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第268話 ターゲットを撃ち抜け

ターゲットはあの指輪。

誰も傷つけずに撃ち抜かなければならない。


俺はふとした拍子にこの世界にやってきたものだ。

この世界は、国同士で争いごとをしていて、

その戦力として、いろんなところから、

戦力になりそうなものを呼び出しているらしい。

大きな図体の生き物がいたり、

何らかの術が使えるものだったり、

とにかく世界が違えばいろいろと力が違っていて、

それらを戦力にして国の争いに使うらしい。

めんどくさいなと俺は思った。

それでも呼び出されたのだから役に立てと言われて、

俺はしぶしぶ従った。

別の世界に来た以上、

別の世界の暮らしが保証されていないと困るからな。

俺は雇われているという立場になった。


俺は元の世界では狙撃手だった。

かなり遠い距離でも小さなものまで撃ち抜ける技術を持っている。

戦場で見つからずに頭を撃ち抜くなど朝飯前だ。

とりあえずスナイパーのライフルが欲しいと思った。

それを雇い主に持ち掛けたところ、

この世界でも似たものはあった。

戦争であっちこっちから色々と呼びだしていると、

こんなものを作れる技術者も呼び出しているのかもしれない。

何度か試し打ちをして、行けると思った。

いつでも戦場に行けると言ったが、

俺の狙撃の腕前を見た雇い主は、

別の仕事をしてもらうと言った。

暗殺だろうかと俺は思ったが、

雇い主は言葉を濁した。


俺たちは、国のいわゆる首脳が集まる会議に潜入した。

集まっているどの国も、他の国を出し抜いてやろうと思っている。

そのためにいろいろ呼び出されているし、

そのために争いが絶えない。

俺と隠密部隊は、各国首脳が見える物陰に身を隠した。

ライフルのスコープで細かいものまで見える。

どうやら赤外線スコープもあるらしい。

一体どこの技術までこの世界に呼び出されているんだろう。

ともかく、俺の仕事としては、装備はそろっている。


雇い主からの指示はこうだ。

各国首脳は指輪を持っている。

その指輪はこの世界で絶大な力を持てる指輪だ。

指輪の際限ない力を用いて、

各国の首脳や王などは、違う世界から戦力や技術を呼び出している。

指輪がある限りそれは止まらないし、

欲望も止まらないし、

争いごとも止まらない。

戦力として呼び出されたものも、

死ぬまで使う、使い捨てだ。

補充するときは、また指輪の力で呼び出すだけだ。

このままではこの世界がおかしくなる。

その前に、指輪を壊して、すべてを止めて欲しい。

ターゲットはこの場に集まるものすべての指輪。

ひとつでも逃すとその国の独裁になる。

すべての国から指輪の力をなくすため、

指輪だけを、すべて、破壊すること。

誰も傷つけることなく、

誰も殺すことなく、

そして、見つかることなく、

指輪を破壊しろ。

そんな指示だった。


俺は物陰からスコープで各国の偉い奴らを見る。

ダミーを持ってきている可能性も考えたけれど、

力を見せびらかすような奴らのことだ、

おそらく指輪の力を誇示しあうだろうと俺は踏んだ。

だとすればすべてが本物。

俺は各国のお偉いさんの動きと指輪の指を確かめてから、

照明を狙撃して部屋を真っ暗にした。

混乱に陥る前の一拍。

何が起きたかわからない瞬間。

暗闇のその瞬間で、俺はターゲットの指輪をすべて撃ち抜く。

指輪は撃ち抜かれると、

煙のように形をなくした。

狙撃の音が暗闇に響いたことで、

部屋が混乱に陥ったらしい。

おそらく明かりを求めている。

俺と、隠密部隊は、

暗闇に乗じて隠れていた場から逃げる。

ようやく騒ぎになってきた。

その頃には俺たちはまんまと逃げおおせていた。


この世界は一夜にして勢力図が変わった。

世界中から指輪が消えた。

指輪を使って権力を持っていたものは、

一夜にして何の力もなくなった。

各国は混乱に陥り、

戦争どころでなくなった。

これからどうなるかはわからない。

ただ、俺のように呼び出されるものはいなくなるはずだ。

さて、これからどうしようかと俺は思う。

指輪を狙撃しろと言った雇い主は、

俺は逃げるからお前もどこかに逃げろと言っていた。

まぁ、この世界のほとぼりが冷めるまで旅でもするかと思う。


呼び出されたものでごちゃごちゃした世界だ。

俺みたいなのが旅をしていてもそんなに目立つことはないだろう。

狙撃手は異世界を歩く。

あてはない。

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