俺はふとした拍子にこの世界にやってきたものだ。
この世界は、国同士で争いごとをしていて、
その戦力として、いろんなところから、
戦力になりそうなものを呼び出しているらしい。
大きな図体の生き物がいたり、
何らかの術が使えるものだったり、
とにかく世界が違えばいろいろと力が違っていて、
それらを戦力にして国の争いに使うらしい。
めんどくさいなと俺は思った。
それでも呼び出されたのだから役に立てと言われて、
俺はしぶしぶ従った。
別の世界に来た以上、
別の世界の暮らしが保証されていないと困るからな。
俺は雇われているという立場になった。
俺は元の世界では狙撃手だった。
かなり遠い距離でも小さなものまで撃ち抜ける技術を持っている。
戦場で見つからずに頭を撃ち抜くなど朝飯前だ。
とりあえずスナイパーのライフルが欲しいと思った。
それを雇い主に持ち掛けたところ、
この世界でも似たものはあった。
戦争であっちこっちから色々と呼びだしていると、
こんなものを作れる技術者も呼び出しているのかもしれない。
何度か試し打ちをして、行けると思った。
いつでも戦場に行けると言ったが、
俺の狙撃の腕前を見た雇い主は、
別の仕事をしてもらうと言った。
暗殺だろうかと俺は思ったが、
雇い主は言葉を濁した。
俺たちは、国のいわゆる首脳が集まる会議に潜入した。
集まっているどの国も、他の国を出し抜いてやろうと思っている。
そのためにいろいろ呼び出されているし、
そのために争いが絶えない。
俺と隠密部隊は、各国首脳が見える物陰に身を隠した。
ライフルのスコープで細かいものまで見える。
どうやら赤外線スコープもあるらしい。
一体どこの技術までこの世界に呼び出されているんだろう。
ともかく、俺の仕事としては、装備はそろっている。
雇い主からの指示はこうだ。
各国首脳は指輪を持っている。
その指輪はこの世界で絶大な力を持てる指輪だ。
指輪の際限ない力を用いて、
各国の首脳や王などは、違う世界から戦力や技術を呼び出している。
指輪がある限りそれは止まらないし、
欲望も止まらないし、
争いごとも止まらない。
戦力として呼び出されたものも、
死ぬまで使う、使い捨てだ。
補充するときは、また指輪の力で呼び出すだけだ。
このままではこの世界がおかしくなる。
その前に、指輪を壊して、すべてを止めて欲しい。
ターゲットはこの場に集まるものすべての指輪。
ひとつでも逃すとその国の独裁になる。
すべての国から指輪の力をなくすため、
指輪だけを、すべて、破壊すること。
誰も傷つけることなく、
誰も殺すことなく、
そして、見つかることなく、
指輪を破壊しろ。
そんな指示だった。
俺は物陰からスコープで各国の偉い奴らを見る。
ダミーを持ってきている可能性も考えたけれど、
力を見せびらかすような奴らのことだ、
おそらく指輪の力を誇示しあうだろうと俺は踏んだ。
だとすればすべてが本物。
俺は各国のお偉いさんの動きと指輪の指を確かめてから、
照明を狙撃して部屋を真っ暗にした。
混乱に陥る前の一拍。
何が起きたかわからない瞬間。
暗闇のその瞬間で、俺はターゲットの指輪をすべて撃ち抜く。
指輪は撃ち抜かれると、
煙のように形をなくした。
狙撃の音が暗闇に響いたことで、
部屋が混乱に陥ったらしい。
おそらく明かりを求めている。
俺と、隠密部隊は、
暗闇に乗じて隠れていた場から逃げる。
ようやく騒ぎになってきた。
その頃には俺たちはまんまと逃げおおせていた。
この世界は一夜にして勢力図が変わった。
世界中から指輪が消えた。
指輪を使って権力を持っていたものは、
一夜にして何の力もなくなった。
各国は混乱に陥り、
戦争どころでなくなった。
これからどうなるかはわからない。
ただ、俺のように呼び出されるものはいなくなるはずだ。
さて、これからどうしようかと俺は思う。
指輪を狙撃しろと言った雇い主は、
俺は逃げるからお前もどこかに逃げろと言っていた。
まぁ、この世界のほとぼりが冷めるまで旅でもするかと思う。
呼び出されたものでごちゃごちゃした世界だ。
俺みたいなのが旅をしていてもそんなに目立つことはないだろう。
狙撃手は異世界を歩く。
あてはない。