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第25話

「《何百年ぶりだろうか……余の語りに反応する者に出会うのは。――だが、ここにいては危ないぞ》」


「危ない? やっぱり、お化けが出るのかのぉ?」


 私は思わず怖さに、アール君をぎゅっと抱っこする。


「《もちろん、お化けはおる。だが、それはこの城の元の住人たち。さほど怖いものではない。――本当に恐ろしいのは、この古城に住む娘。アマリアという女だ》」


 アマリア……? その名前って、たしか――『ドキパラ学園』のヒロインじゃなかった?


 みんなに愛される、あのヒロインが“怖い”……?


「あの、どうして、その人が怖いのですか?」


「《ふむ。余の話を聞きたいか? よかろう、話してやろう――あれは、余が初めてアマリアという娘に会ったときのこと。いきなり“魔王サタナス・ロザリオン三世”と……この余の名を呼んだのだ。》

《かつては人の世界でも余の名を知る者もいた。だが、表舞台から姿を消して数百年……今や、魔族を除いて余の名を知る者などおるまい》」


 ――間違いない。この声の主は、魔王サタナス様だ。

 それに“アマリア”の名前。……やっぱりここは、『ドキパラ学園』の世界なんだ。


 まあ、確定したところで、モブの私には関係ないし、時間もない。本来の目的を達成して、さっさと帰ろう。


「サタナス様」


「《なんだ》」


「本日、私がここを訪れたのは、あなた様に用があるからです。――あの、魔王様は今、どちらにいらっしゃいますか?」


「《ほう。余に会いに来たと申すか。なぜ、そなたが余の居場所を知っているのか気になるが……まあよい。まずは、要件を申してみよ》」


「はい」


 ――「魔王を辞めてください」と伝えようとしたその時。足元から、ぷにぷにの肉球がツン、と私の足をつっついた。


「どうしたの? アール君?」


「エルバ様、お待ちください。いまここで願いを申し上げるのは、無礼にあたります。これは大切な願いです。ぜひ、魔王サタナス様の御前で直接、申し上げましょう」


 ――直接、魔王様の前で?

 うーん。小説では、サタナス様は“かなりのイケメン”だった気がする……見たいかも。


「……いいよ、わかった。姿消しのローブもあるし、会いに行こう。えっと、サタナス様はどこに?」


「《余の居場所か? そなたの横にそびえる、蔦の巻きついた塔。あの最上階だ》」


 最上階……?


 私はサタナス様の言葉に従って、城を見上げる。

 すぐ隣に、今にも崩れそうな円形の塔が、空高くそびえ立っていた。


「この塔の最上階に、サタナス様はおられるのですね……わかりました。準備をしてから、向かわせていただきます。少しだけお待ちください」


「《うむ、待とう》」


⭐︎


「アール君。いまから、レンモンのシュワシュワで魔力を回復して、サタナス様のところへ向かおう!」


「はい、エルバ様」


 私はアイテムボックスから空の水筒を取り出し、自分の畑を開く。畑からレンモンと、赤い実――“シュワシュワの素”を収穫する。


 あとは簡単。

 水魔法で水筒に水を注ぎ、そこに赤い実を落とすだけで“シュワシュワ”が完成! さいごに、輪切りのレンモンと、氷魔法で作った氷を浮かべれば、レンモンのシュワシュワの完成だ。


「いただきます! んん〜! 冷たくて美味しい、最高〜!」


「はい。冷やして飲むのは最高です!」


 レンモンのおかげで、ピカッと魔力が回復した。


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