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第16話

 博士の描いた絵が、とても可愛い。

 このままレシピが増えていけば、エルバの「可愛いレシピ帳」ができあがりそうだ。


 ――そうだ。明日になったら、畑のコメ草を収穫して、コメを炊いてみよう。レシピ帳に載せるために。


 ⭐︎


 翌日。

 レシピ帳には、コメの収穫方法とともに、博士の可愛らしいイラスト入りの、メモが添えられていた。


《コメ1合(180ml)に対し、水は200ml。2合で400ml、3合で600ml。コメ草のコメは研がなくても、水に浸さなくてもOK。炊いた後は水分が飛びやすいので注意が必要》


 博士は、いつもながらに丁寧だ。


 植物図鑑の方はどうかな? とページをめくってみると、薬草のイラストと博士の詳しい説明がぎっしり。


 ――博士は、ほんと有能すぎる。


 ⭐︎


 エルブ原っぱの解禁を前に、私はアール君と書庫で薬草の本を読んだり、キッチンでママのお手伝い。


 シュワシュワを作って、コメを炊いておむすびや雑炊も。最近は新しくオムライスやチャーハンにも挑戦して、パパとママを驚かせた。

レシピ帳も、どんどん賑やかになっている。


 ⭐︎


 そして、エルブ原っぱ解禁の日。


 私は朝から大忙し。コメを炊いておむすびを作り、シュワシュワを用意して、オヤツのリリンゴをマジックバッグに詰め込む。


 胸が高鳴って、わくわくが止まらない。


「アール君、準備できた? 早く行こう、エルブ原っぱ!」


「はい、エルバ様」


「ママ、いってきます!」

「ママ様、行ってきます!」


 キッチンにいるママに、玄関から声をかける。


「いってらっしゃい、エルバ、アール君。気をつけてね」


「はーい!」

「行ってまいります」


 ⭐︎


 エルブ原っぱまでは、歩いて十分ほど。

 久しぶりの原っぱの風景に、思わずニンマリ。


「わぁ、ひさしぶりの原っぱ! さて、どこを見てまわろうかな?」


「エルバ様。パパ様とママ様からお願いされています。毒草と麻痺草は、絶対に食べてはいけませんよ」


「えっ……わかった。食べずに、畑に植えるだけにする……」


「エルバ様、ガッカリしないでください。食べてしまいますと、またママ様に禁止されてしまいますよ」


「禁止? それは困る……」

「でしたら、食べないようにしてください」


「はーい」


 ⭐︎


 今日は原っぱの東の奥へ行くことにした。

 移動して、マジックバッグからレジャーシートを取り出して、ゴロンと寝転ぶ。アール君も、私の隣に腰を下ろす。


「アール君、ママに借りた薬草図鑑を見よう!」

「はい、見ましょう」


 アール君が退屈しないようにと、持ってきた薬草図鑑を開くと、すぐ側に、ギザギザの葉をもつ三枚葉の薬草を見つけた。


「あの薬草、なんだろう?」

「調べましょう、エルバ様」


 博士に尋ねてみる。


《あれはキリ草といいます》


 効能は?


《すり潰して魔法水と混ぜると、傷薬になります》


 なるほど、ありがとう博士。

 私が博士と話している間、アール君が図鑑を指さす。


「エルバ様、図鑑のここに載っています」

「ほんとうだ。ギザギザの葉が特徴って書いてある」


 その後も、腹痛に効くモニニ草、頭痛に効くズキン草など、たくさんの薬草が見つかるが。私が気になっていた“紫の葉っぱ”や“黄色の葉っぱ”は、なぜかスルーされる。


 博士に聞いてみると、それは毒草のドロ草と、麻痺草のジリリ草だった。あれ、もしかしてアール君、毒草のことを知っていて、わざと避けていない?


 ふと、足元に落ちていた紫色の実を拾い、博士に聞いたあとで、アール君にも尋ねてみる。


「アール君、この実は?」


「それは……毒のある木の実です。素手で触っては――あっ!」


 やっぱり、知っていたんだ。


「さっきから、毒草や麻痺草を自然に避けて、薬草ばかり選んでる。ふふっ、すごい。アール君って、ほんとに物知りだね!」


「えっ……怒らないのですか?」


「なんで怒るの? それより驚いたよ」


 博士がすごいのは知ってたけど……アール君も、すごい!


「薬になる草をたくさん知れて、嬉しい! 一人じゃ、こんなに早く見つけられなかったよ!」


「……そうですか。よかった。エルバ様、お腹が空きました。そろそろお昼にしませんか?」


 そう言われて、ママから借りた懐中時計を開くと、お昼を過ぎている。


「そうだね、お昼にしよう!」


 ⭐︎


 お昼の後も、アール君と一緒に原っぱを探検。

見つけた薬草のタネは、ちゃんとエルバの畑に植えた。


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