皇帝自ら教会の地下牢にいる私を迎えにやって来てくれた。聖女であり、今回の魔物討伐の功績はもちろん、公爵令嬢に対する
さらに今回の幻狼騎士団が最後まで守り抜いた
すでに帝都には、ある噂が広まっている。
「幻狼騎士団への無茶な討伐命令も、教会上層部による
これらの噂を流したのは、私の使用人のロロと、皇帝が裏で情報を回したからだ。
それと身を隠した幻狼騎士団が、置き土産として旅の途中で広めたものだった。もっとも全て事実なので、裏工作とか
帝国と教会の間に
ルイス皇帝と私を乗せた馬車は、キャベンディッシュ家ではなく皇宮、皇族の居住区へと向かった。
使用人たちに出迎えられ──私はそのまま風呂場へと連行させられた。これは恒例行事のようなものだ。なぜか使用人たちに好かれており、訪れるたびに歓迎される。されるがまま体や髪を
もともと公爵令嬢として幼い頃から使用人がいるので、この辺りは抵抗はない。もっとも野宿経験もあるので、一人で着替えも出来るのだけれど……。
私が大人しくしているのを良いことに、使用人たちは「お肌が荒れているのでクリームを塗りましょう」だとか「髪を整えるほどに切っておきますね」など世話を焼いてくれる。
「アイシャ様の灰色の長い髪は、毎日手入れをすればもっと
「頬は赤ちゃんのように柔らかくて、成長しても愛らしいですわね」
私の母は皇族──というかルイス皇帝の妹でもあるので、別段文句を言う者もいない。それに皇帝の姪という理由で、何かと皇宮に招かれたのだ。
それはキャベンディッシュ家に居場所がない私の事を考えてくれた、皇帝の
なにせ母の遺品は、公爵家にはないのだから。
情報戦において、私はあまりのも無知だった。だからこそ前回の私は、不足した情報の中で最悪の選択を選んできたのだ。自分の視野の狭さ、愚かさに、ため息しか出ない。理由はどうあれ時間が巻き戻った以上、前回のような失敗は絶対にしない。私はそう強く誓った。
髪と体を洗われたのち、私は広々とした湯船に浸かった。「ふへぇ」と声が漏れる。
(……湯に肩まで浸かるのは、いつぶりかしら)
キャベンディッシュ家では使用人と同じ扱いなので、浴槽にたっぷりのお湯を使う
体の疲れを癒した後はスキンケアなどによって、磨かれ、髪を乾かしてもらい、ドレスに
ベルトラインのドレスは、ウエストで切り替えしがあり、腰のあたりからスカートがボリュームを持たせているのが特徴だ。赤紫と金の刺繍が
姿見鏡で確認するが、映っているのはどこからどう見ても、お姫様だ。さすが
豪華なドレスを身にまとって、ようやく私は自分が公爵令嬢だったと実感する。公爵令嬢としての
「アイシャ様、旦那様がお待ちです。こちらに」
皇帝陛下直属の執事に声を掛けられ、私は頷いて答えた。
(……伯父様と再びお茶会ができるなんて、夢のようだわ)
部屋を出たところで、何者かが執事と私の前に飛び出してきた。
「!?」
私と執事は一瞬身構えるものの、廊下を
金髪のふわっとした髪の少年。
「アイシャ。婚約者に相談の一言もないとは、ずいぶんじゃないのか?」
「これはヴィンセント=シグルズ・ガルシア殿下、お久しぶりです」
ドレスの
「それで? 私の質問の返事は?」
相談? 私は小首を傾げた。牢獄から助けを求めることだろうか。ひとまず彼の反応を見るため、話を
「殿下の仰っておられる話が、何に対してなのか……私にはわかりかねます。それに何をご不満なのかも話してくださらなければ分かりませんわ」
「なっ──ッ! それが未来の夫にかける言葉か!? お前が牢獄に