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51通目 空の向こうに帰ったあなたに宛てて

空からやってきたあなたへ


この手紙をどうやってあなたに届けていいかわかりません。

あなたは空からやってきて、

空に帰っていきました。

あなたの世界にこの手紙を届ける術がわかりません。

それでもあなたへの気持ちをどこかに書きたいと思い、

こうして、届けられない手紙を書きます。

もしかしたら、こうして書くことにより、

空の向こうへ帰ったあなたに、

気持ちだけでも届くかもしれません。

それは私の勝手な思い込みではありますが、

あなたが向こうでも元気にしていてくれたら、

そして、私の気持ちが届いていたら、

それはとてもいいことだなと思うのです。

手紙は届きませんが、

あなたへ思いを込めて手紙を書きます。


あなたはある日、空からやってきました。

学校の屋上に忍び込んで、ぼんやりサボっていた私のもとに、

空からフワフワとあなたが降りてきました。

有名なアニメで空から女の子がと言われていましたが、

あなたは意識がないままで、ゆっくり空から降りてきました。

私は屋上であなたを受け止めて、

とりあえず屋上のコンクリートに寝かせました。

あなたの服装は、少なくともこの国のものではないように思われました。

私の中によぎったのは、女神や天使と言った言葉でした。

仮に飛行機から落ちたということだったとしたら、

フワフワと降りてくることはないと思いました。

これは人ではないのではないかなと、とにかく私は思いました。


あなたは目を覚まして、私をじっと見ると、

たどたどしく私と同じ言語を話しだしました。

あなたの説明によると、

私を見つめたことで、言語の共有が行われたとのことと、

あなたはこことは別の世界から来たとのことでした。

別の世界では、現在大きな戦争が起きていて、

あなたという存在の取り合いで大変なことになっているようです。

一瞬、美女の奪い合いとか考えましたが、

見つめれば言語が共有できるというあたり、

あなたはすごい能力の持ち主なのかもしれないと考えました。

あなたは少し考えたあと、

あなたの能力は、世界を作り直す力だと説明しました。

自分に都合のいい世界を作らせるべく、

いろいろな国や権力者があなたを奪い合っているとのことでした。

それは嫌にもなるなぁと私は言いました。

すごい力を持っているのに、

いいように使われるのはなんだか嫌だと。

私は思ったままのことをあなたに言いました。

あなたはびっくりした後、泣き出しました。

そんなことを言われたのは初めてで、

そう感じてもいいんだと言われたような気持ちになったとのことでした。

私はあなたを抱きしめて、

重圧から逃げてきたあなたが落ち着くまで学校の屋上にいました。


私とあなたは、学校の授業や何かが終わるまで屋上で語り合い、

ひとまず私の家へとやってきました。

あなたの重圧は相当なものだったと思います。

この世界にやってきて、見るものすべてが知らないもので、

あなたのことを奪い合わない世界というのは、

新鮮なもののようでしたし、

重い重圧から解き放たれたあなたは、

この世界のいろいろなものに興味を示していました。

私の家で、あなたと私で簡単なご飯を食べると、

あなたは美味しいと言って喜んでくれました。

私とあなたは、この世界のことについて語り合いました。

あなたの来た別の世界のことも聞きました。

あなたの力で世界を作り変えなければいけないほど、

皆の心が荒んでしまった荒れた世界だということでした。

作り変えられた世界で権力を得られるように、

権力者たちはあなたの力を求めるのだと言います。

なんて浅はかなのでしょうか。

私も大概平和でボケていますけれど、

権力を持っている以上、

一般の人々がいないと権力は維持できませんし、

その人々を守るようにするのが権力を持ったものの務めだと思うのです。

世界が荒れて人の心が荒れてしまったのならば、

まずは権力を持ったものが世界をちゃんとまとめないといけないと思うと、

あなたの力を使って世界を作り変えるのを前提に話をするなと。

私は怒りをにじませながら熱弁しました。

あなたは私の熱弁を聞いて、

そう思ってもいいのですねとつぶやきました。

私はあわてて、違う世界の価値観だからねと付け加えましたが、

あなたは、みんなの力を合わせれば世界が変わるかもしれないと、

権力者が世界のことを考えて動けば、

あの世界も変わるかもしれないと言いました。

あなたの言い方ですと、

あなたの世界は荒れていて苦しみに満ちているようでした。

それを、みんなの力で変えられないかと、あなたは考えます。

私も、考えの手伝いをすることにしました。


あなたの世界の成り立ちや、

国家間の勢力や、自然環境の分布など、

いろいろなあなたの世界の情報を得て、

私とあなたはあなたの世界をよくすべく考えます。

私は、持っているこの世界の知識を使って、

あなたの世界に生かせるものを提案します。

あなたからもまた、あなたの世界ではこんなことがあると、

私にとって役立つ考え方があります。

私はあなたの世界についてとても詳しくなりました。

私とあなたは、夜が白むまで語り合いました。

世界をよくするには。

あなたの世界を平和に、豊かにするには。

あなたの世界を思いながら私たちは話し合います。


やがて、夜が明ける頃。

あなたの世界をまとめ上げる方法がまとまりました。

この方法ならばあなたの世界がまとまって、

世界を作り変える必要なく、

あなたの世界がみんな幸せになる術が整いました。

私などはこの世界では学生です。

私の理想論もたくさん入っている方法です。

でも、あなたは、

あなたの言葉としてこの方法を皆に伝えることで、

あなたの世界は必ず良くなると確信しているようでした。

あなたの奪い合いで戦争が起きる世界です。

そのあなたの言葉ともなれば、誰も無視することはできないでしょう。

それもまた、あなたの力なのかもしれません。


一晩中語り明かした部屋に、朝日が差し込んできました。

私は、帰るのかと尋ねました。

あなたは力強くうなずきました。

もう、重圧から逃げてきたあなたではありませんでした。

世界をより良くして、すべての人々を幸せに豊かにしようという、

強い愛を持ったあなたになっていました。

あなたの愛は世界を包むでしょう。

あなたの本当の力は、その愛なのだと思います。

その愛で、世界をより豊かにすることこそが、あなたの力なのだと思います。

私は部屋の窓を開けます。

あなたは窓の近くにやってきて、

窓の外へとフワリと飛び出しました。

それからあなたは空へと上っていき、

やがて見えなくなりました。

あなたが帰ったのだと、私は思いました。


あなたの世界がどうなったか、

もう、知る術はありません。

ただ、あなたの強さを持った眼差しが、

間違いなく世界を良くしていると私は確信しています。

あなたの愛で世界は変わります。

私もまた、この世界にやってきて不安だったあなたに、

何ができただろうかと考えることがあります。

私と言えば、あなたと語り合ったことくらいです。

でも、あなたという存在に対して、

なんとかしてあげたいと思ったのは事実です。

この世界にやってきて、

私と語り合ったことで、

あなたが幸せになっていたら、私も幸せです。

あなたと、あなたの世界が幸せに満ちていることを願っています。

あなたへ、たくさんの愛をこめて、

この手紙を締めさせていただきます。


この世界の一介の学生より

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