沢田くんの裸を要求するなんて、森島くんずるい!! 私も見たい!!
……じゃなかった、卑劣すぎるよ!!
「裸はちょっと……【NGってマネージャーに言われてるんで……(*´Д`*)】」
誰よマネージャーって。
さすがに沢田くんも今度はためらっているみたいだ。
「いいじゃん、ノリだよノリ。ちょっと見るだけだからさ【おっ。沢田が珍しく嫌がってるぞ。こういう反応が欲しかったんだよ((o(^∇^)o))】」
森島くん、根っからのいじめっ子か。
「でも……【見せるの、恥ずかしい:;(∩´﹏`∩);:】」
「いいから脱げって。ほら」
【あ〜〜〜れ〜〜〜! お代官様〜〜!! お戯れはおやめになって〜〜!!。゚(゚´ω`゚)゚。】
きゃあああああ〜〜!! これはストップかけるべきだよね!!
私は今度こそドアに手をかけた。
すると中から森島くんの【何っ……⁉︎】と息を呑む声がした。
どうしたんだろう?
私は思わず耳をすませる。
【こいつの腹……腹筋がすげえ割れてる……! なんだよ、細い体してるからヒョロヒョロかと思ったら、プロボクサー並みのいい体じゃん!! ○nanの表紙ヨユウで飾れるわ! ダメだ、こんなん拡散したら女子が余計喜んじまう……! ナニモンだよ沢田!】
えええええええ〜〜!! そんなにいい体なのっ⁉︎
意外すぎてよだれが……っ、じゃなかった、またしても拡散が免れて良かったね、沢田くん!!
【ああ……お腹見られちゃった。。゚(゚´Д`゚)゚。特に何もしていないのに筋肉つきやすくてすぐバキバキになっちゃうんだよね。昨日なんかお笑い番組しか見てないのに笑ってただけでこうだもの……恥ずかしい体だなあ】
お笑い番組見て腹筋バキバキになるなんて、本当に何者なのよ沢田くん!!
「……裸は面白くないからやめた。次が本当の取引だ」
森島くんは悔しそうにそう言った。
【良かった。森島くんはやっぱりいい人だな。俺の嫌がる顔を見てやめてくれたんだ……(*´Д`*)】
沢田くんは誤解している。
森島くんの心の声は沢田くんへの嫉妬でグツグツのドロドロの溶岩シチューみたいになっているよ。
私はハラハラしながら聞き耳を立てた。すると、
「土下座しろよ、沢田」
森島くんがいきなり本性を見せた!! 今度こそ本気を出したみたいだ。
さすがの沢田くんもここまでストレートに言われたら、森島くんの悪意に気づいただろう。
「土下座……」
「そうだ。『佐藤さんと隣の席にさせてください。お願いします』って言いながら土下座しろ。そうしたら沢田の男気に応じて佐藤さんと席を隣り合わせにしてやるよ」
私は悔しくて拳を固めた。
森島くん、調子に乗りすぎだよ!
沢田くん、断っていいよ! こんなやつに頭を下げる必要なんて──。
【なーんだ、土下座か。心の中でいつもしてるからあんまり抵抗ない(・∀・)】
ちょっと待って沢田くーーーーーん!!! 脳ミソゆるふわすぎるよっ!!
「どうしたの? 景子ちゃん。泣きそうな顔して」
その時、廊下で横から声をかけられた。
振り向くと、杏里ちゃんが立っていた。
「あ、杏里ちゃん! 大変なの、森島くんが沢田くんに土下座を迫ってて──」
杏里ちゃんは眉根に皺を寄せ、すぐにドアをガラッと開けた。
教室の中の二人が驚いたように振り向く。
森島くんは机に片ケツを乗せた状態でスマホを沢田くんに向けていて、沢田くんはその足元で今まさに手をつこうとしているところだった。
「何やってんの? 森島」
「あっ……。こ、これは……【なんで杏里ちゃんが((((;゚Д゚)))))))】」
杏里ちゃんはキリンのような長い足で森島くんのところへ一直線に向かい、彼の胸ぐらを掴んだ。私も慌てて現場へ駆けつける。
「沢田に何してんの? って聞いてるんだけど」
綺麗な顔の女子が怒ると怖い。
バンッと机を叩いた杏里ちゃんに、森島くんはびびってスマホを床に落とした。
「ご、ごめんなさい……。調子に乗ってました……」
「あたしじゃなくて、沢田に謝るんだろ?」
「……はい」
沢田くんが弾かれたように立ち上がった。
情けない顔をした森島くんと、凛々しい顔をした杏里ちゃんの視線が沢田くんに向けられる。
私も沢田くんを見た。
沢田くんは驚くほど澄んだ目をして言った。
「……待って。森島くんは悪くない。森島くんは、ただ俺のわがままを聞いてくれようとしただけだから」
眩しい……。
沢田くんの優しいオーラがキラキラと輝いて、教室中に満ちた。
「沢田……【こんな俺をかばってくれるとは……( ゚д゚)なんなんだよコイツ。神なのか? 仏なのか? バカなのか⁉︎ マジ分かんねえ!!】」
森島くんも目をみはる神々しさで、沢田くんは堂々と佇んでいる。
「許していいの? 沢田。何を頼んだのか知らないけど、
杏里ちゃん、クソ野郎って。相変わらず歯に
すると沢田くんはそっと首を横に振った。
「森島くんは優しい人だよ【こんな口下手な俺にもいつもフレンドリーに話しかけてくれるし(*´ω`*)】」
ああ……沢田くんのハードルの低さが何だか愛おしい。
「……!【沢田……! こいつ、本気かよ……!】」
沢田くんの一言で、森島くんの表情が驚きから真顔へと少しずつ変化し、最後にしゅんとうなだれた。そして。
「わ、悪かった、な……悪ふざけがすぎたよ」
あの森島くんが珍しく素直に謝った。
沢田くんは無表情で、でも心の中ではきっと優しく微笑みながら、暗くうつむく森島くんに手を伸ばした。
森島くんがハッとしたようにそれを掴んで、まさかの握手……。
奇跡だ! 奇跡が生まれたよ、沢田くん!!
【ああ〜〜! それにしてもさっきの杏里ちゃんとかいう人、怖かった……!!((((;゚Д゚))))))) なんか知らないけど俺もついでに殴られるかと思ったよ!! 生還できて良かった。゚(゚´ω`゚)゚。】
私はクスッと笑って沢田くんを見つめる。
カッコ良く決めたと思っていたけど本当はびびってたんだね、沢田くん。
このことは私と沢田くんだけの秘密にしておこう。