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第284話 覚悟はできたか

何があってもこの人を守る覚悟はできたか。


この方は予言された聖人。

予言によると世界を救うとされる。

世界を救う旅の中で、

数々の敵が現れるらしい。

その敵から守る守護者が必要であるらしい。

守護者は聖人に代わって戦い、

敵を倒し、あるいは命を落とす。

聖人が世界を救うまで、

戦い続けないといけない存在だ。

私は国の意向で守護者に抜擢された。

戦う能力が秀でていることが理由だ。

他にもさまざまのものが守護者に選抜された。

たくさんの守護者に囲まれて、

聖人たち一行は世界を救う旅に出る。


敵は予想以上に多く、強い。

国が違えば信じているものも違う。

聖人を異教徒として迫害する国もあった。

聖人を守って守護者が死んだ。

あるいは、獣が聖人を襲った。

かばって守護者が死んだ。

国を出るときに選抜された守護者は、

どんどん数を減らしていった。


何人も守護者の死を見てきた。

皆喜んで死んでいった。

聖人のために死ねることを喜んでいた。

私はそこまでの覚悟はない。

死ぬことは恐ろしい。

私がなくなるのが怖い。

痛みは嫌だ。

命を捨てるほどの覚悟はない。


聖人は旅する先々で奇跡を見せた。

それは人々を感動させた。

いろいろなことで死んでいった守護者よりも多く、

新しい守護者が旅に加わっていった。

皆、命を捨てることをいとわない。

覚悟が決まっていて、聖人を信じている。

聖人は予言の通り、世界を救うと信じている。

そのための犠牲になるならば構わない。

命はそのためにあると覚悟が決まっている。

私はそこまでの覚悟を決めることができない。


聖人の一行は大所帯になった。

皆、聖人に心酔している。

聖人の一行は野営をして、

私は皆から少し離れたところで休んでいた。

なんとなく私は異質だ。

命を捨てる覚悟ができていない。

そのあたりの価値観が皆とは合わない。


一人て休んでいる私のもとに、

聖人がやってきた。

私は礼を尽くそうとしたけれど、

聖人は皆と同じでいいといった。

聖人は砕けた口調で話しかけてきた。

君は死ぬのが怖いかい。

聖人は尋ねる。

私は、怖いと答えた。

皆のようにあなたのために命を捨てる覚悟はありませんと答えた。

聖人はうなずいた。

聖人も、死ぬのは怖いと言った。

皆が喜んで死んでいくのも怖いといった。

しかし、皆が命を捨てるのは聖人が予言の聖人だから。

そのために皆が死ぬのを受け止めなければならないと思うと。

たくさん自分のために死んでしまうという、

覚悟を決めたいと思うと言った。

そして、聖人は死んではいけないという覚悟も持たなくてはいけない。

たくさんの死の上に世界を救うということを成し遂げなければいけない。

生きなければならないという。

生きているのが怖い。

生きていれば誰かが代わりに死ぬ。

それがとても怖いという。

しかし生きる覚悟を決めたいという。

それは聖人の人の言葉だ。

聖なる言葉ではない。

自分のためにたくさん守護者が死んでいく。

それでもなお生きなければならない。

それに対する恐れと、それに対する覚悟だ。

私は聖人の心を知った。

聖人も心は揺れている。

命をすべて聖人という立場のために使いきれないでいる。

おそらく逃げ出したいだろう。

私は聖人に話しかける。

私は生きますと。

聖人のあなたを最後まで守ります。

死ぬことなく、最後まで守ります。

それが私の覚悟です。

私の覚悟を告げると、聖人は笑った。

それは天使のように無邪気な笑顔だ。

ありがとうと笑った聖人は涙を浮かべていた。


聖人の一行の旅は続く。

守護者は喜んで死んでいく。

敵はたくさんいる。

世界は広い。

行く先々で守護者は増えて、

そしてどこかで命を捨てる。

私は聖人を守って生きると決めた。

聖人は聖人として生きると決めた。

それが私たちの覚悟だ。

私たちは覚悟を決めた。

どこまでも、生きよう。

生きて生きてこの世界を変えよう。

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