博士の描いた絵が、とても可愛い。
このままレシピが増えていけば、エルバの「可愛いレシピ帳」ができあがりそうだ。
――そうだ。明日になったら、畑のコメ草を収穫して、コメを炊いてみよう。レシピ帳に載せるために。
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翌日。
レシピ帳には、コメの収穫方法とともに、博士の可愛らしいイラスト入りの、メモが添えられていた。
《コメ1合(180ml)に対し、水は200ml。2合で400ml、3合で600ml。コメ草のコメは研がなくても、水に浸さなくてもOK。炊いた後は水分が飛びやすいので注意が必要》
博士は、いつもながらに丁寧だ。
植物図鑑の方はどうかな? とページをめくってみると、薬草のイラストと博士の詳しい説明がぎっしり。
――博士は、ほんと有能すぎる。
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エルブ原っぱの解禁を前に、私はアール君と書庫で薬草の本を読んだり、キッチンでママのお手伝い。
シュワシュワを作って、コメを炊いておむすびや雑炊も。最近は新しくオムライスやチャーハンにも挑戦して、パパとママを驚かせた。
レシピ帳も、どんどん賑やかになっている。
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そして、エルブ原っぱ解禁の日。
私は朝から大忙し。コメを炊いておむすびを作り、シュワシュワを用意して、オヤツのリリンゴをマジックバッグに詰め込む。
胸が高鳴って、わくわくが止まらない。
「アール君、準備できた? 早く行こう、エルブ原っぱ!」
「はい、エルバ様」
「ママ、いってきます!」
「ママ様、行ってきます!」
キッチンにいるママに、玄関から声をかける。
「いってらっしゃい、エルバ、アール君。気をつけてね」
「はーい!」
「行ってまいります」
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エルブ原っぱまでは、歩いて十分ほど。
久しぶりの原っぱの風景に、思わずニンマリ。
「わぁ、ひさしぶりの原っぱ! さて、どこを見てまわろうかな?」
「エルバ様。パパ様とママ様からお願いされています。毒草と麻痺草は、絶対に食べてはいけませんよ」
「えっ……わかった。食べずに、畑に植えるだけにする……」
「エルバ様、ガッカリしないでください。食べてしまいますと、またママ様に禁止されてしまいますよ」
「禁止? それは困る……」
「でしたら、食べないようにしてください」
「はーい」
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今日は原っぱの東の奥へ行くことにした。
移動して、マジックバッグからレジャーシートを取り出して、ゴロンと寝転ぶ。アール君も、私の隣に腰を下ろす。
「アール君、ママに借りた薬草図鑑を見よう!」
「はい、見ましょう」
アール君が退屈しないようにと、持ってきた薬草図鑑を開くと、すぐ側に、ギザギザの葉をもつ三枚葉の薬草を見つけた。
「あの薬草、なんだろう?」
「調べましょう、エルバ様」
博士に尋ねてみる。
《あれはキリ草といいます》
効能は?
《すり潰して魔法水と混ぜると、傷薬になります》
なるほど、ありがとう博士。
私が博士と話している間、アール君が図鑑を指さす。
「エルバ様、図鑑のここに載っています」
「ほんとうだ。ギザギザの葉が特徴って書いてある」
その後も、腹痛に効くモニニ草、頭痛に効くズキン草など、たくさんの薬草が見つかるが。私が気になっていた“紫の葉っぱ”や“黄色の葉っぱ”は、なぜかスルーされる。
博士に聞いてみると、それは毒草のドロ草と、麻痺草のジリリ草だった。あれ、もしかしてアール君、毒草のことを知っていて、わざと避けていない?
ふと、足元に落ちていた紫色の実を拾い、博士に聞いたあとで、アール君にも尋ねてみる。
「アール君、この実は?」
「それは……毒のある木の実です。素手で触っては――あっ!」
やっぱり、知っていたんだ。
「さっきから、毒草や麻痺草を自然に避けて、薬草ばかり選んでる。ふふっ、すごい。アール君って、ほんとに物知りだね!」
「えっ……怒らないのですか?」
「なんで怒るの? それより驚いたよ」
博士がすごいのは知ってたけど……アール君も、すごい!
「薬になる草をたくさん知れて、嬉しい! 一人じゃ、こんなに早く見つけられなかったよ!」
「……そうですか。よかった。エルバ様、お腹が空きました。そろそろお昼にしませんか?」
そう言われて、ママから借りた懐中時計を開くと、お昼を過ぎている。
「そうだね、お昼にしよう!」
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お昼の後も、アール君と一緒に原っぱを探検。
見つけた薬草のタネは、ちゃんとエルバの畑に植えた。