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第289話 アプリが止まらない

このアプリ止まらないぞ。


私は一般的なスマホを使っている。

そこそこの容量があり、アプリがそれなりに入るもので、

動作の反応も悪くない。

写真の画像もそれなり。

ヘビーユーザーというわけでもないので、

そこそこ一般的なスマホで満足だ。

機能がいっぱいあれば、それはそれで便利なのだろうけれど、

ものすごい画質のいい写真が必要な訳でもなく、

動画の撮影に使う訳でもなく、

さらに配信なんかをするような訳でもなく、

本当に、そこそこでいい。

毎日必要なことだけちゃんとできていればいい。

たとえば朝のアラームとか。

休憩時間の気分転換アプリゲームとか。

あとはメッセージアプリがあれば大体事足りる。

SNSはなんだか攻撃的なのが多いのであまり見ていない。

とにかく必要最低限があればいい。

私のスマホはそんなスマホだ。


ある時、アプリの動作が遅くなってきたなと感じた。

気が付いたのは気分転換にしていたアプリゲームが、

なんだかもっさりした動作になったからだ。

聞きかじった知識で、開いているアプリを強制的に落とすといいらしいと聞いた。

動いているアプリをどんどん落としていく。

そんなに動作をもっさりさせるようなものがあるとは思えないんだけど。

全部落としたと思っていたら、

最後によくわからないアプリがあった。

いつ入れたかわからないアプリで、

アプリの名前は「ログ」とだけある。

なんだこれと思ってアプリを開く。

ログというアプリの中には、膨大な言葉が並んでいた。

このスマホを手にしたときから、

どんなアプリを入れて、どんな動作をして、どんな言葉を入れて、

メッセージアプリで何を発言して、

何かを見たならば何を何分見たとか、

とにかくこのスマホに関する、私のしたことがすべて言葉になっていた。

どうやらこのログというアプリは、

このスマホを手にした時からずっと入っていて、

私のすべての動作を言葉に変換し続けていたらしい。

それは膨大な言葉の数になる。

小さなこともいちいち残しているから、

多分これで動作がもっさりになってしまっている。

動作をすべて言葉に変換するという作業と、

言葉をすべて残し続けることで、

おそらく私のスマホの容量はギリギリになっているんだろう。

困ったアプリが入っているものだ。


私は、ログというアプリを落とそうとした。

どうやってもログが落ちない。

強制終了が効かない。

ログは止まることなく私の動作を言葉にし続けていく。

困ったな。スマホが容量いっぱいになって何もできなくなってしまう。

クラウドを契約してそっちに回すことも考えたけれど、

何もかもを言葉に残していくアプリだ。

クラウドのストレージもそのうちいっぱいになる。

私は藁にも縋る思いで、

ログというアプリについて検索をかけた。

すると、ログというアプリについての覚書のようなサイトが見つかった。

私はそれを読んだ。


スマホにログというアプリが出てくるのは、

スマホの個性として、すべてを残そうとする個体にあります。

対策として、スマホに意味のないことをさせる時間を作りましょう。

スマホを使う時間はすべて意味のある時間と言うのでなく、

スマホを使う使い手が必要だからスマホを使っているのでなく、

スマホがログとして記録しなくてもいいような、

スマホをぼんやりさせる時間を作りましょう、とのことだ。

おそらくだが、スマホが何も考えない、

記録として残すに値しない意味のないことをさせればいいらしい。

要は、スマホが考えすぎの個体ということで、

何もかもを残そうとしていて、

ログというアプリが消えないらしい。

真面目なんだな、このスマホ。


私はスマホの休み時間を作ることにした。

休憩時間、会社の窓から、

記録しないけれどスマホのカメラのレンズから空をぼんやり映す。

シャッターも切らない。動画としても取らない。

あくまでスマホを通して空を眺めるだけだ。

私もスマホも何となく落ち着いた。


スマホに入りっぱなしのログというアプリは、

あいかわらず消えないけれど、

休み時間を作ってからは動作も落ち着いている。

スマホも私も、気分転換は何もしないことがいいんだろうな。

今日も真面目なスマホとともに、

私は普通に生活している。

スマホはすでに私の生活の相棒だ。

できるだけ大事に使ってあげよう。

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