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第285話 賭けに出よう

この先に進むのは賭けだ。


この世界がいろいろな世界と融合してしばらく経つ。

並行世界や異世界なんて言葉で、

昔はフィクションとされていた世界たちだ。

そのフィクションとされていた世界が、

片っ端からつながってきていて、

いわゆるもともとあった現実世界というこの世界も、

世界が歪につながって混沌としていた。

今はちょっと落ち着いてきたけれど、

ちょっと年を取った人なんかは、

世界の混沌についていけなくて、

自分の若い頃はこんな風だったと語っていると聞く。

とにかくこの世界は歪なくらいいろいろな世界がつながっている。

古い現実世界はもはや通用しない。

常識は古い時代に置いてこないと、

この世界にはついていけない。


フィクションとされていた世界にあったものとして、

ダンジョンという概念がある。

迷宮なんて翻訳されるらしいけれど、

洞窟や遺跡や塔など、場合によっては沼や森などもある。

モンスターがいたりして、

宝物があったりするような場所。

昔はゲームなどによくあった概念だ。

モンスターをダンジョンで倒すと、

換金アイテムが出てきたりする。

また、モンスターを倒すと稀に、

倒したモンスターが宝箱に変わる。

その場合はレアアイテムなどが出てくる可能性がある。

ダンジョンというものは、

中で何かが生きていることにより、

ダンジョンという存在も生きるのだという。

モンスターが生きていることで、

ダンジョンが生きて、

ダンジョンにやってきて宝物を得ようとするものがいることで、

ダンジョンはさらに活性化する。

ダンジョンはさらに来るものを増やすべく、

ダンジョンの中に宝物を作り出している。

世界が繋がって歪になってから、

ダンジョンで生計を立てる冒険者という職業も出てきた。


冒険者という職業は、

賭けの連続だ。

いろいろなギャンブルがあるけれど、

ダンジョンは命をそのまま賭けるようなものだ。

この先に進んで強いモンスターがゴロゴロいたら死ぬ。

もっと宝物を得てから戻ろうと思ったら、

引き返す分の体力を見極めないと死ぬ。

死んだらダンジョンの養分だ。

蘇生まで時間がかかりすぎると、

完全にダンジョンの養分になって、

戻ってくることはできない。

残るのは装備品と宝物だけだ。

蘇生師がたどり着くまで死体が残っていられるかどうか、

それもまた賭けになる。

蘇生師は世界が融合しまくったときに別の世界で出てきた職業だ。

死体を一度データ化して、

生きている状態に蘇生する職業だ。

死んだ際に蘇生師を呼ぶアラームというアイテムもあるけれど、

アラームが発動しても、そこまで蘇生師がちゃんとたどり着くかは、

また、死体がちゃんと残っている間に蘇生師が来られるかは、

これもまた賭けになる。

賭けに負けたら消滅だ。

命も何も残らない。

それでもダンジョンには賭けるに値する宝物がたくさんある。

人生を一発逆転するには、十分すぎるほどだ。


さて、とあるダンジョンに私はいる。

宝物はあまりいいものは得られていない。

この先に進めばいいものが手に入るかもしれない。

おそらくは強いモンスターがいる。

そのモンスターを倒せば、

希少価値のある宝物が手に入ると踏んでいる。

ただ、そのモンスターの数はよくわからない。

この先にいるだろうという予感はするけれど、

たくさんいたらアウトだ。

腕に自信はあるけれど、

あまりにもたくさんいたら私でも危ない。

ここを先に進むという賭けに出るか。

引き返して態勢を立て直してから進むか。

斥候役が大怪我をしたので、

回復役とともに安全な場所に避難させていたのが痛い。

この先が読めない、回復役もいない。

傷を負った際の薬は、使うのに隙ができてしまう。

この先に多数のモンスターがいるとすれば、

隙ができたことで畳みかけられる恐れがある。

蘇生師はかなりの金額が飛ぶ。

ダンジョンで得た財産がかなり飛ぶ。

かなり分の悪い賭けだ。


それでも私は先に進んでしまう。

このヒリヒリする感覚がたまらない。

賭けずにはいられない。

この命を賭けずにはいられない。

モンスターの気配が近づいてくる。

いけるか。


さぁ、賭けに出よう。

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