【佐藤さん、傘がないなら俺と一緒に……。いや、俺の傘を貸してあげる方がいいのか? どうしよう、なんて言えば。゚(゚´ω`゚)゚。】
沢田くんが悩んでいるうちに午後の授業が終わり、ついに放課後のチャイムが鳴った。
外はまだ雨が降っている。
クラスメイトが次々と教室を出ていく中、私は沢田くんからの決定的な一言が出るのを待っていた。
【言わなきゃ! 佐藤さんに、一緒に帰ろって! 言いなさいよもう何やってんだよ沢田空! このヘタレ野郎がーっ(((((;`Д´)≡⊃)`Д)、;'.・】
沢田くんも私を必死で誘おうとしてくれている。
ずっとこの声を聞いていたくて、私はわざと黙っていた。
沢田くんと相合い傘で帰りたい。
沢田くんと少しでも長く一緒にいたいから。
この雨は神様がくれたチャンスなのかもしれないと思った。
もうすぐ席が離れてしまうかもしれない私たちへの、最後のプレゼントなのかも──。
「さ、佐藤さん……っ!」
雨を見ていた時、沢田くんがとうとう声をかけてきた。
「な、なあに? 沢田くん」
気がつくと、教室には私たち以外もう誰もいなくなっていた。
ドキドキしながら真剣な顔をした沢田くんと向かい合う。
「あ、あの……」
「うん」
なんとなくうっすらと頬が紅潮している沢田くん。
可愛くて、かっこよくて、息が止まっちゃう。
【佐藤さん……! 言うぞっ! \\\٩(๑`^´๑)۶////気合いだ気合いだ気合いだーーっ!】
緊張の一瞬、沢田くんが目をつぶった。
「お、俺と……一緒にかえっ」
ドーン!!
すると突然、沢田くんの声を遮って、激しい雷鳴が
「きゃあっ」
【うわああああっ!!((((;゚Д゚)))))))】
私はびっくりして、思わず沢田くんに抱きついてしまった。
【おわああああはあああああ!!!:(;゙゚'ω゚'):ああああ、佐藤さん!! 佐藤さんが俺に抱きついてあわわわわわあ〜〜〜っ!!! 心臓が止まる!! 誰か俺にAEDを!! うぎゃああああ〜〜!!!】
ごめん、沢田くん。落雷よりびっくりさせちゃったね。
「ご、ごめんね! 驚いちゃって、つい……」
私はすぐに沢田くんから離れて目を泳がせた。
「あ、うん……【もはや「あ、うん」bot化してるな俺。゚(゚´ω`゚)゚。いやいや、それよりこっちこそ何も反応できなくてごめんね佐藤さん! びっくりして動けなかったよ……トホホ】」
気まずい沈黙が流れた。
どうしよう、何か言わなきゃ。
焦るけど、頭が真っ白になっちゃって何も思い浮かばない。
「さ、佐藤さん」
先に口を開いたのはなんと沢田くんだった。
「一緒に帰……る?【ヤバい、中途半端な誘い方になってしまった……!((((;゚Д゚))))))) 何気取ってんだ、一緒に帰らせてくださいだろ! 五体投地でお願いだろ!! おおおおお願いしますっ_( _´ω`)_ペショ】」
ビビりながらも一生懸命誘ってくれた沢田くんの勇気に、私は嬉しくなってうなずいた。
「うんっ!」
【あっ……(*´Д`*) 今の笑顔、可愛かったよ佐藤さん……】
沢田くんの頬がヒクヒクと動いた。
【あーっ、ダメ。嬉しすぎてニヤニヤが止まんないよーっ(*´Д`*)】
ダメだ、そんなこと聞いたら私の頬もヒクヒクしちゃう。
大好きだよ、沢田くん……。
「いこっ」
「あ、うん【botじゃないよ、沢田空(人間)だよ( ̄▽ ̄) ただし同じことしか言わないけどね。いやそれbotじゃん】」
笑いながら二人で教室を出た。並んで廊下を歩き始める。
【ああ、やっぱり席替えで佐藤さんと離れ離れになるなんて、絶対に嫌だな。よく知らない人と隣になってもきっと俺からしゃべりかけることはない。佐藤さんだけなんだよ、俺にしゃべりたいと思わせてくれたのは──】
キュンとする。
私も沢田くんのおしゃべりをずっとそばで聞いていたいよ。
ずっとずっと、一緒にいたいよ。
瞬間移動したかのように、いつの間にか下駄箱まで来てしまった。
沢田くんが傘立てからビニール傘を取り出して広げる。
私はその傘の中にちょこんとお邪魔した。
自然と沢田くんとの距離が縮まり、腕が重なり合った。
沢田くんと相合い傘をする日が来るなんて。
幸せ……。
いつまでもこんな日々が続けばいいのに。
「さ、佐藤さんっ……」
傘を持つ手をブルブルと震わせながら、沢田くんが言った。
え? と聞き返しながら見上げると、沢田くんが珍しく男らしい顔をしていて私はドキッとした。
沢田くんは真っ赤になりながら続ける。
「あの……佐藤さんに言っておきたいことが……あるんですが──」