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第276話 あるとないとでは大違い

カレンダーにシールをペタリ。

これがあるとないとでは大違いだ。


私たち夫婦は、結婚してしばらく経つけれど、

お互いのことが理解できなくて、

ケンカはしないけれどぎくしゃくしていた。

お互いに、どう伝えれば棘が立たないかを考えすぎて、

結果的に距離を置いて黙ってしまうこともしばしば。

夫婦だというのに、

お互いにどうしていいか途方に暮れていた。


ある年の暮れ頃。

来年のカレンダーを選びに行った。

なんとなく選んだのは、お互い同じものだった。

ああ、このあたりは一緒なんだと思った。

大きなカレンダーで、予定などがたくさん書けるもの。

なおかつ、装飾が少ないもの。

余計なものがない故に何でも書ける。

そこがいいというポイントが一緒なんだなと思った。

なんとなくお互いの顔を見合って笑顔になった。


年が明けてから、そのカレンダーを使った。

お互いに予定を書き込んでいく。

時間があればこれをやってほしいという、

要望が書かれることも増えてきた。

こっちも疲れているのになぁと、少しばかりムッとしたとき、

要望のところに、爪ほどの大きさの動物シールを貼って、

その日は忙しいよと吹き出し付きで言わせた。

代理で言わせたような感じだから、

どうかなぁと思ったけれど、

次にカレンダーを見たときは、

やっぱり爪ほどの大きさの動物シールが貼られていて、

ごめんと吹き出しがあった。

カレンダーと動物シールで、

私たち夫婦はお互いのことを知っていった。


そっけのない大きなカレンダーは、

動物シールがあちこちに貼られている。

最初はいろいろと使っていたけれど、

最近は、夫がパンダで私が猫を使っている。

夫が何かを伝えたいときは、

カレンダーにパンダのシールを貼る。

私が伝えたいときは猫のシールだ。

カレンダーでパンダと猫はいろいろなやり取りをしていて、

ああ、これで私たちは夫婦になれたんだなと思った。


パンダと猫以外の動物シールの場合は、

近日公開の映画や、

お互いに楽しみにしていそうなイベントのことが書かれている。

イベントはお互いに書くけれど、

イベントに対していけるか行けないかは、

お互いのパンダや猫のシールで答える。

以前だったら誘われたら無理していっていたかもしれないけれど、

自分の予定と楽しみにしていることの、

バランスが取れるようになってきたし、

またの機会にとも言いやすくなったし、

動物シールは雄弁に私たちの気持ちを語る。


シールがペタリと貼られる。

カレンダーは私たち夫婦の日々がつづられている。

いろいろな動物たちのシールが楽しそうに、

いろいろな予定を話してくれている。

カレンダーを見ていると楽しい。

シールを貼ることによって、思いを素直に書ける。

シールがあるのとないのとでは大違いだ。


カレンダーにパンダのシールが貼ってあって、

健康診断もうすぐと書いてある。

これから対策したってそんなに効果があるわけじゃないと思うけれど、

可能な限り食に気をつかってあげようと思った。

私は猫のシールを貼って、

揚げ物注意、お酒注意と書いておいた。

そういえば最近、夫の体型がパンダに似てきた気がする。

よく言えばぽっちゃりしてきたような。

私が猫かと言うとよくわからないけれど、

もしかしたら猫っぽくなってきたかもしれない。

お互いに似ているようなパンダと猫のシールは、カレンダーを彩る。


ぎこちなかった夫婦の間に、

笑顔があふれるようになった。

思い付きで始めたシールだったけれど、

動物シールは私たちの気持ちを表すために必要不可欠なものになった。

あなたを知るために必要なもの。

私を知ってもらうのに必要なもの。

それはとても小さなものだけど、

あるのとないのとでは大違い。

今日も爪くらいの大きさのシールを貼って、

晩御飯の献立予定を書いておいた。

健康診断がもうすぐらしいから、

効果が出るかはわからないけれど、

お野菜多め油少なめでお魚料理にしてみた。

さて、我が家のパンダさんがどれほどの健康診断の結果が出るだろう。

やれることをやろうと思いつつ、

健康についてもうちょっと手伝おうと思う。


末永く、パンダと猫のシールが貼られるカレンダーを続けるためにも、

お互いが健康でないといけない。

末永くいつまでも。

ともに白髪が生えるまで。

そこまで続けられたら楽しいだろうなと思う。


そんな生活を夢想しつつ、

私は健康について考える。

うちのパンダさんのお腹をどうにかしないとね。

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