この先に進むのは賭けだ。
この世界がいろいろな世界と融合してしばらく経つ。
並行世界や異世界なんて言葉で、
昔はフィクションとされていた世界たちだ。
そのフィクションとされていた世界が、
片っ端からつながってきていて、
いわゆるもともとあった現実世界というこの世界も、
世界が歪につながって混沌としていた。
今はちょっと落ち着いてきたけれど、
ちょっと年を取った人なんかは、
世界の混沌についていけなくて、
自分の若い頃はこんな風だったと語っていると聞く。
とにかくこの世界は歪なくらいいろいろな世界がつながっている。
古い現実世界はもはや通用しない。
常識は古い時代に置いてこないと、
この世界にはついていけない。
フィクションとされていた世界にあったものとして、
ダンジョンという概念がある。
迷宮なんて翻訳されるらしいけれど、
洞窟や遺跡や塔など、場合によっては沼や森などもある。
モンスターがいたりして、
宝物があったりするような場所。
昔はゲームなどによくあった概念だ。
モンスターをダンジョンで倒すと、
換金アイテムが出てきたりする。
また、モンスターを倒すと稀に、
倒したモンスターが宝箱に変わる。
その場合はレアアイテムなどが出てくる可能性がある。
ダンジョンというものは、
中で何かが生きていることにより、
ダンジョンという存在も生きるのだという。
モンスターが生きていることで、
ダンジョンが生きて、
ダンジョンにやってきて宝物を得ようとするものがいることで、
ダンジョンはさらに活性化する。
ダンジョンはさらに来るものを増やすべく、
ダンジョンの中に宝物を作り出している。
世界が繋がって歪になってから、
ダンジョンで生計を立てる冒険者という職業も出てきた。
冒険者という職業は、
賭けの連続だ。
いろいろなギャンブルがあるけれど、
ダンジョンは命をそのまま賭けるようなものだ。
この先に進んで強いモンスターがゴロゴロいたら死ぬ。
もっと宝物を得てから戻ろうと思ったら、
引き返す分の体力を見極めないと死ぬ。
死んだらダンジョンの養分だ。
蘇生まで時間がかかりすぎると、
完全にダンジョンの養分になって、
戻ってくることはできない。
残るのは装備品と宝物だけだ。
蘇生師がたどり着くまで死体が残っていられるかどうか、
それもまた賭けになる。
蘇生師は世界が融合しまくったときに別の世界で出てきた職業だ。
死体を一度データ化して、
生きている状態に蘇生する職業だ。
死んだ際に蘇生師を呼ぶアラームというアイテムもあるけれど、
アラームが発動しても、そこまで蘇生師がちゃんとたどり着くかは、
また、死体がちゃんと残っている間に蘇生師が来られるかは、
これもまた賭けになる。
賭けに負けたら消滅だ。
命も何も残らない。
それでもダンジョンには賭けるに値する宝物がたくさんある。
人生を一発逆転するには、十分すぎるほどだ。
さて、とあるダンジョンに私はいる。
宝物はあまりいいものは得られていない。
この先に進めばいいものが手に入るかもしれない。
おそらくは強いモンスターがいる。
そのモンスターを倒せば、
希少価値のある宝物が手に入ると踏んでいる。
ただ、そのモンスターの数はよくわからない。
この先にいるだろうという予感はするけれど、
たくさんいたらアウトだ。
腕に自信はあるけれど、
あまりにもたくさんいたら私でも危ない。
ここを先に進むという賭けに出るか。
引き返して態勢を立て直してから進むか。
斥候役が大怪我をしたので、
回復役とともに安全な場所に避難させていたのが痛い。
この先が読めない、回復役もいない。
傷を負った際の薬は、使うのに隙ができてしまう。
この先に多数のモンスターがいるとすれば、
隙ができたことで畳みかけられる恐れがある。
蘇生師はかなりの金額が飛ぶ。
ダンジョンで得た財産がかなり飛ぶ。
かなり分の悪い賭けだ。
それでも私は先に進んでしまう。
このヒリヒリする感覚がたまらない。
賭けずにはいられない。
この命を賭けずにはいられない。
モンスターの気配が近づいてくる。
いけるか。
さぁ、賭けに出よう。