これが、異世界チート!
自分の能力にあらためて驚いていたけど、ふと視線を落とすと――レンモンの隣に、“枝豆”らしきものが生えていた。
「博士、これは?」
《エダマメマメという、マメ科の野菜です》
「食べられる?」
《食用です。食物繊維が豊富です》
「やった! たぶん、枝豆だ!」
枝豆は、塩ゆでにすると最高に美味しいおやつになる!
スーパーで見かけると、つい買っちゃうし、枝豆ごはんや卵焼きの具にしたり、料理の彩りにもピッタリ。
私はさっそく博士から種をもらい、エルバの畑に植えた。
⭐︎
シュワシュワを飲んで、疲れた身体と魔力が回復した私たちは、目的地・シュノーク古城へと向かう。
いくつかの畑と野草地を越えた先、ローヌの森の中にあるという。
――クゥッ、ワクワクしてきた!
「さて、色々回復したし、アール君、出発しよう!」
「はい。ローヌの森にある、シュノーク古城へ行きましょう!」
私とアール君は、“身消しのローブ”を羽織り、ホウキにまたがる。そして魔力を集中――
「エルバ様、魔力があふれていて不安定です。落ち着いてください」
「あふれてる? わ、わかった! 抑える……ふぅ、ふうっ……どう、アール君?」
「魔力、ある程度抑えられました。あとは僕に任せてください」
「ありがとう!」
その言葉に、私は地面を蹴って空へと飛び上がる。
ホウキに乗った体が、ふわりと浮かぶ。
(よし、上手くいった! でも、まだ気は抜けない……)
「行きましょう、エルバ様!」
「うん、いこう、アール君!」
⭐︎
原っぱから数分。ホウキで空を飛び、私たちはローヌの森の前に到着した。
「やっと着きましたね」
「……えへへ、来るまでがもう楽しかったね!」
「エルバ様は、ずっと楽しそうでしたよね」
「アール君だって楽しんでたじゃない!」
途中、コムギン以外にも、野生のトマトマ、レタスス、キャベンツ、トトロモコシを見つけて、博士に教えてもらいながら種をゲット!
トマトマはトマト、レタススはレタス、キャベンツはキャベツ、トトロモコシはトウモロコシ!
色とりどりの野菜畑ができそう……だけど、全部、私の苦手な野菜ばっかり!
(でも、発見するのは楽しい~!)
⭐︎
「エルバ様、こっちに道ができています。このまま進みますか?」
「うん。ロープば置いて、この道を進もう」
「了解です。……でもエルバ様。ここまで、“あれ何これ何”って、たくさん立ち止まってましたから、時間かかりましたね」
「うん。でもその分、いっぱい見つけられたし!」
私の反省しない返事に、アール君はふぅっとため息をつく。二本の尻尾を揺らしながら、私の前を歩いていく。
舗装された道を歩くこと数分――
「……ウヒョォ」
変な声が漏れた。
だって、目の前に現れたのは、森の中に建てられた、苔とツタに覆われた古びた城――シュノーク古城だ。
(なんだか、幽霊屋敷みたいだけど……こ、こ、こんなところに……人が住んでるの?)
……なんだか、まわりの空気も冷たい。
「ねぇ、アール君……この古城、お化けいそうじゃない?」
「……はい。エルバ様の言うとおり、なにか“います”ね」
「ヒィ――! やっぱりいるのぉ!?」
私はお化けが苦手なのに〜! カタカタと震える私を見て、アール君がふふっと笑った。
「ふふっ。お化けが怖いのですね?」
「へっ? こ、怖いよ! だって、実体のない“お化け”だよ!?」
私がそう言っても、アール君は城のまわりを調べましょう、と歩き出す。
「ま、待ってぇ! 置いていかないで〜!」
「あっ、エルバ様、そこ!」
「な、なにっ!?」
私の恐怖を面白がってる……よね、絶対。
「エルバ様、ここと、そこ……それに、あそこにも何かいますね」
次々と指差され、恐怖倍増!
(あうっ……アール君を抱っこして安心したい~! お願いしたけど断られたよ……とほほ)
⭐︎
「待って! アール君、どこまで行くの?」
なんでだろう。シュノーク古城、なんだかすごく怖い。
震える足で、アール君の後を追っていると――
「《…………》」
「ん? アール君、今なんか言った?」
「いいえ。なにも申し上げていませんが?」
そのときだった。
《……ウ、ウウッ、なんとも懐かしい魔力の気配がする。近くにいるのか? この魔力を持つもの……はやく、余のところに来てくれぬか!》
――地を這うような低音の、重たい声が、頭の中に響いたぁあああ!
「うぎゃ――ああああああ!! アール君っ! へ、へ、変な声が聞こえたよぉ~!!」
「……はい、聞こえましたね」
「ふへ? アール君? ……な、なんでそんなに冷静なのぉ!?」