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第287話 固いパン

この根性のある固いパンが大好きなんだ。


私はパンが好きだ。

人並みに米類や麺類も食べるけれど、

パンの美味しいのに目がない。

日本のパン屋のパンは、それひとつで完結しているくらいのものがある。

食パンなど、好きなものを塗って食べてもいいけれど、

パンひとつで完結している、総菜パンや菓子パンなどが好みだ。

惣菜や菓子というレベルでなくても、

クルミなどのナッツなどがあしらわれた程度のパンもまたいい。

カボチャの種パンもいい。

スパイスが使われている程度のパンでもいい。

レーズンパンもいい。

とにかくパンが大好きなので、

町を歩いてはパン屋を探し、

いろいろなパンを買って食べている。

どのパン屋のパンも個性があって、

新しいパンがあると嬉しくなるし、

また違ったパン屋を見つけようものならば、

ここはどんなパンを出しているのだろうかと、

とても楽しみになる。


私は、いろいろなパン屋を渡り歩いても、

このパン屋が今のところ一番という店がある。

それが、固いパンの店だ。

フワフワのパンももちろん美味しいのだが、

私は根性のあるこのパン屋の固いパンが大好きだ。

かみしめるほどに味わいが増し、

パンがひとつひとつ、それだけで完結しているのもいいし、

味わいが深いのもいいし、

パンそれぞれに惣菜や菓子というほどの個性を強く持たせていないのもいい。

上手く例えられるかはわからないけれど、

質実剛健を体現したような、

飾り気が少ないけれど強く根性のあるパン。

このパン屋のパンに結局帰ってきてしまう。

パン屋探しは続けていくかもしれないけれど、

一番食べたいパンと言われたら、

ここの店の固いパンになってしまう。


フワフワやもっちりもいい。

高い食パンもいい。

パンはパンであるだけで食べられる芸術品だ。

そのひとつひとつにカロリーや栄養以上の、

美しさという価値がある。

米や麵やいろいろな外食や家の食事を否定している訳でなくて、

私はとにかくパンに芸術さえも感じている。

私がそう感じているだけだから、

世間がどう感じるかはわからない。

とにかくパンは、食というものを凝縮した芸術があると思っている。

その芸術を探し求めるのも、

ありなのではないかと思うけれど、

理解されなければそれはそれで仕方ない。

考え方はいろいろある。


町をふらふらと歩いて、

パン屋を探す。

新規オープンの張り紙がしてあるパン屋を見つけた。

近いうちに始まるらしい。

私はこの場所を覚えておくことにした。

それはそうと、今日のパンはどこにしようか。

この新規オープンのパン屋から近いパン屋はどこだろうか。

このあたりはパン屋激戦区だ。

相当味に自信がないとこの激戦区に店を構えようとは思えない。

あるいは、個性を持っているのだろうか。

この激戦区にない味の個性を引っ提げてくるのだろうか。

新規オープンのパン屋を楽しみにしつつ、

私は今日のパンを求めてパン屋激戦区のこの町を歩く。

このパン屋激戦区の中に、

私の大好きな固いパンの店がある。

固いパンは他にあまり見ないので、

この激戦区の中でも異彩を放っている。

今日のパンは固いパンにしよう。

固いパンをかみしめて、味わうことにしよう。

新規のパン屋がどんな個性のパンを持ってくるかはわからない。

ただ、今は固いパンが一番だ。

これ以上があるのかないのかはまだわからないけれど、

パンという芸術品の可能性はいつだって無限大だ。

もっと好きになるパンが出てきてもおかしくないし、

固いパンの店のパンが、

さらに私好みに美味しいパンを出す可能性だって否定できない。

このパン屋激戦区を歩くのがもっと楽しみになりそうだ。


私は固いパンを求めにパン屋に向かう。

新しいものは出ているだろうか。

今日はどんな固いパンにしようか。

パンは固いだろうけれど、

そこに至る足取りは軽い。

好きなものに出会える場所に行くのは、

いつだって楽しみで足取り軽くなるものだ。

私はやっぱりパンが好きだ。

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