「親を大切に思うことはあたり前のことですわ。衣食住と何不住なく暮らせるのは、お父様とお母様のおかげですもの。お姉様が
「リリー……」
「それに聖女の力はいずれ私のものになるとノウス枢機卿が仰っていましたわ。殿下におかれましても、週に二度のお茶会で楽しくお話をさせてもらっていますの。また言われてしまいますわ。
勝ち誇ったかのような顔をしているが、私にとっては耳よりの情報だった。教会上層部が怪しいのは分かっており、不正に関わったという証拠集めが必要だったからだ。それをリリーはあっさりと言い出したのだ。しかも自慢気に。
幻狼騎士団のことを馬鹿にされた時は、怒りが生じたものの私はすぐに冷静になれた。騎士団であるローワンが生きている、その事実が私の感情にブレーキを掛けてくれたのだろう。
(この子、前回はもっと
それにしてもノウス枢機卿の名前が出てくるとは意外だった。教会において教皇の次に権力を持つのが、
分からないことを考えても意味はない。そう気を取り直して、私はとぼけた振りをすることにした。
「あら、ノウス枢機卿とはどなたですか? お会いしたことがありませんが……実在する方なのでしょうか?」
「まあまあ。教会に身を置く聖女が枢機卿の名もご存じないとは……。そんなことでは近々聖女の証を
「まあ、まあ! 素晴らしいわ。さすが私の娘ね!」
(偶然? どう考えても目的があって接触してきたんじゃないかしら)
リリーの頭は相変わらず、自分に都合のいい
「それにノウス枢機卿だけじゃありません。ほかにも私のことを認めてくださる方が、たくさんいるのです。毎回、甘いお菓子に美味しい紅茶をご馳走してくださるいい方々ですわ」
「教会でお菓子に紅茶と、はずいぶん贅沢なのですね」
「まあ、お姉様はカフェに行かれたことはないのですか? 教会本部には伺ったことはありませんが、
語るに落ちたというのは、まさにこのことだろう。ここぞとばかりに有難い情報を語ってくれるとは思わなかった。
「それにこれは福音書の導きによるものだと、ユウゴ枢機卿に教えてもらいましたわ」
(福音書? ユウゴ枢機卿? どちらにしても音声録音をしておいて良かったわ)
そっと銀色の腕輪──魔導具に視線を落とす。音声の録音中を示すよう点滅している。私が視線を下げたことで、あと少しで
「旦那様は激情型ですから、鞭を振るうかもしれないわ。そうならないように私が宥めてさしあげましょう。だから、ね。頷いてちょうだい」
「!?」
ゾッとするほどの殺気が私の背後、正確には扉の向こう側から突如発生した。私たちのやり取りを聞いていたロロとレオンハルトの
刺すような鋭い殺気に、背中の冷や汗が止まらない。
私の代わりに怒ってくれるのは嬉しいけれど、ここで荒事は避けたい。もう少し情報を引き出したかったが、ここが引き時だろう。
「……父様に告げ口をしたいのなら、勝手になさってください。数日後には私は陛下に用意していただいた屋敷で暮らします」
「な……っつ!」
「もちろん、私の使用人であるロロは連れて行きます」
「何を……! まさか今までのことを全て陛下に話したのですか!?」
「はい。包み隠さず伝えました。私は公爵令嬢以前に皇族の出です。多少の苦労はすべきかとも思いましたが、ここで学ぶことももうありませんので、出て行かせていただきます」