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第20話 皇帝陛下毒殺事件が起こる前に

盤上ばんじょうごととは思い切ったな。では手始めに何をする?」

「教皇聖下の幽閉ゆうへいされている場所に私が向かい、救出します」

「確か彼は千年塔に居るのだったな。……ではあの難攻不落なんこうふらくの塔にいどむと?」

「はい」

「ならば、二週間後の祭りの夜はどうだ? その日は花火も打ち上がり、帝都だけではなく、塔周辺のラグナグ都市でも、盛大な宴を行うだろう。千年塔の周辺全域に警備を広がるため、千年塔そのものは手薄になる」

「ご助力ありがとうございます」

「しかし、あのベネディックトゥス教皇が暗殺とは……。あの男、本当に運だけはいいからな。殺したって殺せるものではないのだが……」

「私も同じ意見です。けれど、何らかの策で必ず殺しに来るでしょう」


 伯父がそう呟くのも無理はない。ベネディックトゥス教皇は、歴代教皇の中で強運を持つ方だ。その代わり帳尻ちょうじりを合わせるかのように、周囲に不運が舞い込むのだ。それがいつしか不幸を呼び込むと噂され、辺境の地で静養する事となった。──というのは表向きの理由だが、実際は教会の権限を教皇聖下から奪うため幽閉しているのだ。


「陛下も今日から警備を厚くしてくださいませ」

「ああ、すぐに手配しよう。毒殺の可能性もあるので食事も気を付けるように通達を出す」

「はい。それと陛下には、この魔導具を持っていてもらいたいのです」


 私は白銀の腕輪を虚数空間ポケットから取り出す。傍から見れば何もないところから、腕輪が出てきように見えるだろう。


「魔道具か……。それも付与魔法が掛けられているな」

「はい。少しは陛下のお役に立つかと思います!」


 皇帝陛下の毒殺、暗殺、爆殺エトセトラをラを防ぐ方法がこれだ。魔道具による完全防御。あらゆることを想定して、作り上げた私の自信作である。


(時間停止の対策まで完璧!)

「……この腕輪の鑑定をしたが、《治癒魔法》《物理攻撃無効化》《魔法攻撃無力化》《時間魔法耐性》《迎撃魔法》《毒耐性魔法》……多重魔法の重ね掛けされた付与が掛かっているのだが、いったいどこで手に入れたのだ?」


 白銀に煌めく腕輪には宝石の類は一つもなく、細やかな魔法文字が描かれている。装飾らしい飾り気もないシンプルなものだが、付属されている魔法の情報量に伯父も手が震えていた。


「あ──えっとですね……」


 私が作りました──と気軽に言えない雰囲気だ。言葉に詰まる。


「国家級ともいえる出来栄えだ」

「え? 私の鑑定だと《三女神の加護》として毒消しの効果しか見えなかったのですが、そんなにすごいのですか?」

「三女神の加護? なるほど、アイシャの鑑定眼レベルではそこまでしか見えないのだろうが、私の鑑定眼はレベル99だ。それから見て、この魔導具の性能は「素晴らしい」の一言に尽きる。たとえ致死量ちしりょうの毒をあおっても耐えられるだろうし、首をはねられても超再生するだろう」

(やり過ぎた……!)


 調子に乗って付与魔法をかけ過ぎた。牢獄にいる間、暇だったのもあり、思いのほか凝ってしまった。普通に考えて、致死量ちしりょうの毒で死なずに、首をはねられても再生とか、ありえない。


「回数限度はあるだろうが、恐らく私の所持している魔導具でもっとも効果が高いものだ。どこで手に入れた? いや、まさか……魔導具生成を習得したなんてことは……」


 私は視線を逸らすが、それで不問にされる訳もなくジッと見つめる叔父に白旗を上げた。


「実は暇だったので試しに有り合わせの金属で作ってみました。製作時間は二時間です。えへへ」

「…………」


 笑ってみたけれど、効果はなかったようだ。

 伯父は無言──いや、どちらかというと固まっている。やっぱり今からでも、拾ったものだと言っておいた方がいいだろうか。今更ながらに私の背筋に滝のような汗が流れ落ちる。


「あのー、陛下?」

「うちの姪、天才すぎる。後、私の為に……、なんていい子だ」


 伯父は滂沱ぼうだの涙を流していた。

 記憶を遡っても、伯父がここまで涙もろくなかった気がするのだが、喜んで貰えたなら嬉しい。それにしてもあの魔導具が国宝級ということに驚きだ。今後商品化していけば、資金源になるかもしれない。


《|世界記録盤《アカシック・レコード》の閲覧権限》の検証けんしょうするため使用してみてよかった。得られる情報はかたよっているが、それでもは役に立つ。もっともこれらの恩恵は特殊能力エクストラ・スキルがあってこそだ。

 なぜそのような稀有けうな能力が私にあるのかは、今のところ不明。


 とにもかくにも今優先すべきことは、教皇聖下の救出である。伯父からできうる限りの情報を集めてもらうことになった。次に皇帝の暗殺を防ぐため、皇城の居住地を含めて結界の強度と、トラップを仕組んでおいた。僅かな殺気も反応する優れものだ。

 最後となってしまったが、ヴィンセント皇子との婚約解消について話を詰めた。

 次に私がカップに口をつけた頃には、紅茶はすっかり冷めていた。


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