この世界では、十六歳を迎えると成人とされる。私もついにその年齢を迎え、大人の仲間入りを果たした。
成人になったことで、ずっと気になっていたことを両親に尋ねる機会を得た。
それは、魔法都市サングリアの話に、私は子供の頃から興味を抱いていたけれど、ママはいつも「エルバは気にしなくていいのよ」と答えるばかりだった。
今日の昼食後、休みの日のパパとママ、それからアール君と一緒に、ようやくその謎を解く時間が訪れた。
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魔法都市サングリアは、独特の社会を持つ。
この都市では、人間と魔族の交流はなく、驚くべきことに、通貨という概念が存在しない。税金も家賃も不要で、必要なガス、水道、電気といったものはすべて、魔法で賄われているのだという。
取引は、物々交換が主流だ。
たとえば、獣人族は森でモンスターを狩り、食料や毛皮を手に入れる。鬼人族は井戸を掘り、コメ草や野菜を育てている。そしてエルフやドワーフ族も似たような生活を送り、それぞれの得意分野で物々交換に貢献している。
「そうして、都市に暮らすみんなが自分たちの得た物を持ち寄り、魔女や魔法使いが作る魔導具や薬と交換しているのよ」とママは話してくれた。
私たちの食卓に並ぶコメ草も、きっとそうやって交換されたものなのだろう。
「そういえば、コメがなかった頃のご飯ってどんな感じだったの?」
「そうね、芋やパン、スープ、野菜ばかりだったわ。でもエルバはパンや芋が好きだったから、特に気にしていなかった、みたいだけれど」
「たしかにそうかも」
今では、コロ鳥の卵雑炊やモンスター肉入り雑炊、そしておむすびまで、種類豊富な料理が食卓に並ぶ。
「エルバコメ」という名前も、ママがつけてくれた。ママが嬉しそうに微笑むたび、私は何も言えなくなってしまうけれど――。
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「フフッ」
ママが急に笑った。
「どうしたの?」
「嬉しいのよ……」ママは遠い目をしながら語り始めた。
「昔、私たちは人間に利用され、傷ついてきた。何百年も変わらぬ生活を送るだけだったわ。でもね、エルバ。あなたがもたらしてくれた”新しい風”のおかげで、今はみんなが何かに夢中になり、新しいものを作り出しているの」
「そうだな。都市の住人たちは笑顔が増えた」とパパも続ける。
「ええ。表情が明るくなったわね」
ママとパパの表情を見つめながら、私は胸の奥が温かくなるのを感じた。
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その日の夕食の話題は何を食べるかだった。
「エルバ、アール。何か食べたいものがあるか?」
「僕はエルバ様の希望で構いません」
とアール君がきっぱりと言う。
「ええっ、私?」
少し悩んでから、ふとアイデアが浮かぶ。
「コムギンを使って、うどんを作るのはどう?」
「うどん?」
そこで私は、コムギンを使ったうどんの作り方を説明した。
「コムギンに水と塩を混ぜて練り、2~4mmの厚さに伸ばして、5~8mm幅に切る。それをたっぷりのお湯で茹でるの」
「うどんには何をつけて食べるの?」
「温かいうどんなら、雑炊の時みたいにピコキノコで出汁をとって、コロ鳥の卵を回し入れるとか、生の卵を落とすのもいい。冷たいうどんにするなら、濃いめに出汁をとれば美味しいよ」
こうして、私たちはみんなでうどんを作り、その味に驚いた。後日、都市にはコロ鳥の卵とじうどんをはじめ、釜揚げうどんや肉うどんまで登場することになる。
「これから先、パスタやラーメンなんかも作れる、ようになるかもしれないね」
と、私は密かに期待している。