私のハッキリとした言葉に、継母であるヘレナは顔色が真っ青になった。リリーは余り状況を理解していないのか、小首を傾げている。この子は本当に察しが悪いようだ。
「陛下はお忙しいというのに、なんてことを……!」
「身内である陛下に相談するのは、ごくごく自然のことではありませんか?」
「そ、それは……ッツ」
私が皇帝陛下に話すとは、
「え? お姉様は皇族の血を引いている? ならなんでヴィンセント殿下と婚約したのですか! 私に譲ってください」
「譲るも何も、勝手に父様が決めたことでしょう」
「なら、父様にお願いしますわ!」
婚約破棄をさせるため「アイシャは悪役令嬢」という噂をリリーが流し出すかもしれない、と少しだけ不安になった。だが賽は投げられたのだ。それならそう来ることも考えて手を打つことにしよう。
幸いにも陛下からある程度、派手にやってもいいと許可は貰っている。
「お姉様、後で悔しがっても遅いですわよ!」
(うん、それはこっちのセリフなのだけれど)
捨て台詞を吐いたリリーは、そのまま
だが本当の悪夢はこれから始まるのだ。
「私が今まであなた方の行いに耐えてきたのは、
「約束? そう! そうよ。私たちに逆らえば──」
「その約束を守る必要はありませんので、勝手にさせていただきますわ。もちろん、婚約のことも含めてですが」
センスを強く握りしめながら、
「約束を自ら破るなんて、なんて浅ましい子かしら。さすがはあの女の娘ね」
「先に約束を破ったのは貴方方ですよね。十八歳になったら返してもらうと約束していた母の遺品を勝手に売り払ったのですから、
「──ッツ!」
継母の顔が
あるわけがない。すでに商人に売り払ってしまっているのだから。ここに戻る前に商人を訪ねたが、すでに店はなく行方もわからなかった。
「お話は以上でしたら失礼します」
「ま、待ちなさい」
手を伸ばす
「暴力に訴えるのでしたら──私もそれ相当のお相手をしますよ。それでもよろしいですか?」
後方支援とはいえ戦場慣れした私と、剣を握ったこともない継母では勝敗は明らかだ。軽く
「キャベンディッシュ家に逆らったらどうなるのか、後悔しても遅いわよ!」
「ふう」と安堵のため息が漏れる。
危なかった。後少しでも彼女がここに残っていたなら、部屋の壁を壊してでもロロとレオンハルトが出てきただろう。それほどまでに二人は怒っていた。
しかし妙な事に途中から殺意が三つ感じられた気がしたのだが、気のせいだったのかもしれない。