真夜中の三時過ぎ。
むくり、とロロは黒猫の姿で体を起こす。シングルのベッドに二人は狭いのでロロは猫の姿になったのだ。アイシャはモフモフを
「ロロぉ……」
安心し切った顔で眠っている主、アイシャを前に前足でちょんちょん、と
ロロは不服だったが、それでも主の意向を尊重して
(本当にお嬢様は愛らしい。しかし、戻ってこられたお嬢様は……なんというか以前よりも
主の姿を
(
かなり物騒な思考だが、ロロにとってアイシャ以外の存在などどうでもよかった。「すうすう」と規則正しい寝息をたてているアイシャを見てそっと、頭をなでる。
「チョコレートタルト、美味しいぃ……むにゃ」
熟睡している事を確認してから、彼女の腕からするりと抜け出す。ロロの仕えていたトリシャ=シグルズ・ガルシアの
だからこそ、キャベンディッシュ家がアイシャに非道な行いをするたびに、殺意が増していった。しかし彼らを殺してしまえば、アイシャはロロが殺害したと気づくだろう。
彼女は
(今朝の男を殺そうとした時のように……。いえあれは失敗だった。それどころかお嬢様と出会わせてしまった)
絶対に会わせまいとした結果なのだから、なんという皮肉だろうか。
ぐっすり眠っているアイシャの隣を抜けて、猫の姿のロロはベッドから降りる。そのまま静かに部屋を抜けるとアイシャが使っている部屋へと忍び込んだ。
アイシャのベッドに眠る男は、身じろぎ一つしない。
カーテンの
「
眠っていた男は片目をロロに向けた。
「お嬢様が貴方を生かしたのなら、何も言うつもりはないわ。……けれど、父親を名乗るつもりなら、ここで息の根を止めます」
「そんなつもりはないさ。資格もない」
ロロは爪を引っ込めた。どうやら男の言葉は本当にそのようだ。この屋敷に運ばれた段階で、男の傷は完治していた。それでも意識を失ったフリをしていたのは、アイシャと顔を合わせないためだったのだろう。
「……どうやら本心のようね。でなければ私の攻撃など簡単に避けていたでしょうし」
「まあ、トリシャとの約束を守れなかったんだ、殺されても文句はなかったさ……」
男は
「トリシャが亡くなった土地で果てるのも悪くないと思ったけれど、まさか娘に救われるとはね。いや、ほんと
「本当です! お嬢様ってばこんな得体の知れない者を運んで治療までするのですから、信じられません!」
ロロは
「そうだな。特に異性に関していうなら、もっと警戒した方が良い。拙者が言うのも何だが、あんなに可愛らしくてこの先大丈夫か? 天使の類だぞ、あれは!」
「お嬢様の愛らしさに関してだけは、同意します。害虫は貴方ともども殺しますので、ご安心ください」
ニッコリと笑っているが、ロロの目は殺意に満ちていた。今にも男を今にも噛み殺しそうな勢いだ。