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第288話 器を傾ける

水の入った器を傾ける。

傾けてその水を飲む。


この部屋には力を持った聖遺物がたくさんあるらしい。

ここはこの世界の大聖堂の地下室。

この世界の神の教えを広めている教会の、

すべての権力が集まる場所になる。

教会は時に政治にも口を出す。

教会の言うことは神の言葉。

教会は相当な権力を持っている。

権力が集まればそれなりに腐敗もあるけれど、

この世界の教会のシステムはある程度自浄作用があって、

賄賂がどうしたとか、権力で何かしでかしたものは、

神の教えに反するとして処罰される。

政治に口出しするけれど、

政治も教会の在り方はこうあってほしいと口を出す。

権力は分散されていて、

教会だけとか、王や国だけとかが権力を持っている訳ではない。

ただ、教会はこの地下室に秘密のものを隠している。

それがたくさんの聖遺物だ。

この聖遺物の力を使えば、

各国の王の軍などを、

簡単にひねりつぶすほどの力があるらしい。

また、聖遺物は奇跡も起こすことができる。

教会の求心力をもっと高めるには、

このたくさんの聖遺物の中の、どれかを少し使えばいい。

聖遺物は奇跡の力に満ちた品々。

それらがこの部屋にたくさんある。

教会は切り札になるものをたくさん隠している。


聖遺物は、神の使いと呼ばれた聖人たちが残していったものだ。

教会の外では伝説の品と呼ばれている。

聖なる槍は敵をすべて無力化する。

聖なるローブは空を飛べる。

聖なる紋を刻んだ石は、穢れた場所を清浄な場所にできる。

そんな品々が山のようにある。


さて、私のことを語ろう。

私は幼い頃から伝説の聖遺物に触れたいと思っていた。

伝説の聖遺物を解析したいと思っている、

魔法道具職人だ。

いくら聖なるものとされていても、

何らかの仕組みがあって力を持っているに違いない。

その力の源を解析したい。

知ったそれを道具職人として生かしたいと思う。

私は魔法道具職人の仕事の傍ら、

教会のことを調べ始めた。

いろいろな手を尽くしていくと、

大聖堂に聖遺物があるらしいという噂を聞いた。

そこから、大聖堂に忍び込むにはどうしたらいいか。

あるいは、大聖堂に入れるほどはどのレベルの聖職者か。

大聖堂の警備の仕組みを調べた。

私は自作の魔法道具を使いこなして、

大聖堂に侵入し、

秘密の部屋である聖遺物の地下室にやってきた。


どれもこれもものすごい魔力を秘めている。

解析して理解をしていく。

どれも元となるのはひとつの魔力だ。

そのひとつの魔力をこめることにより、

聖遺物は作られている。

そのひとつの魔力が聖なる力とされているのかもしれない。

魔力の種類としてはひとつだけど、

その魔力は膨大な力を持った種類の魔力だ。

その魔力をこめることができれば、

魔法道具職人でも聖遺物が作れるということだ。


私は地下室の中で、

祭壇に置かれている器を見つけた。

祭壇の上から水が滴っていて、

器には水が満ちている。

器は力を持っている。

この器から水を飲めば、力が得られると解析できた。

もしかしたら、教会はこの器から水を飲ませることにより、

教会のための聖人を作っていたのかもしれない。

その聖人たちが残したのが、

膨大な力をこめた聖遺物なのかもしれない。

聖遺物を作り出すには、この器から水を飲む。

それが聖遺物を作るはじまりだと私は思った。

祭壇にのぼり、器を傾けて水を飲む。

私に力が満ちていく。

これが教会の隠していた力。

この力があれば何でもできる。

魔法道具職人として、聖遺物を作ることだってできる。

私に万能感が満ちた。

私は教会を出し抜いた。

次は何をしようと思ったその時、

私の身体が変形していった。

肉も骨もあらぬ方向に曲がり、

肉体は物になっていく。

悲鳴を上げようにも喉が物になっていく。

痛みも感じないまま、

私は物になった。

おそらく、これが聖遺物だ。

私は意識をなくして完全に物になった。


大聖堂の地下に、聖遺物がある。

聖遺物のある部屋には祭壇があり、

器がなみなみと水をたたえている。

その器から水を飲むと力が得られるというけれど、

力を得たものの姿を見たものはいない。

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