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第283話 角砂糖を溶かす

あたたかいコーヒーに角砂糖を二つ。

ちょっと甘めがちょうどいい。


このところの猛暑で、

冷たいものを飲食する機会が増えた。

とにかく身体の中から冷やそうとした。

なんとか冷えた空間を探して、

冷たいものを食べたり飲んだりした。

外に出れば強烈な日差しと猛暑。

そのアップダウンでほとほと参ってしまった。


この猛暑だから冷やすのは当然としても、

冷やしすぎてもよくないと感じた。

お腹の中から冷えていて、

そのくせ身体の表面は暑くて汗だくで、

なんだかまずいなと思っていた。


猛暑でくらくらしながら、

涼を求めて喫茶店に入った。

ほどよく涼しい。

店や施設によっては、ものすごく冷やしているところもあって、

寒いくらいに感じるところもある。

とにかくこの暑さを冷やす意味では正解なのかもしれないけれど、

寒すぎると、書いた汗も相まってとても冷えてしまう。

この喫茶店はそこまで寒くない。

ほどよく涼しくてホッとする。

猛暑の中の心地いいオアシスだ。

猛暑から冬の北国に行こうとは思わない。

一息つけるほどの涼が欲しかったんだなと思う。


お冷とおしぼり。

おしぼりは熱い。

顔を拭きたいなと思ったけれど我慢した。

熱いおしぼりで汗まみれの顔を拭いたら、

一息つくだろうという誘惑はあったけれど、

そのあたりは我慢した。


メニューを見ていたら、

オムライスの文字が飛び込んできた。

コーヒーセットもあるらしい。

このところ冷えたものを食べてばかりいたので、

ほどよく涼しい喫茶店であたたかいものを食べようと思った。

私はオムライスのコーヒーセットを注文した。


オムライスは店主の手作りで、

古き良き喫茶店のオムライスだ。

あたたかい料理が冷えすぎていた身体を落ち着けていく。

そして何より、とても美味しい。

食べたことがあるはずもないのに、

なんだか懐かしく、ホッとする。

この喫茶店がオアシスだと感じたけれど、

ストレスフルの現代においても、

ストレスから落ち着ける場所としてのオアシスなのかもしれない。

なかなかいい店に入ったなと思う。

オムライスは食べてお腹に入ると、

間もなく身体に元気をもたらしてくれる。

あたたかさと栄養があるのだろうなと思う。

猛暑の疲れと、冷えすぎた身体が元気になっていく。


食後にホットコーヒーが出てきた。

角砂糖の瓶から、角砂糖を二つつまんで溶かす。

ちょっと甘めがちょうどいい。

コーヒーカップのコーヒーをかき混ぜていたら、

コーヒースプーンがカップに少し触れる音が、

心地よく響く。

コーヒーをすすると、

豊かな香りが鼻に抜け、

角砂糖二個分の甘さと、コーヒー本来の心地いい苦みが流れていく。

あたたかなコーヒーは口から喉に入り、

ふわりと身体をあたためる。

オムライスであたたまっていたけれど、

コーヒーのあたたかさは風味も相まってまた絶妙だ。

猛暑と冷え過ぎでめちゃくちゃになっていた身体に、

調和が訪れていくのを感じる。

癒されるとはこんなことも指すのだろうなと思う。


喫茶店で角砂糖を溶かしたコーヒーをゆっくりすすって、

ため息をついてぼんやりする。

何かしなくてはという感覚から解放される。

時間という時間に意味がなくてはいけないという感覚からも解き放たれる。

時間があったらこれをしなくてはという詰込みからも解放される。

今は、角砂糖を多めに溶かしたコーヒーを楽しむ時間。

猛暑の中で何かしなくてはいけないということからも離れて、

猛暑なのだからとにかく冷やさなくてはいけないことからも解放されて、

自分にとってバランスの取れた心地いい感覚を取り戻す時間。

それは、自分自身を取り戻す時間でもあるのだろうなと思う。


ゆったり涼しい時間を楽しんで、

私は私自身を取り戻した。

またバランスが崩れてしまったらここに来ればいい。

いや、いい喫茶店を見つけた。

ここは私のオアシスだ。

またゆっくり、コーヒーに角砂糖を溶かしてのんびりしよう。

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