水の入った器を傾ける。
傾けてその水を飲む。
この部屋には力を持った聖遺物がたくさんあるらしい。
ここはこの世界の大聖堂の地下室。
この世界の神の教えを広めている教会の、
すべての権力が集まる場所になる。
教会は時に政治にも口を出す。
教会の言うことは神の言葉。
教会は相当な権力を持っている。
権力が集まればそれなりに腐敗もあるけれど、
この世界の教会のシステムはある程度自浄作用があって、
賄賂がどうしたとか、権力で何かしでかしたものは、
神の教えに反するとして処罰される。
政治に口出しするけれど、
政治も教会の在り方はこうあってほしいと口を出す。
権力は分散されていて、
教会だけとか、王や国だけとかが権力を持っている訳ではない。
ただ、教会はこの地下室に秘密のものを隠している。
それがたくさんの聖遺物だ。
この聖遺物の力を使えば、
各国の王の軍などを、
簡単にひねりつぶすほどの力があるらしい。
また、聖遺物は奇跡も起こすことができる。
教会の求心力をもっと高めるには、
このたくさんの聖遺物の中の、どれかを少し使えばいい。
聖遺物は奇跡の力に満ちた品々。
それらがこの部屋にたくさんある。
教会は切り札になるものをたくさん隠している。
聖遺物は、神の使いと呼ばれた聖人たちが残していったものだ。
教会の外では伝説の品と呼ばれている。
聖なる槍は敵をすべて無力化する。
聖なるローブは空を飛べる。
聖なる紋を刻んだ石は、穢れた場所を清浄な場所にできる。
そんな品々が山のようにある。
さて、私のことを語ろう。
私は幼い頃から伝説の聖遺物に触れたいと思っていた。
伝説の聖遺物を解析したいと思っている、
魔法道具職人だ。
いくら聖なるものとされていても、
何らかの仕組みがあって力を持っているに違いない。
その力の源を解析したい。
知ったそれを道具職人として生かしたいと思う。
私は魔法道具職人の仕事の傍ら、
教会のことを調べ始めた。
いろいろな手を尽くしていくと、
大聖堂に聖遺物があるらしいという噂を聞いた。
そこから、大聖堂に忍び込むにはどうしたらいいか。
あるいは、大聖堂に入れるほどはどのレベルの聖職者か。
大聖堂の警備の仕組みを調べた。
私は自作の魔法道具を使いこなして、
大聖堂に侵入し、
秘密の部屋である聖遺物の地下室にやってきた。
どれもこれもものすごい魔力を秘めている。
解析して理解をしていく。
どれも元となるのはひとつの魔力だ。
そのひとつの魔力をこめることにより、
聖遺物は作られている。
そのひとつの魔力が聖なる力とされているのかもしれない。
魔力の種類としてはひとつだけど、
その魔力は膨大な力を持った種類の魔力だ。
その魔力をこめることができれば、
魔法道具職人でも聖遺物が作れるということだ。
私は地下室の中で、
祭壇に置かれている器を見つけた。
祭壇の上から水が滴っていて、
器には水が満ちている。
器は力を持っている。
この器から水を飲めば、力が得られると解析できた。
もしかしたら、教会はこの器から水を飲ませることにより、
教会のための聖人を作っていたのかもしれない。
その聖人たちが残したのが、
膨大な力をこめた聖遺物なのかもしれない。
聖遺物を作り出すには、この器から水を飲む。
それが聖遺物を作るはじまりだと私は思った。
祭壇にのぼり、器を傾けて水を飲む。
私に力が満ちていく。
これが教会の隠していた力。
この力があれば何でもできる。
魔法道具職人として、聖遺物を作ることだってできる。
私に万能感が満ちた。
私は教会を出し抜いた。
次は何をしようと思ったその時、
私の身体が変形していった。
肉も骨もあらぬ方向に曲がり、
肉体は物になっていく。
悲鳴を上げようにも喉が物になっていく。
痛みも感じないまま、
私は物になった。
おそらく、これが聖遺物だ。
私は意識をなくして完全に物になった。
大聖堂の地下に、聖遺物がある。
聖遺物のある部屋には祭壇があり、
器がなみなみと水をたたえている。
その器から水を飲むと力が得られるというけれど、
力を得たものの姿を見たものはいない。