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第5話 沢田くんと奇跡の祈り

【冗談じゃない……!! 俺と佐藤さんの幸せ相合い傘ロードが〜〜!!。゚(゚´Д`゚)゚。】


 沢田くんは顔をこわばらせていたけど、小野田くんを追い払う言葉をかけることができなかったようだ。

 小野田くんは沢田くんの右隣で、私は沢田くんの左隣で歩き出す。


【どうしよう。一緒に帰ることはできたが、話すことが見つからねえ……!】


 私たちの相合い傘を邪魔したくせに、小野田くんはずっと黙っている。

 何しに来たのよ、マジで。


【なんで黙ってるの、この人。俺となんか話したい事があったんじゃないの? 相変わらず何考えてるのかわかんないよ〜!。゚(゚´Д`゚)゚。】


 残念。友達のいないコミュ障の二人に豊富な話題などあろうはずもなかったね。


「あ、そういえば……」


 小野田くんがやっと何かを言いかけた。


「お前んちにいたチャッピー、今俺んちにいるよ」

【なんで⁉︎ Σ(゚д゚lll)こわっ!!】


 せっかくひねり出した話題がホラー。

 沢田くんは怖がって突っ込めない。


「え、なんでそうなったの?」

 広げてあげようと思って質問したけど、小野田くんはそれに答えない。


【沢田の代わりの友達が欲しかったからなんて言えない……】


 もう、膨らませられないんだったら話題に出さないでよ!


「チャッピー元気?」

「まあ、元気【たまに噛みついてくる】」

「……そうなんだ」

「……【ぬいぐるみなのに元気があるとか意味が分かんないよ】」

「……【沢田、無反応かよ】」

「……【何言っていいのか分からないよ】」

「……【俺も何言っていいのか分からないけど】」


 心の中では奇跡的にキャッチボールが出来ている二人だったけど、リアルでは会話にもならないグダグダが続き、そのままとうとう小野田くんの家まで来てしまった。


「じゃあ俺はここで」

「うん【やっと帰ってくれる。゚(゚´ω`゚)゚。】」


 小野田くんとバイバイできてほっとしている沢田くんと私を見て、小野田くんは「おっと、そうだ」と傘を閉じた。


「傘足りないんならこれ使っていいぜ。ビニール傘、うちにいっぱいあるから返さなくていいし」

「あっ、ありがとう……」


 小野田くんは私に自分がさしていた傘を渡した。



【ええええええ〜〜!!! やっとこれから相合い傘して佐藤さんの家まで行けると思ってたのに最後までこの人何してくれんのーーーっ⁉︎。゚(゚´Д`゚)゚。】


 沢田くんは心の中で絶叫。私も同じ気持ちだよ!!



「じゃあな、沢田〜。佐藤さん【あんまり上手くしゃべれなかったけど楽しかったよ〜ヽ(*^ω^*)ノ】

「……【うわあああああ!!。゚(゚´Д`゚)゚。なんだったんだよこの時間! 俺と佐藤さんの時間を返せええええ!!】」



 沢田くんの恨みを買ってしまった小野田くん。

 小野田くんが沢田くんと友達になる道はさらにいっそう険しくなったかもしれない。



 小野田くんに邪魔された私たちは、仕方なくその場でバイバイした。


 次の日こそは! と私は意気込んでいたけど、朝はいきなり麻由香ちゃんのマシンガントークに付き合わされ、休み時間はみんなの目が気になって話しかけられず、お昼休みは沢田くんが行方不明になっていた。


 あとで心の声を聞いてみたら、


【母ちゃんめ……! 腐ったゆで卵を弁当に仕込むとは……ぐおおおお、お腹が痛い〜〜!!。゚(゚´Д`゚)゚。】


 ……とのこと。

 沢田くんはどうやらお母さんのトラップにかかってトイレから出られなくなっていたようだ。


 結局、お腹の痛みは放課後まで続いたようで、沢田くんは青い顔をして帰ってしまった。



 そして翌日。

 とうとう沢田くんと隣でいられる最後の日がきた。

 今日の帰りのホームルームでクジが引かれ、その場で席を替える。

 私たちが一緒にいられるのはあとたったの数時間だ。


 朝、私は誰よりも早く教室に到着して祈りを捧げた。


 どうか沢田くんとまた近い席になりますように!

 あと、どうか沢田くんのお腹が回復していますように!



 すると。


【どうか佐藤さんとまた近い席になりますように(>人<;)!!】

 教室のドアが開くと同時に、沢田くんの声がした。


「あっ……沢田くん」

「あ……【佐藤さんっ(//∇//)】」


 私の次に教室に入ってきたのは、沢田くんだった。

 突然の二人きりに、私は思わず戸惑ってしまった。



「お、おはよう。早いね」

「うん……【佐藤さんと一秒でも長くいたくて、早く来ちゃった……】」


 沢田くんの瞳が朝露のように煌めいている。

 なんだか吸い込まれてしまいそう。 


「あっ、そういえばお腹、もういいの?」

 照れ隠しに尋ねると、沢田くんは目を丸くさせた。


「あ、うん【あれっ!? 俺お腹壊してたって佐藤さんに言ったっけ!?((((;゚Д゚)))))))恥ずかしーっ!! 学校のトイレでう○こしたこと女子にバレるって結構ダメージでかいんだけど!! いったいどんな顔をすれば!?】」


 悩んだ挙句、沢田くんはちょっとしゃくれた。


【いや、シャクレとる場合か!!。゚(゚´Д`゚)゚。ぜってー違うわ!!】


 うん、違うね。

 でも面白かった。

 こんなやり取りも今日で最後なのかな。



「今日、席替えだね」

「……うん」


 しんみりしたくはなかったけど、やっぱりしんみりしてしまう。


【佐藤さん。知っていると思うけど、俺……めちゃくちゃクジ運悪いんだ(´;ω;`)】


 うん、知ってる。私はうなずきそうになったけど、グッと堪えた。


【だから……奇跡は信じない】


 沢田くんの顔がだんだん男らしくなり、私をまっすぐに見つめた。

 ドキッとしたその時、沢田くんが心の中で言った。



【佐藤さんとずっと一緒にいたいから──今日、俺は君に告白する】




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