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第4話 沢田くんと無謀な約束


 沢田くんがBチームのリーダーに(?)

 この一報は森島くんのAチームにいた隠れ沢田ガールズたちをざわめかせた。


【どうしよう、沢田くんと仲良くなれるチャンスかも?】

【なんかこっちライバル多いし、沢田くんの方に行こうかな?】

【沢田くんもいいよね! カッコイイし、リーダーシップすごそう!】


 日直の号令の影響か、沢田くんはクールだけどいざという時はビシッと決めそう、というイメージが彼女たちにはあるらしかった。

 森島ガールズの一部が沢田くんの方に流れる。

 女子が動けば男子も動き、自然とクラス内は森島派、沢田派で二極化されようとしていた。


 沢田くん本人はポカーン(・Д・)のままだけど。


【えっ、なんでみんな俺の方に集まってくるの? 怖いよ、怖い怖い怖いーー!!((((;゚Д゚))))))) なに俺、リンチされるの⁉︎ 寄ってたかってカツアゲされるの⁉︎ コロッケぱんとか買いに行かされるのーーっ⁉︎】


 集団に入ることに慣れていない究極のぼっちの沢田くんはクールな顔のままビビっている。


「沢田がそっちのリーダーか。面白いじゃん。どっちが決勝まで行くか勝負しようよ」

 森島くんは爽やかに笑っているけど、内心はメラメラしている。


【くっそー、杏里ちゃんが沢田の方に入ってる!! 可愛い女子を独占したかったのに、沢田のせいで俺のハーレム計画が台無しだチクショウ!!】


「勝負?」


 沢田くんは冷たい視線を森島くんに投げ返す。でも内心はガクブルしている。


【勝負って何? 何がどうなってんのか分かんないんだけど誰か説明してーっ。゚(゚´ω`゚)゚。】


 私はこっそり沢田くんに「スポフェスのドッジボールのことだよ」と教えた。すると沢田くんは当然のようにつぶやいた。



「そんなの、勝負するまでもない」

「はあ?」



 森島くんはカチンときたようだ。


【沢田のやつ……勝負するまでもないだと? 俺とじゃ勝負にならねえっていうのか? 上等じゃねえか!!】


 メラメラとした炎が森島くんのバックに見える。

 でも、沢田くんが森島くんを相手にしていないというのはもちろん森島くんの勝手な思い込みだ。



 沢田くんの気持ちはこうだから。



【俺が森島くんにかなうわけないだろーーーーっ!!!:(;゙゚'ω゚'): 相手になるわけがなーい! 5秒で負ける。いや、3秒で負ける自信ある! むしろ負ける自信しかない! お願いだから殺さないで〜!!。゚(゚´ω`゚)゚。】



 気持ちは分かるけどがんばれ、沢田くんっ!



 ◇



 そして、それから数日経ったある日の昼休み。



「ちょっと聞いて聞いて〜【大ニュースだよ〜!】」



 お弁当を食べるために集まった私たちに向かって、麻由香ちゃんが嬉しそうに笑いながら言った。


「森島くん、今度のドッジでBチームに勝ったら、一番活躍した女子と手繋ぎデートしてくれるんだって〜!【そんなん頑張るしかないんだけど!】」

「マジで?【必死だな、森島】」



 森島くんに恋する麻由香ちゃんとクール女子杏里ちゃんの温度差がひどい会話を聞きながら、私はいよいよ森島くんが本気を出してきたなと感じていた。


 そうまでして沢田くんに勝ちたいか。

 沢田くんはすっかり白旗を挙げているというのに、無口で無愛想だから誰にも気付かれていない。

 ちなみに沢田くんはリーダーであることも【やだよーっ。゚(゚´ω`゚)゚。】と心の中では拒否っていたけど、大勢の前で発言することにビビって何も言えなかったので、リーダーの役目をドンと引き受けたことになっている。



 無言でみんなを引っ張るかっこいいリーダー、沢田空。

 Bチームみんなのイメージがそれだ。

 中身がひよこだと知ったらみんなはどうするんだろう。



「Bチームにはなんかないの? そういう成功報酬的なやつ」

「手繋ぎデート? ないね」

「やればいいのにね。そうすればもっと盛り上がるのに」


 沢田くんと手繋ぎデートかあ。

 ……想像するだけで鼻血が出そうだ。

 でもどうせ沢田くんはそんなことしないんだろうなあ──と思った矢先。


「それいいね! 沢田くんにも約束させよう!」


 偶然私たちの会話を聞きつけたBチームの女子集団が現れた!

 彼女たちはその足で、お弁当を食べ終えて教室の片隅で一人ポツネンとしていた沢田くんに突撃していった。


 だ、大丈夫かな? 沢田くん!


「ちょっと様子見てくる!」

 私はお弁当を片付けてすぐに彼女たちの後を追ったけど、沢田くんはすでに女子に囲まれて身動きができなくなっていた。


【これが噂の八方塞がりか……! た、助けてーーっ。゚(゚´ω`゚)゚。】


「……というわけだから、沢田くんも森島くんと同じ条件でいいよね?」

【どうしよう、何が「というわけ」だったのかパニックで全然分からなかった!】

「いいよね、沢田くん」

「……【いいって言えば解放されるのかな?】うん」



 私は天を仰いでしまった。

「うん」って言っちゃったよ、沢田くん。手繋ぎデート決定だよ! 


 沢田くんのバカ。


 こうなったら、私が一番活躍するしかない……!







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